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カサビアンのサージ・ピッツォーノが語る新アルバムからステージ衣装、地元レスターまで

PROFILE: セルジオ・ピッツォーノ(Sergio Pizzorno)/ボーカリスト、ギタリスト、プロデューサー

セルジオ・ピッツォーノ(Sergio Pizzorno)/ボーカリスト、ギタリスト、プロデューサー
PROFILE: 1980年生まれ、イングランド・デボン州出身レスター育ち。幼い頃はサッカー選手になるのが夢で、地元レスター・シティFCのFWを目指していたが、11歳の時にカサビアンの前身となるバンドを結成し、1997年からカサビアンのメンバーとして活動。大のファッション好きとして知られ、過去には「シーピー カンパニー」や「ジースター ロゥ」とコラボコレクションを制作した PHOTO:NAOKI USUDA

イングランド・ロンドンから150kmほど北に位置する多民族都市がレスターだ。同地で1997年に結成し、これまでリリースした8作のアルバムのうち7作で全英1位を獲得、世界最大級の音楽フェス「グラストンベリー フェスティバル(Glastonbury Festival)」ではヘッドライナーを務めるなど、名実共に英国を代表するロックバンドに成長したのがカサビアン(Kasabian)である。2020年に、結成時からボーカルを務めていたトム・ミーガン(Tom Meighan)と袂を分かち、現在はギタリストのサージことセルジオ・ピッツォーノ(Sergio Pizzorno)がフロントマンを務める新体制で活動している。

10月中旬、カサビアンの12年ぶりとなる単独ツアーのため来日していたサージにインタビューを敢行。7月にリリースしたばかりの8thアルバム「Happenings」についてはもちろん、作詞作曲に関するあれこれ、ファッション好きとして知られる一面、日本と地元レスターへの思いなどについても聞いてみた。

「時には制限がある方が自由なんだ」

ーーまずは、先日リリースしたばかりの8thアルバム「Happenings」について聞かせてください。今作を含めてほぼ全てのアルバムを2〜3年周期で発表していますね。

セルジオ・ピッツォーノ(以下、サージ):ツアーで全世界を回ると最低でも1年半はかかるんだけど、それから自宅に戻ってアルバムに着手するとなると、自然とその周期になるんだ。新しい作品を発表することと同じくらい、ライブは僕たちの活動における大事な要素だから蔑ろにはしたくないし、最速のサイクルじゃないかな。制作期間中は、取り憑かれたように没頭するから人生において最も濃密な時間で、人生そのものが楽曲制作だけのような感覚に陥るよ。

ーーなるほど。その中で、今作は制作にあたって具体的な糸口があったのでしょうか?

サージ:はっきりと作品のビジョンが浮かぶまでは、なるべくリラックスして暮らしているんだ。その中でも、感性をスパークさせるようなインスピレーションは常に探していて、映画をはじめとした芸術や歌詞的な何かに触れると、「OK、準備ができた」みたいな感じで制作が始まるね。そして、大抵は明確なアイデアがある状態で進めていくんだけど、今回は“サイコポップレコード”にしたいと思っていたら、収録曲の「Call」が最初に完成したから、「Call」こそがスパークでアイデアと言えるかな。

ーー収録内容は、全10曲で28分5秒と非常にコンパクトですが、意識されたのでしょうか?

サージ:疾走感がありながらコーラスやメロディは壮大で、それを極限まで短く編集して攻撃的なまでに簡潔な作品にしたかったんだ。ラモーンズ(Ramones、1970~90年代に活躍したニューヨーク・パンクを代表するバンド)のような精神性にダンス・サイケデリックポップのフィルターをかけることで、コンパクトだけど複雑な楽曲群になったと思っているよ。

あとは、多くの人たちがどんな情報もダイジェストに消費している今の時代に対して、僕なりにメッセージを問いかけたんだ。ユーチューブには、名作の映画や小説を数分で解説する動画があるよね。僕からすると、「たったそれだけで作品を理解できるのか」と驚くし信じられないけど、この情報の取得方法が今の人たちには心地がいいみたいだから、それを逆手に取ったんだ。どういうことかと言うと、「Happenings」を制作する段階で頭の中に箱を用意した。この箱の中は自由だけど、箱から出てはいけないーーそう、この箱は“簡潔な作品”という制限なんだ。

ーー“制限こそ創造性を高める”と言いますよね。

サージ:そうそう!真っ白な大きい紙を前にしたら何をすればいいか迷うけど、ノートという枠とペンがあれば自然と文字や絵を描くことに導かれるように、時には制限がある方が自由なんだよね。

ーーでは、どのような状況下で楽曲を生み出すことが最も多いですか?

サージ:不思議なことに、僕自身もいつ、どこから生み出しているのか分からないんだ。朝起きて、そのままギターを手にすると20分後には1つの楽曲ができてしまうこともあるし、特に決まったルーティーンはないね。ただ、僕は誰かが何かを叩く音も音楽に聴こえてしまうし、友人がタバコの灰を落とすタイミングもリズムと捉えてしまうから、とにかく敏感なんだと思う。同時に、人は毎秒、毎分、毎時間、常に何かしらのインスピレーションに触れ続けていることを理解している。“世界を感じる”とでも言えばいいのかな?その状態で映画を観ちゃうと一瞬のストリングスの音ですら過敏に反応してしまうから、正直疲れるけどね(笑)。

あとは、今こうして東京を訪れて散歩中に見つけたジャケットを羽織っただけでも、マインドに変化が生まれてギターの持ち方が少し変わるから、ある意味で洋服もインスピレーションの源だね。こういう話をすると、ファッションに興味がない人から馬鹿げた考えだと思われてしまうのは分かっている。でも、僕のように人前でパフォーマンスをする人間にとっては、ステージに立つ前に靴を履き替えるだけで、信じられないくらい気持ちが切り替わるものなんだ。自分の好きな洋服を身にまとうことで生じる気持ちは、本当に大切にすべき。クソみたいな気持ちの時でも、クソみたいな格好をしている時でも、好きなアイテムを身に着けるだけで気分が一新するんだよ。

「小さい頃からファッションが自分の一部だった」

ーーそうおっしゃられるということは、ステージ衣装には並々ならぬこだわりがあると思いますが、いかがですか?個人的には、今年の「グラストンベリー フェスティバル」の衣装が最高でした!

サージ:「これを着てほしい」と言われても着たくなかったら着ないタイプだから、ステージ衣装は基本的に自分で用意するようにしていて、忙しいときだけスタイリストにお願いするね。力の入れ具合は、普段の格好が10段階の“7”だとしたら、ステージが“10”で、スタジオだと“2”かな(笑)。「グラストンベリー」の衣装は、デザイナーのフェイ・オークンフル(Faye Oakenfull)が手掛けた「リーバイス(LEVI’S)」と僕のコラボによる一点モノのギリースーツで、あれを着てステージに立てたことは本当に誇りさ。

ーーライブ映像を観ていると、足元が「コンバース(CONVERSE)」をはじめとしたスニーカーを履かれていることが多く、今日の足元も「ステューシー(STUSSY)」のコラボモデルです。これも一種のこだわりなのでしょうか?

サージ:「コンバース」は、セットアップと合わせたらクールでロックンロールな感じがするし、スキニージーンズにもバギージーンズにも合うし、どんな衣装でも履くだけで全体の統一感が生まれる魔法のようなスニーカーだから大好きなんだ。それに、ステージ上で動きやすいのが何よりも大きなポイントだね。ステージで履きたいブーツもいろいろあるんだけど、動き回ったりジャンプしたりしたら脚を痛めてしまうから(笑)。

ーーフロントマンとして立ち回るようになった2021年以降、フロントマン然としたステージ衣装を意識するようにはなりましたか?

サージ:もともと子どもの頃から洋服が大好きで、ステージ衣装には前々からこだわってきたけど、今はより意識するようになったかな。ファッションは自分のクリエイティビティの一環であり、表現の一種であり、形成する一部であると強く思っている。というのも、母親はいつもスタイリッシュでエレガントだったし、叔母が洋服屋を営んでいたんだよ。彼女は先見の明がある人で、イギリスでは手に入りづらいフランスやイタリアの洋服を仕入れてファッションショーを行ったり、オリジナルのビジュアルを作ったりして、僕は小さい頃から手伝っていたからファッションが自然と自分の一部になったんだ。

偉大なアーティストは、それぞれがオリジナルのファッションスタイルを持っているよね。たとえば、カート・コバーン(Kurt Cobain)に代表されるグランジファッションは、本来はアンチテーゼから生まれたスタイルだけど、彼のカリスマ性もあってクールに変貌した。オリジナルになるためには、全て古着屋で買ったものでもいいし、特にブランドにこだわる必要もないし、何を組み合わせたらコーディネートとして面白いかなんだ。逆を言えば、ファッションセンスがイマイチなアーティストは、音楽的にも思うことがある(笑)。とにかく、クリエイティブなアイデアをファッション的な形に表すことができるなら、より良いことだよ。

ーーちなみに、今回の来日公演の衣装は?

サージ:東京公演初日に着ていたジャケットは、イギリスの郵便局員が着るようなものを日本の古着屋で3000円で購入したというおかしな話。ジーンズは、“S”から始まる韓国のブランドのもので、名前は思い出せないけど作りがピカイチなんだ。トップスは……妻のクローゼットから勝手に拝借したもので、バレたら怒られるから内緒ね(笑)。東京公演2日目は、サイズ感が気に入っている「キス(KITH)」のニットジャケットと、架空のホテルブランド「レイト チェックアウト(LATE CHECKOUT)」のTシャツを着たよ。

「日本に滞在中、生まれ育ったような錯覚を覚える」

ーーカサビアンは来日公演が多いですが、プライベートでの来日経験はありますか?

サージ:17回ほど来日しているんだけど、実はプライベートの旅行は一度もないんだ。ライブ会場に向かう車窓越しの日本ばかり楽しんでいるから、いつかちゃんと旅行したいんだよね。家族とはすでに計画していて、息子も必ず気に入ってくれると思うよ。

ーーあなたの琴線に触れる日本のカルチャーなどがあれば教えてください。

サージ:日本の映画を結構観るし、ダモ鈴木(実験的即興演奏で知られる音楽家で、2024年2月に74歳で死去)とカン(Can、ダモ鈴木がボーカルを務めた西ドイツのロックバンド)のファンで、彼がやっていたことはネクストレベルだと思う。あと、カルチャーとは少し違うんだけど、日本の滞在中はまるで家にいるような、生まれ育ったような錯覚を覚えるんだよね。僕はすごく背が高いから(197cm)、どうしても着られる洋服が限られてしまう。でも、不思議なことに日本の洋服はフィットすることが多くて、そういうときに自分が日本の一部だと感じてしまう。それに、道行く人たちが本当にスタイリッシュで、ファッションが好きな気持ちが通じるというか。これはプロモーションで来日しているからでも、君がファッションメディアの人間だから言っているわけでもないと分かってほしい(笑)。

ーー最後に、日本のファンに向けて地元レスターやロンドンのおすすめスポットを紹介していただけますか?

サージ:ロンドンだったら、ありきたりだけどドーバー ストリート マーケット(DOVER STREET MARKET)は服好きなら間違いなく行ってほしい。カムデン(古着屋やライブハウスで知られるエリア)も定番とはいえ、歩いていたら思わぬお宝に巡り合えることがあるから楽しいよ。ショーディッチ(古着屋が多いショッピングエリア)も歩き回るにはおすすめで、セレクトショップの「グッドフッド(Goodhood)」にはよく行くね。

レスターに関しては、10年前にこのインタビューを受けていればリストを作れたんだけど、オンラインストアの影響で気に入っていた個人店がいくつもなくなってしまったんだ。テナント料が高すぎて、エッジィなセンスがある個人店は店を畳まざるを得ず、センスがある若い子も新店をオープンできない状況で、ショッピングモールやチェーン店ばかりが増えてしまっている。だから、「学生やアーティストにはテナント料などを下げてほしい」と、レスター議会に対して働きかけようとしているんだ。そうすることで、街の外からも人が訪れて地域活性化につながるからね。

ーーそうだったんですね。では、観光名所となるとキング パワー スタジアム(King Power Stadium、レスター・シティFCの本拠地)になるんですかね?

サージ:キング パワー スタジアムは最高だよ(笑)!でも、フットボールに興味がない人もいるだろうから、一般的にはリチャード3世が埋葬されているレスター大聖堂が良いかな。

■Kasabian「Happenings」
●国内盤アルバム
販売中
2860円 / SICP-6580
- 初回仕様限定ステッカーシート封入
- ボーナス・トラック1曲収録
- 歌詞・対訳・解説付き

●配信アルバム
配信中

https://kasabian.lnk.to/JPHappenings

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