現地時間10月25〜30日に開催されたメジャーリーグ・ベースボール(MLB)ワールドシリーズ。今年は大谷翔平選手や山本由伸選手が所属するロサンゼルス・ドジャースと名門ニューヨーク・ヤンキースの対戦とあって、日本列島も連日の熱戦に大いにわいた。
フィールド上の勝者はドジャース、そしてMVPは怒涛の勢いで本塁打を量産したフレディ・フリーマン選手だったが、ではスタジアムの“外”ではどうだろうか?シリーズ期間中は連日、MLBの公式Xやインスタグラムが、球場入りする私服姿の選手たちのパパラッチ写真を投稿。大谷投手や山本投手の姿も捉えられていた。ここではニューヨークを拠点に活動するスタイリスト、渡辺いつか氏を審査員に迎え、“ファッション部門”のMVPを勝手に決めてみた。
WWD:MLBワールドシリーズ、盛り上がりましたね。
渡辺いつか(以下、渡辺):ですね!
WWD:米国ではバスケットボールやアメフトに比べれば「野球人気はそれほどでもない」「大谷選手の知名度は全米に轟くほどではない」とも聞きます。実際のところはどうですか?
渡辺:最近の大谷選手の活躍ぶりは、米国人の皆が気になっていると思いますよ。私自身もヤンキースの本拠地であるNYに住んではいるものの、MLBを観始めたのは、大谷選手の活躍ぶりに注目が集まってからのことです。ちょっとミーハーですね(笑)。私の地元・ニューヨークのヤンキースと大谷選手のドジャースということで、どちらも公平に審査したいと思います。
WWD:では早速本題へ。グラウンド上では敗れてしまったものの、まずヤンキースから1番のファッショニスタを選ぶとするならば?
渡辺:ジャズ・チザム選手です!
WWD:なるほど。少しコアなMLBファンでないと知らない方も多いかもしれませんが、いい選手ですよね。
渡辺:オールブラックのコーディネートがシンプルでありながら、ブリンブリンなジュエリー使いや「ゴヤール(GOYARD)」のボストンバッグの組み合わせが、チザム選手のキャラクターにぴったりマッチしていて、とても格好いいです 。
WWD:チザム選手といえば、“お祭り男”。ヤンキースが崖っぷちで迎えた第5戦では、ライトスタンドの上段に本塁打を叩き込んでナインを鼓舞し、「もしかすると、ここからヤンキースが逆転優勝もあるのでは?」と思わせられました。ファッションの方はかなりオーバーサイズなパンツに、個性的なデザインのサングラス。全体はモードな雰囲気でありながら、そこにポロシャツを持ってくるのが上級者ですね。
渡辺:個人的には、ニューヨークに戻った際のスタイルも印象的でした。個性的なデザインジャケットを難なく着こなしている姿から、自分に似合うアイテムを良く理解しているのが伝わってきて、とてもすてきだと思いました。
WWD:では、逆にブービー賞は?
渡辺:フアン・ソト選手でしょうか。1戦目の入場の際のファッションが気になりました。
WWD:今季のレギュラーシーズンの本塁打は41本、OPS.989(チームの得点の貢献した打撃指標)と素晴らしい成績を残し、アーロン・ジャッジ選手とともにヤンキースの中軸を担った選手でしたが。
渡辺:オールホワイトのコーディネートがとても爽やかで清潔感があるのですが、少しぼんやりと見えてしまいます。サングラスとバックパックがブラックで統一されているので、スニーカーもブラックにすることでまとまりを出すか、あるいは、アクセントとして鮮やかな色味のものを選ぶことでコントラストを出すのがいいと思います。
WWD:パンツのシルエットを少しテーパードのものにすれば、シルエットにメリハリが付いて、もっと洗練した印象になりそうですよね。移籍市場では、大谷翔平のドジャースへの移籍金7億ドル(当時の日本円で約1015億円)を超えるともウワサされているソト選手。26歳と若くしてその打棒はすでに成熟していますが、ファッションセンスも磨きがかかるといいですね。
渡辺:ドジャースのワーストには、同じく26歳の山本由伸投手を選ばせてもらいました……。ファンの皆さん、ごめんなさい。
WWD:ワールドシリーズ第2戦の力投はすばらしかったのですが。
渡辺:コーディネート自体はシンプルで素敵なのですが、ロゴが少し多くて全体的にごちゃついて見えてしまうのが残念に感じました。ほぼすべてのアイテムにロゴが入っているので、例えばインナーの T シャツを無地にすることで、もう少しすっきりとした印象になるかもしれません。それと、T シャツのサイズ感がやや大きめなのと、パンツの裾をハイカットにインする具合が全体的にアンバランスに見えてしまうように感じました。
WWD:山本投手といえば今年、NPBで前人未到の3年連続4冠(勝利数、防御率、奪三振数、勝率の投手主要タイトル4部門を独占すること)を引っ提げてMLBに挑戦しました。1年目の適応にはやや苦戦した印象もあるものの、打ち込まれた後の試合ではすぐに立ち直る、修正力が流石でした。
渡辺:ファッションの方はまだ“修正”の余地アリ、伸び代アリといったところかもしれませんね。
WWD:そして、ドジャースの1番のファッショニスタ、そしてワールドシリーズ“ファッション部門”のMVPは誰でしょうか?
渡辺:大谷翔平選手です!
WWD:なんと!
渡辺:ひいき目なく、全体のバランスもアイテム選びも完璧です!大谷選手の爽やかな印象にぴったりのコーディネートですね。インディゴブルーのデニムセットアップに、ホワイトのTシャツとシューズを合わせていてきれいめな印象です。
WWD:大谷選手は以前はジャージーなどのトレーニングウエアを着ていることが多く、服装には無頓着な印象でした。エンゼルス時代にはチームメイトから「1番ダサい」と言われていたとも聞きます。
渡辺:そうなんですね(笑)。オリーブカラーのニットキャップもアクセントになっています。カジュアルさも程よくプラスされていて、ストリートで見てもオシャレに映るスタイルだと感じました。
WWD:大谷選手は「ボス(BOSS)」のグローバルアンバサダーに就任するなど、その端正なルックスや日本での圧倒的な知名度からファッションアイコンとしても注目度が高まっています。だから、本人の意識の変化や周囲の影響も大きそうですよね。
渡辺:2月に結婚した真美子夫人も、大谷選手のファッションコンサルティングをされているのかもしれません。パンツの丈感もぴったりで、すっきりとしたシルエットがすてきです 。個人的には、前髪を出してニットキャップを被るとバランスが難しく、野暮ったく見えてしまうことが多いと感じます。ただ大谷選手は背が高いこともあり、前髪を出すスタイルでもバランスよく見えますね。
WWD:今季は本塁打数・盗塁数における前人未到の54-59、リーグをまたいでの2年連続の本塁打王を達成した大谷選手。そして念願のWS優勝に加え、(勝手に)ファッション部門でのMVPも獲得してしまいました!
渡辺:今後もグラウンド上はもちろん、その外でのファッションスタイルにも注目していきたいですね。
渡辺いつか/スタイリスト
PROFILE:岐阜生まれ。2010年にオーストラリア・メルボルン大学を卒業後、ファッションPR、スタイリストアシスタントを経て独立。ファッション誌を中心に広告やタレントのスタイリングなど幅広い分野で活動し、2024年に米国へ活動拠点を移す