PROFILE: 有村架純/俳優(右)、岡田惠和/脚本家(左)
有村架純と坂口健太郎がダブル主演を務めるNetflixシリーズ「さよならのつづき」の配信が11月14日にスタートした。本作で有村が演じるのは、傷ついた人を笑顔にする最高においしいコーヒーを世界に広めようと奮闘する菅原さえ子。一方の坂口は、子供の頃から体が弱く多くのことを諦めてきた大学職員の成瀬和正を演じる。事故で最愛の恋人を失ったさえ子と、その恋人に命を救われた成瀬。北海道、ハワイの壮大な風景を舞台に、運命に翻弄される2人の美しくも切ない、“さよなら”から始まる愛の物語だ。
完全オリジナルストーリーである本作の脚本を手掛けたのはNHK連続テレビ小説「ひよっこ」や映画「8年越しの花嫁 奇跡の実話」「余命10年」などで知られる岡田惠和。
これまでに何度もタッグを組んできた有村と岡田。「さよならのつづき」での新たな挑戦について、2人の対話から探っていく。
海外を見据えた脚本
——有村さんが、今回の「さよならのつづき」の脚本を読んで、これまでにない新たな部分を感じたところはありましたか?
有村架純(以下、有村):今回も、岡田さんらしさというものは決して失われずに、でもどこか今まで見ていた視点と違うところからアプローチして書かれているのかなーということは脚本を読みながら感じました。岡田さんの脚本にはいつも「・・・」が多かったんです。でも今回はあまり「・・・」がなくて。ちゃんと主人公のさえ子が、自分の気持ちを言葉にして、誠実に人生を歩んでいくという人物像になっているからかなと思いました。
岡田惠和(以下、岡田):今回、最初はいつも通り書いて、その後に自分で編集するみたいな感じで書きました。いろんな国の言葉に翻訳されるんだろうなと思ったので、訳しにくい言葉にはしないようにと考えました。
——「・・・」を少なくしようと意識されたのでしょうか?
岡田:僕の場合、「・・・」は確かに多いんですよ。それは、演じる役者さんの思う間で演じてほしいという思いがありました。でも、今回はテンポが落ちない方がいいと思ったので、多少、少なくしました。それでも残っていたとは思うんですけどね。
——岡田さんは今回、ハリウッドで行われたバイブルワークショップにも行かれたそうですね。
岡田:世界に通用するキャラクターとは何かというレッスンを受けた後、ハリウッドでショーランナーとして長年活動してきた方に書き上げたプロットを見せてトークセッションをしたりしました。Netflixの仕事は初めてでしたが、今回は全てにおいて新鮮でした。早く脚本を書き始められたことも、脚本を全部書いてから撮影に入れたことも新鮮でした。いつもの連続ドラマは、撮影と並行して脚本を書くことも多く、できあがった映像を見ながら少し脚本にフィードバックしていく、ということもあったんですけど、それは今回はありませんでした。でも、撮影に入る前に、何度も直せる時間もあって、それが楽しかったですね。
——NHKの朝ドラ「ひよっこ」からご一緒されている黒崎博監督にとっても、新しい試みが多かったのではないかと思うのですが、有村さんが撮影現場で何か感じられたことはありましたか?
有村:「ひよっこ」のときも、「映画 太陽の子」のときも、黒崎さんは自分の明確なイメージを持って演出されているという方だと思っていました。でも今回は、いろんな意見を受け止めたり、現場で生まれるものをより細かくキャッチして、一緒に作っていこうという感じを受けました。今回、黒崎監督だけでなく、撮影監督も美術監督もいらっしゃったので、現場には3人の監督がいるような感じがありました。そういう撮影も、黒崎監督も初めてだったのではないかと思います。ワンシーン撮るごとに、3人でこの画はいるのかどうかということを意見交換しながら撮影していたので、きっと柔らかい姿勢で臨まれていたのかなと想像しました。
「岡田さんの作品には人柄とか生き様みたいなものがにじみ出ている」(有村)
——長い準備期間に有村さんと岡田さんのお2人が直接この作品についてお話しされたことはあったのでしょうか。
岡田:直接話すことはそんなになかったんですが、このドラマのプロデューサーの岡野真紀子さんとは本当に時間をかけて話し合っています。だから岡野さんは、この部分はこういう気持ちで書いているっていう正解を100%知っているので、(岡野さんが)有村さんと話されるときも、僕の書いたときの気持ちが正確に伝わっていたと思います。
——有村さんは撮影に入って、岡野さんや監督とやりとりする中で、さらに解釈が深まった部分はありましたか?
有村:そうですね。さえ子というキャラクターについて、周りの皆さんと話している中で、エネルギッシュで自分の気持ちにいつも誠実に向き合って生きている女性像にしようということになりました。私にとっても、さえ子は演じたことのないような女性だったので、さえ子という人を知っていく中で、どんどん魅力的に感じました。
——坂口健太郎さんが演じる大学職員の成瀬和正とのシーンは、繊細なシーンばかりだったのではないでしょうか?
有村:今回も、とても難しい作品を一緒にチャレンジさせてもらいました。過去作品でも坂口さんとは、お互いに傷つけあう役どころだったり、思いあっているけれど、別の人生を歩んでいく役だったりと、一筋縄ではいかないものばかりでした。今回も2人で、「とっても難しい作品だね」って話していました。2人で話し合った結果、「もしかしたら、こういうシーンがあったらいいんじゃないか」と思うところがあって、すごく短い部分ではありますが、追加のシーンを撮ることになったりということもありました。本当に、みんなで一緒になって作っていきました。
——それはどのようなシーンだったんですか?
有村:成瀬が働く大学の施設の中にカフェを作ろうということになって、コーヒーの専門家であるさえ子が偶然、一緒に働くことになるんです。そのときに、2人が一緒になにかを成し遂げるプロセスを見せるシーンがあまりなかったので、それを少しだけ追加してもらいました。2人が恋愛とかそういうことではなく、なんとなく一緒に行動することで通じ合ったという気持ちが、少しだけ濃く見えたらいいのかなっていうことで、追加してもらったんです。
——岡田さんにお聞きしたいんですが、有村さんが演じるからこそ書けた「さえ子」像というものはありましたか?
岡田:何度か一緒にお仕事をさせてもらっているので、やっぱり有村さんに「同じ球」は投げたくないんですよね。しかも、有村さんは僕の脚本も、ほかの方の脚本もたくさん読まれているので、こちらの気合が入ってなかったりしたらすぐにバレてしまうだろうなと(笑)。今回は、いつもと少し違うアプローチをしようとしたことも、有村さんには気付いていただけたのかなと。今までの日本のドラマに登場するヒロインって、か弱く見えたり、耐えるキャラクターだったりという部分があったと思うんですね。今回はそういう要素を書くというよりも、基本的に全部、自分で決定しますっていう潔い感じにしたいなというのがありました。今まで書いたことのないもので有村さんとご一緒できて幸せでした。
——全て書き終わったあとに、一話をかなり書きかえたとのことですが、それは本当ですか?
岡田:書き直しましたよ。でもそれもぜいたくなことで、1回ゼロにしても書ける時間がありましたから。一話の中で、坂口健太郎さん演じる成瀬がどこでどんな風に登場するかということにたどり着くまでに紆余曲折もありました。プロデューサーから「一話の内容を変えませんか?」って言われたときは、一瞬、思考が止まりましたけどね(笑)。でも、一度書いたものを変えていける時間や余裕があるということは、ありがたかったですね。
——有村さんは、初めて脚本を読まれたとき、どんな感覚を受けましたか?
有村:岡田さんから生まれるキャラクターはいつでも同じではないですし、岡田さんのセリフは、いつも心に残るものがあります。今回も、すごく身近に感じられる素敵なセリフがたくさんあるなと思いながら読みました。それとやっぱり、岡田さんの作品には、岡田さんの人柄とか生き様みたいなものがにじみ出ているもので、今回もそれを感じました。
「自分が書くときにしんどい方の道を選ぶ」(岡田)
——途中は厳しいこともたくさんあるけれど、たどり着いたところはとても温かいものになっていて、そんなところも岡田さんらしい脚本なのかなと思いました。最後の着地点については、最初から決まっていたのでしょうか?
岡田:今回はある程度は決まっていたという感じですね。やっぱり書いていく中で役が育っていくということはあります。今回は、最初に設定ができあがったときから、全員きつい道を歩む役だなと思ってたんです。さえ子にしても、坂口さんが演じる成瀬にしても、中村ゆりさん演じるミキにしても。この3人はそれぞれ、答えの出ない厳しい選択をしなくてはいけないし、そういうドラマなんです。厳しいだけに、最終的にどんな選択をすれば気持ちよく終わらせられるかということが大事だったんですね。だから、途中は、それぞれがあんまり楽な方に行かないように、自分が書くときにしんどい方の道を選びました。そうすると演じる俳優の3人にとってもしんどいことになると思うけれど、これはそういうドラマなんだなと自分でも思いました。
——「しんどい方の道を選ぶ」という書き方は、普段はされないことなんですか?
岡田:そうですね。今回は3人ともに、誰も悪くないんだけど、なんでこんなにしんどいことになるんだろうということになっています。さえ子とミキのシーンを書いているときは、自分でも気分が重かったです。ここは勝負なんだという感じで。
——その「しんどい」ところから、結末に至るまではいかがでしたか?
岡田:2回目のさえ子とミキのシーンを書けたのでなんとかなりました。さえ子とミキは、ドラマの中で2回しか会わないんですけど、2人の俳優さんを信じたからこそ書けた感覚があって、うれしかったですね。
——有村さんは、演じてみていかがでしたか?
有村:私もさえ子とミキのシーンを演じるときにものすごく緊張がありました。このシーンの撮影が来ないでほしいと思ってたくらいでした。でも、今岡田さんのお話を聞いたら、自分がこのシーンしんどいなって思ってたとき、岡田さんもしんどいなって思いながら書いてたんだって分かりました。作品って、監督も脚本家さんも演者も、みんな闘ってできているんだなとも思いました。ミキの気持ちも分かるからこそ、自分がもしさえ子の立場だったら、「ごめんなさい」って言って身を引いてしまうと思うんですけど、でもさえ子も、自分の気持ちに誠実だからこそ、「なんで会っちゃいけないんですか」という気持ちをこぼしてしまう。そのセリフを言うときのさえ子の気持ちの強さが少し怖くて……。でも、ちゃんと説得力のあるものにしなきゃって思って演じていました。
——できあがった映像を見て、岡田さんはどう感じられましたか?
岡田:できあがった作品を見て、そのクレジットの中に自分の名前があることが誇らしいなと思ったし、いろんな方の力を感じて幸せでした。有村さんとも、何作も一緒にやってこられたことが幸せだと思ったし、でも決して慣れ合っているとかではなくて、毎回緊張感もあって、そんな関係であることもうれしいですし。そして、さえ子が大好きだなと思いました。
——この作品は、海外でも見られることが多いんじゃないかと思います。有村さんは、「第29回釜山国際映画祭・オンスクリーン部門」で上映されたときに韓国で舞台挨拶をされたんですよね。反響はいかがでしたか?
有村:韓国で見られた方たちが、「なんで2話だけしか見られないの?」とおっしゃっていたようで、ちゃんと続きを見たいって思ってくださったんだな、のめり込んで見てくださったんだなって分かってすごくうれしかったです。いろんな国の方に届く作品になるんじゃないかと思えました。
岡田:祈るような気持ちで、いろんな方に「伝わる」といいなと思っていたので、その反響はうれしいですね。でも、どこの場所で見てもらっても、本質的には変わらないことを書いた物語ではあると思っているので、たくさんの方に届けばいいなと思っています。
PHOTOS:YUKI KAWASHIMA
STYLIST:[KASUMI ARIMURA]YUMIKO SEGAWA、[YOSHIKAZU OKADA]DAN
HAIR & MAKEUP:[KASUMI ARIMURA]IZUMI OMAGARI、[YOSHIKAZU OKADA]MAKI SASAURA(emu)
[KASUMI ARIMURA]トップス 4万7300円/ヨウヘイ オオノ(03-5760-6039)、パンツ 4万9500円/コトナ(kotona@kotona.jp.net)、ネックレス 2万6400円/メゾンドパルス(hello@maisondpulse.com)、リング 28万7100円/e.m.(03-6712-6798)[YOSHIKAZU OKADA]ジャケット 7万7000円、パンツ 3万7400円/ともにグラフペーパー(グラフペーパー東京 03-6381-6171)、その他 スタイリスト私物
■Netflixシリーズ「さよならのつづき」
出演:有村架純 坂口健太郎
中村ゆり 奥野瑛太
伊藤歩 古舘寛治 宮崎美子 斉藤由貴 イッセー尾形
生田斗真/三浦友和
脚本:岡田惠和
監督:黒崎博
音楽:アスカ・マツミヤ
主題歌:米津玄師「Azalea」
撮影監督:山田康介
美術監督:原田満生
エグゼクティブプロデューサー:岡野真紀子
制作プロダクション:テレパック
原案・企画・製作:Netflix
話数:全8話(一挙配信)
Netflix作品ページ:https://www.netflix.com/さよならのつづき