アシックスは11月1日から、廃棄予定だった自社シューズをリサイクルした素材を、全重量の15%に使用したシューズ“ネオカーブ(NEOCURVE)”を、英仏独など欧州17カ国で販売している。回収から分解・粉砕、材料化、デザイン、製造、販売までを欧州圏内で行う“地産地消”によって、CO2排出削減にもつなげる。欧州では2026年から、アパレル事業者に売れ残った製品の廃棄を禁じる規制(エコデザイン規制)が適用される。それに対応する意味合いも大きい。
欧州内のデッドストックやサンプル、B品などの未使用シューズを、アシックスが提携するオランダのシューズリサイクル大手Fast Feet Grindedで分解。EVAフォーム、ゴム、繊維、皮革、金属などに分けて、オランダ、イタリア、ポルトガルなどの素材工場でペレットやプレート、糸などにリサイクルする(=マテリアルリサイクル)。それをニットアッパーやシューレース、ミッドソール、アウターソール、中敷きの一部に使用した“ネオカーブ”を、ポルトガルの工場で生産している。価格は250ユーロ(約4万500円)で、2400足の限定販売。
アシックスはサーキュラーエコノミーを目指し、23年9月に一足あたりのCO2排出量を市販スニーカーで最も低く抑えた(1.95キログラムCO2e)という“ゲルライトスリー シーエム1.95”を発売。同モデルはサトウキビ由来素材を一部で使い、使用パーツも工夫して減らしている。24年4月には、使用後に回収してケミカルリサイクルすることが可能な“ニンバス ミライ”を発売。ただし、それら2足のような「バイオベース素材やケミカルリサイクルは、機能性担保の点で今すぐ全製品には転用できない。既にある製品をどう循環の輪の中に取り込んでいくかが課題だった」と井上聖子サステナビリティ部長。マテリアルリサイクルでその課題に取り組む。
消費者の行動変容はここから
「“ネオカーブ”プロジェクトは21年に始動しており、エコデザイン規制の話が出てから急いで開発したわけではない」と、同プロジェクトを率いる村岡秀俊サーキュラーエコノミー推進部長。環境先進国の欧州では以前から未使用品のリサイクルを進め、床材などとして建材メーカー等へ提供していたというが、自社製品に再利用するのは今回が初。現時点では未使用品のみのリサイクルだが、欧州の直営店では店頭にボックスを設置しての使用済みシューズの回収も行っている。「需給予測の精緻化やサンプルのデジタル化で、そもそも廃棄量は年々減らしてきた。将来的には回収した使用済みシューズをリサイクルしていくことも考える」。
まずはリサイクル環境の整った欧州で“地産地消”を進め、環境負荷の少ない輸送方法が見つかれば他地域に運んで販売することも検討する。他地域で地産地消の仕組みを作ることは、「現時点ではリサイクル環境が整っておらず難しい面が多い」という。
サーキュラーエコノミーは企業1社で達成できるものではなく、消費者を含めて行動変容を促し、社会全体で意識を変えていくことが重要だが、使用後に集荷・回収しリサイクルする仕組みを整えて発売した“ニンバス ミライ”は、発売から約半年の10月末時点で「回収したのは0足」という。消費者が大切に履いているがゆえとも言えるが、行動変容を起こさせることがいかに難しいかも感じさせる。