ビューティ
特集 化粧品専門店の勝ち筋と未来 第8回

苦戦する米アルタビューティ 長期成長戦略では新店舗拡大、グローバル進出、ウェルネスに注力

米大手化粧品小売店のアルタビューティ(ULTA BEAUTY以下、アルタ)はこのほど、今後3年間を見据えた成長戦略を発表した。競争が激化するビューティ市場で苦境に立たされている同社は、新店舗拡大とグローバル進出、ウェルネスカテゴリーに注力することで回復を目指す。(この記事は「WWDBEAUTY」2024年11月25日号からの抜粋です)

アルタは8月、第2四半期の売上高と利益がウォールストリートの予測を下回ったため、通期見通しを下方修正した。デイブ・キンベル(Dave Kimbell)最高経営責任者(CEO)は投資家デーに、「当社はこのダイナミックな市場で確固たる地位を築き、実績のあるビジネスモデルを持つ。強力なチームと明確な戦略があり、さらなる成長への準備は万端だ」と述べ、2026年以降に売上高を4〜6%成長させ、営業利益率を約12%、希薄化後EPS成長率を2ケタ台前半にすることを約束した。

一方でキンベルCEOとポーラ・オイボ(Paula Oyibo)最高財務責任者(CFO)はアナリストに対し、「25年の業績は24年とほぼ同水準になると予想される。営業利益率は12%を下回るものの11%以上を維持し、既存店の売上高は3〜4%成長するだろう」と言及。このニュースを受け、同社の株価は3%ほど下落したが、キンベルCEOと経営陣は同社の成長を再促進する積極的な戦略を示した。

好調な新規店舗拡大をさらに加速

オイボCFOは、新規店舗の拡大に重点的に投資していく考えを明らかにした。近年オープンした新店は好調を維持し、平均20%の利益をもたらしているという。3年以内にテキサス州ダラスやアリゾナ州フェニックス、コロラド州デンバーなどの既存エリアに加え、テキサス州デル・リオ、インディアナ州ジャスパー、ノースカロライナ州ウィルソンなどの小規模エリアに合わせて200店舗を開設する計画だ。

ケシア・スティールマン(Kecia Steelman)最高執行責任者(COO)も、「市場が飽和状態にあるとは考えていない。米国のビューティ市場は21年以降に200億ドル(約3兆800億円)以上成長しており、長期的には1800店舗展開への道筋が見えている。競争の激しい環境下でも、新規店舗の拡大が当社の成長を加速させるだろう」と自信を見せる。競合のセフォラ(SEPHORA)を含め、プレステージ・ビューティの拠点は米国で約1000カ所増加するなど激化しているが、幹部らはこの成熟市場にはチャンスが残っていると楽観視しているようだ。特に、店舗数を20%増やしたことで市場シェアを4.5%拡大したダラスを成功例として挙げる。

25年には、中南米を拠点とするグローバルブランド流通企業のグルーポ・アクソとの提携により、初のメキシコへの進出も予定している。キンベルCEOは、「メキシコのビューティ市場は非常に好調で、当社はすでに高い認知度を得ている。長期的には100店舗に拡大していく」と期待を寄せる。28年までに“アルタ ビューティ・リワード”と称したロイヤルティ・クラブの会員数を4400万人から5000万人に増やすことを目指す中で、主要なターゲット層としてヒスパニック系の取り込みも重視している。

協業によりパーソナライゼーションを強化

ミシェル・クロッサン・マトス(Michelle Crossan Mattos)最高マーケティング責任者(CMO)は、アドビとの提携を発表した。顧客の行動データ分析を活用することで、より効果的で大規模なパーソナライゼーションを実現できるようになるという。「ロイヤルティ・クラブは当社のパーソナライゼーションにおける重要な柱だ。社内外からのシグナルに基づいてコンテンツをキュレートできるリアルタイムのパーソナライズエンジンを構築していく」。このエンジンにより、会員にアプリやウェブ上でのおすすめ表示やメールでのフォローアップが可能となり、リピート購入や満足度向上につながるフライホイール効果(組織が結束した時の力)を生み出すという。現在売り上げの95%は会員によるもので、会員の購入額は前年比11%で増加している。

さらにキンベルCEOによれば、店舗のみを利用する顧客がオンラインで買い物を開始すると購入額が2倍以上に増えるといい、現在売上高の約20%を占めるECのシェアは今後も増加すると見ている。「包括的なオムニチャネル体験の拡大に注力することが求められる。今後数年間は店舗よりもECが急速に成長すると予想されるが、目標は両チャネルの成長を促進することだ」。

成長を加速させるブランド戦略

そのために重要といえるのがブランド戦略だ。モニカ・アルナウド(Monica Arnaudo)最高マーチャンダイジング責任者は、「すでに確立された既存ブランドと新興ブランド、専売ブランドに焦点を当て、収益の20〜30%をけん引している新しさと独占性に重点を置く」と述べる。現在600の取り扱いブランドのうち約40が独占契約だ。「当社には、専売ブランドをサポートし、育ててきた歴史がある。資金面やバンドウィズ(新しいビジネスに取り組める余裕)の面でも、同分野をさらに拡大し、投資する機会があると考えている」と明かす。

具体的なカテゴリーに関しては、メイクやヘアのスキンケア化、Kビューティ、臨床研究や皮膚科学に基づいたドクターズスキンケア、縮毛ケアや頭皮ケアなどのスペシャルトリートメント、男性用フレグランスやボディーミストなどの主要なトレンドを注視している。

鍵を握るウェルネスカテゴリー

アルナウド最高マーチャンダイジング責任者によれば、同社にとってウェルネスは特に重要なカテゴリーだ。「ウェルネス市場は大きく、急速に成長している。23年には4000億ドル(約61兆6000億円)近くに達し、成長率は12%にも上った。今後その規模はスキンケアに匹敵するだろう」といい、「市場は細分化が進み、いまだこの分野で確立した小売業者は存在しない」ことからその座を狙う考えだ。サプリメントやセクシャルウェルネス、マインドフルネス、睡眠などのカテゴリーに注力する計画で、生理や更年期など女性のライフステージサポートにも商機を見いだす。

またソーシャルメディアでの存在感を高め、文化的関連性を推進するため、クリエイターとのつながりも強化している。「ソーシャルメディアの世界では関連性がなければ認知度を高めることはできない」とマトスCMO。さらに、最近では店舗体験の意義を再考し、ヘアケアやスキンケア、メイクアップサービスを通じて体験をより重視した店内イベントを増やしている。

アナリストの反応はさまざま

同社が発表した3カ年計画に対するアナリストの反応はまちまちで、大半は25年の見通しが緩和されたことに注目した。ニューヨークの金融機関、ウィリアム・ブレアのディラン・カーデン(Dylan Carden)=アナリストは、「見通しの緩和がビューティ市場の軟化の兆候なのか、それとも経営陣が達成可能な基準を設定しようとしているのかは不明だ」と懐疑的だ。米投資銀行TDコーウェンのオリバー・チェン(Oliver Chen)=シニア株式調査アナリストも「質の高い内容だが、課題は山積」といい、米投資会社ジェフリーズのアシュリー・ヘルガンズ(Ashley Helgans)=アナリストも「投資家は依然として疑問を抱えたまま遠ざかっている」と指摘する。

一方でキンベルCEOは強気な姿勢を崩していない。「ますます競争が激化する分野で、当社のビジネスモデルと実行力に自信を持っている。当社は美容と美容愛好家を知り尽くしており、あらゆる美を祝福し、サポートすることに全力を注いでいく」と話した。

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