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ストリートとラグジュアリーの蜜月関係は終わり? 識者が語るストリートウエア、今後の行方

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ストリートの影響を受けたスタイルがここ数シーズンのランウエイショーで減少したことや、VFコーポレーション傘下にあった「シュプリーム(SUPREME)」や、LVMH モエ ヘネシー・ルイ ヴィトン(LVMH MOET HENNESSY LOUIS VUITTON)が所有していた「オフ-ホワイト c/o ヴァージル アブロー(OFF-WHITE c/o VIRGIL ABLOH以下、オフ-ホワイト)」などのブランドが相次いで売却されたことを受け、ラグジュアリー市場でのストリートウエアの求心力が疑問視されるようになった。ラグジュアリーとストリートの蜜月関係は終わったのか。デザイナーやリテイラーの言葉からストリートウエアの行く先を考える。(この記事は「WWDJAPAN」2024年11月25日号からの抜粋です)

 ここ数シーズンのメンズ・コレクションを見ると、ストリートウエアやスニーカーが中心だったデザインから、クラシックなシューズを合わせたテーラードスタイルへと軸足は移っている。ラグジュアリー・マーケットとストリートの相思相愛の関係性は終焉を迎えたのだろうか。しかし、そう結論づけるのは性急に過ぎるかもしれない。
 
 ストリートウエアとラグジュアリー・ファッションのつながりは、この10年間で過去最高の盛り上がりを見せた。あらゆるメゾンがストリートウエアの要素を取り入れ、これまで看過してきた層にアピールするようになった。大手ブランドとのコラボレーションや、ストリートウエア出身のデザイナーがハイエンドなブランドでクリエイティブな役割を担うなど、両者の境界線は曖昧になり、かつてはアンダーグラウンドなものだったストリートウエアは、広くメインストリームに浸透した。業界の専門家たちは口をそろえて「ストリートウエアは依然としてラグジュアリー市場で存在感を示している」と語る。ただ、ファッション業界全体が引き続きさまざまな課題に直面する中、ストリートウエアの顧客の間では、ブランドに原点回帰を求める声が高まっているという。そのため、今後状況は変化していく可能性が高い。

今やストリートウエアの要素は
ファッションのあらゆる部分に

 「私にとって、ストリートウエアとは常に現状に対する反抗だった」と語るのは、1989年に創業し、LAに店舗を構える老舗セレクトショップ「ユニオン(UNION)」のオーナー、クリス・ギブス(Chris Gibbs)だ。「ユニオン」は、ストリートファッションとハイファッションを掛け合わせたパイオニア的な存在でもある。「ここ10年はストリートウエアが『トレンドアイテム』になったこともあり、業界の誰もが、メインストリームブランドとのコラボレーションを享受してきた。反抗してきたものとの協業が増えるほど、その境界線は曖昧になっていく」。シカゴを拠点とするリテール「RVSPギャラリー」の創設者で、デザイナーでもあるドン・C(Don C)も同意見だ。ドン・Cは「ストリートウエアは死んでいない。ただ、本来の価値観と使命を再確認する必要があるだけだ」と語る。ドン・Cは「確かに以前ほどの勢いはないかもしれないが」と前置きをした上で、「私が初めてストリートウエアに出合ったころと同じようなエネルギーや感覚を持つ若者たちが、今も確実にいる。今やストリートウエアは、ランウエイからストリートまで、ファッションのあらゆる部分に関わっている」と語る。
 
 ディストリビューターとしていち早く「ステューシー(STUSSY)」や「カーハート(CARHARTT)」をイタリアで取り扱い、80年代後半にヨーロッパでストリートウエアブームを巻き起こした立役者である「スラムジャム(SLAM JAM)」の創業者、ルカ・ベニーニ(LUCA BENINI)によれば、ストリートウエアが今までのように派手にバズることはないにしても、2010年代後半から20年代前半にかけてのラグジュアリーブランドとの協業やクロスオーバーが業界に与えた影響は、計り知れないものがあるという。「確かに、今は多少の停滞感はあるかもしれない。ただ、この相互交流は定着し、双方に利益をもたらしている。これまで話題に上ることがなかった重要な文化的トピックをラグジュアリー業界が取り入れ、他方ではストリートウエアブランドが商品ラインアップを拡大するきっかけとなるなど、ファッション業界全体が大きな恩恵を受けた」。
 
 デザイナーであり、執筆も手がけるボビー・ハンドレッズ(Bobby Hundreds)は、ブームの落ち着きによって、むしろブランドは健全で現実的な目標を設定することができるようになると考える。多くのブランドはラグジュアリーのレベルにまで成長することはできない。その現実的な見立てを踏まえ、今後、ストリートブランドはルーツであるサブカルチャーやコミュニティーとのつながりをより強化していくと予想する。
 
 ニューヨークのコンセプトストア「エセックス(ESSX)」共同創設者のローラ・ベイカー(Laura Baker)は、ストリートウエアブランドがそのルーツと再びつながることで、ストリートウエアとラグジュアリーアイテムがスタイル的に明確に区別されるようになると予測する。「ストリートウエアとは何かを定義し直す必要がある。ストリートウエアとは、人々が外で着用するもの。そして若者や文化、コミュニティーで起こっている事象。単一のもの、例えばスケートボード文化だけを意味するわけではない。あらゆるサブカルチャーを意味し、その時々のサブカルチャーとは何かを問うことでもある」。

ブームがもたらした
ストリートウエアの洗練

 ストリートウエアは、Tシャツやパーカ、スニーカーといったカジュアルスタイルを基盤にしてきたが、ラグジュアリーブランドが市場に与えた影響により、新興ストリートウエアブランドの中にはクラシックなメンズウエアやスーツの要素を取り入れるものもいる。また、ストリートウエアと伝統的な美意識の融合は、コミュニティーが成熟し、年齢を重ね、より洗練されたシルエットを求める顧客が増えたためだと指摘する声も多い。「どんな文化も年月を重ねるにつれ、少しずつ洗練されていくもの」とドン・Cは語る。「ストリートウエアやヒップホップも同様で、参加する人々が知恵を身につけたり、年齢を重ねたり、あるいは他と差別化したい、進化したいと考えたりして、今までなかったようなことをやり始めると、そのサブカルチャーは進化していく。それは全てポジティブなこと」。「ユニオン」のギブスは、新たに登場してきたラグジュアリーなストリートウエアブランドの中には、ぜいたくな素材、職人技、伝統的なシルエットを融合させて、際立ったクリエイションをしているブランドが多いと語る。その例として「サトシ・ナカモト(SATOSHI NAKAMOTO)」「RRR-123」「B1 アーカイブ(B1 ARCHIVE)」「ベター ウィズ エイジ(BETTER WITH AGE)」を挙げた。

今後の鍵は健全なバランスの維持

 ストリートウエアの将来について、専門家たちは、コミュニティーやサブカルチャーと歩調を合わせ、ビジネス面でのプレッシャーがクリエイティブに影響を与え過ぎないようにすることが成功の鍵であると異口同音に語る。「取引と商業、そしてアートと文化の融合であるストリートウエアに必要なのは、一つの要素に大きく傾くのではなく、より健全なバランスを保つこと」と、ハンドレッズは言う。「今日、新しい世代の独立系ブランドや新鋭デザイナー、多くの革新的なアーティストたちが登場し、過去10年間で確立されてきた多くのルールに疑問を投げかけている。この兆候は、市場、経済、文化の多くに共通するものだ。既存のルールに異議を唱え、既存の制度に反旗を翻す動きが活発化している」。
 
 ストリートウエアとラグジュアリーとの関係性について言えば、この2つの領域が協働し合う余地はまだ残されている。「市場や金融界がストリートウエアに抱く印象が10年前ほど明るくないのだとしたら、それは小規模なブランドやエンドユーザー、消費者にも影響を及ぼすだろう」とハンドレッズは語る。「しかし、そのことが次世代のブランドが参入してルールを再設定するきっかけになる可能性もある。ここ10年、あるいは20年の古いやり方は、もはや有効性を失っているのかもしれない。でもそれこそが、ストリートウエアの魔力なのだ。ストリートウエアは常に進化し続け、再生を繰り返すもの。幾度も生まれ変わり、自分自身に立ち返っていく」。

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