エディ・スリマン体制になって2シーズン目の「サンローラン」が描く女性像は、ちょっぴり親に反抗する良家の女の子、といったところだろうか?彼女は自分の"お嬢様ドレス"がちょっぴり恥ずかしくて、だから、ちょっと不良で憧れちゃう先輩の私服を強引に借りて、一緒にクラブに繰り出す——そんな雰囲気なのだろう。
マキシ丈のボヘミアンドレスから一転、今シーズンのキーアイテムは、首にボウ(蝶結びにした、垂れ下がる1枚の布)をあしらった小花柄のベビードールドレス。丸襟にパフスリーブ、そして太ももを露わにするショート丈というガーリーな洋服に、1月のメンズ・コレクションで披露したネルシャツやモヘアのカーディガンなどをガバッと羽織り、足元はサイドバックルやスタッズのエンジニアブーツでハードにキメる。このほかにもランウェイには、チェスターコートやコンパクトなジャケット、随所にスリットを加えたレザーパンツ、そして女の子には長すぎるくらいのフェアアイル柄のマフラーなど、メンズっぽいアイテムが多数登場。自分の手持ちの洋服に、異性からの借り物を自由奔放に組み合わせたかのようなスタイルは、たとえば「ドリス ヴァン ノッテン」や「プラダ」と同じ方向を向いている。そこに、エディらしいロックやグランジのスパイスをふんだんに加えた。
良家の子女は、夜遊びを通じて自分の洋服さえハードエッジに変えていく。中盤以降は、ビスチェ付きのレザードレスや、ゴールドのファスナーが走るレザーのミニスカートが登場。タータンチェックのベビードールドレスさえ、胸元で上下に分割し、それをゴールドのピンで再度つなぎとめ、ロックマインドを体現する。お母さんから譲り受けたような、パールのブレスレットにメタルパーツをジャラジャラと加え、完全にロック仕様に変えてしまったアクセサリーなどもユニークだ。
前回のウィメンズ、1月のメンズ同様、「これが『サンローラン』なのか?」「これなら『エディ・スリマン』というブランドを作ればいいのに」という批判が容易に想像できるコレクションだ。ボヘミアンからロック&グランジにシフトチェンジした今回は、「『ディオール オム』時代と変わらない」という指摘も増えることだろう。そして、それらの批判や指摘は、事実を的確にとらえていると思う。
ただ、エディ・スリマンと「サンローラン」は、そんな批判は承知の上で、敢えて我が道を突き進んでいる。そして、きっとそれは正しい選択なのだと思う。だって時代は変わっていて、創業者のイヴ・サンローランの黄金期とは何もかもが異なっているのだから。そして、少なくともメンズでは、エディと新生「サンローラン」は"結果"もキチンと出している。
ラグジュアリーの世界でさえブランドは飽和状態にあり、もはやクラフツマンシップだけでライバルと差別化するのは難しい。だからこそ今は、デザイナー本人のパーソナリティやライフスタイルを洋服に具体的に落とし込み、消費者の共感を誘う手段が主流となっている。「セリーヌ」や「サカイ」「ケンゾー」「カルヴェン」、そして「ランバン」のメンズなどは代表的なブランドだろう。
確かにバリエーションは若干物足りないし、彼とその周辺のライフスタイルは必ずしも世界の大勢に共感してもらえるものではない。ただエディは、自分自身を100%コレクションにぶつけ、彼のライフスタイルをキチンと洋服に落とし込んでいる。
「サンローラン」は変わったのだ。あとは、この変化を「是」とするか「否」をするか。それぞれが考え、結論を出せば良いのだろう。