ファッション
連載 早稲田大学繊維研究会 ショーまでの道 第3回

早稲田大学繊維研究会がタキヒヨーとドレスザライフと合同展示会 PLA素材の可能性を探る

1949年創立の国内最古のファッションサークル、早稲田大学繊維研究会がファッションショーを実現させるまでの道のりを全4回の連載で紹介する。第3回では、代表の井上航平さんと、小山萌恵さんが11月に実施した展示会リポートと今月に迫るショーの進捗を語る。

WWD:11月17日にタキヒヨーと、ウェディングドレスショップのドレスザライフと合同展示会を実施した。
小山萌恵(以下、小山):タキヒヨーからPLAを活用した素材(100%植物由来で生分解性が高く環境への負荷が少ない、タキヒヨー企画開発の生地)を、ドレスザライフからドレス制作時の残布を提供してもらいルックを製作しました。PLAが生地の終わりまで考慮されていることや、ドレス生地の繊細さに注目し、生地の持つ儚さから私たちの人生の儚さを連想して、世の儚さを意味する仏教語「夢幻泡影」をコンセプトに掲げました。

WWD:PLA素材を使用する上で、工夫した点は?
小山:サステナブルな性質を考慮し、繊維研究会としてこの展示会でどのようなスタンスをとるべきか、というところから議論を始めました。サステナブルな衣服というと一辺倒な表現に陥りがちな現状に対し、私たちのクリエイションによって表現の幅を広げることを目標にしました。水面や花のモチーフを組み合わせ、生地を寄せたりたゆませたりしたルックや、PLAの循環サイクルから人間の一生を想起し、ベビードレスにほころびという相反する要素を施したルックなど、一つ一つがコンセプチュアルなたたずまいをまとい、私たちにしかできないアウトプットができたのではないでしょうか。タキヒヨーの担当者から「PLA素材の新たな可能性を感じた」という感想をいただけてうれしかったですね。

WWD:発表にはどんな苦労があったか?
小山:展示会となると、これまで培ってきたファッションショーのノウハウをそのまま応用できず、たびたび頭を悩ませながら、自分たちの力で向き合った過程は大きな学びとなりました。当日設営を終え、みんなのアイデアやがんばり、こだわり抜いたクリエイティブ魂が作用し合って成立している一つの空間を見渡したときには、無事に開催できた安堵と共に、胸に迫るものがありました。

素敵な感想もたくさんもらい、あの場でしか生まれ得ない温かなつながりが確かにありました。私たちの経験値や結束力も一層高まり、有意義な取り組みができました。この経験を糧に、残り一カ月を切ったショーに向けても精進していきます。

WWD:ファッションショーでは会場の音響にもこだわる。
井上航平代表(以下、井上):中島哲也監督の映画「告白」に楽曲提供を行っている音楽プロデューサーのcokiyuさんに、今回のオープニング映像とショーのBGMの制作をお願いしました。打ち合わせでは、来場者にルックの細部まで見えやすいよう、通常のファッションショーと比べてゆっくりとモデルさんに歩いてもらうことを想定して、全体のBPM(曲のテンポ)を75程度(一般的な速さは120程度)と細かく指定したほか、江ノ島で撮影したルック写真や映像素材を見せながら、「透明感」「曖昧さ」「漂い」「揺らぎ」「煌めき」「乱反射」など、コンセプトから連想する単語を伝えました。実際に歌詞を乗せるわけではないため、どうすればこのような抽象的な単語を曲として表現できるのか、僕たち自身でも全くイメージできていない状態でした。しかしcokiyuさんは抽象的な方がむしろ分かりやすいと言ってくださり、タイトなスケジュールの中でイメージを完璧に落とし込んだ曲に仕上げてくれました。

WWD:ルックブックの準備も進めている。
小山:繊維研究会のファッションショーでは毎年、来場者にルックブックを配っています。第1回で話したルック撮影時のデータをもとに、デザインやレイアウト、構成はもちろんのこと、紙質や製本方法、印刷方法まで、細部まで丁寧に作り上げています。ひとりよがりな作品にならないよう意識し、互いに言語化して伝え合うことを心がけています。より良い意見を柔軟に取り入れたり、意見をぶつけ合ったりすることで新たな発想が生まれ、作品作りには対話を重ねることが重要だと実感します。ルックブックはショーの後も手元に残る唯一のもののため、何度も見返したくなるような、見返すたび新鮮に心が動くようなものにしたいです。ラストスパートの大詰め、がんばります。

井上:当団体は、今年度に至るまで、メディアではもちろん、SNSにおいてもショーまでの過程や、こだわったポイントなどをお話することはありませんでした。明確なルールがあったわけではなく、代々「語らない美学」が受け継がれてきたためです。この考えには共感する点もありながら、ショー本編の20分~30分程度の中で自分たちのこだわり全てに気づいてもらえるわけではないことに、もどかしい思いを抱えていました(一方で気づいてもらえない意匠はそれまでのもの、という気持ちもあります)。今回の連載では、ルックのデザインだけでなく、ショーに至る過程にスポットを当ててお話してきました。今年は映像ではなく生でショーを見る意味、というものをこれまで以上に大切にしています。ぜひ実際にお越しいただき、ルックのデザインはもちろん、それ以外の部分にも注目いただければうれしいです。

■早稲田大学繊維研究会2024年度ショー「透き間、仄めき」
日程:12月22日
時間:①開場12:30〜、開演13:00〜 ②開場15:00〜、開演15:30〜 ③開場17:30〜、開演18:00〜
場所:代官山ヒルサイドプラザ
住所:東京都渋谷区猿楽町29 ヒルサイドテラス

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