ゴールドウインは12月12日、2025年開催の大阪・関西万博シグネチャーパビリオン「Better Co-Being®(いのちを響き合わせる)」にサプライヤー協賛することを発表し、中里唯馬「ユイマナカザト(YUIMA NAKAZATO)」デザイナーとともに手掛けたアテンダントスタッフのユニホームを披露した。
厳しい暑さなど気候の変化が予想される4月13日〜10月13日までの長期間中、屋根も壁もない森の中をイメージしたパビリオンで、常駐するスタッフが快適に過ごせるよう、デザイン性と環境性、機能性を大きな柱に、パビリオンのコンセプトに沿った“自然と共鳴する衣服”を製作。テーマ事業プロデューサーを務め、「Better Co-Being®」を手掛ける慶應義塾大学医学部の宮田裕章教授とゴールドウイン、中里デザイナーが協業の背景を明かした。
屋根も壁もない、日光と雨風を心地よく感じるパビリオン
「Better Co-Being®」は、万博の中心に位置するメインのパビリオンとなる。宮田教授はパビリオンの名前とコンセプトについて、現在に重きを置いた“Well-Being”のWellを未来に向かうBetterに変えて、「共に生きる」という意味のCo-beingと組み合わせた。さらに、未来につながる持続可能性と一人ひとりの多様な豊かさが調和する考え方のもとに、世界とのつながりを生態系の中でつなげていこうと緑豊かなスペースを作り上げた。設計は金沢21世紀美術館などを手掛けた妹島和世と西沢立衛によるユニット、SANAA事務所が担当。敷地面積は1634㎡。パビリオンでは人と人、人と世界、人と未来の3つのシークエンスを描き、それらが結びつき共鳴する体験をアートインスタレーションなどで表現する。
少ない型数でさまざまな着方ができるように、着物に着想
オートクチュールデザイナーとしてファッションの最高峰の衣服を手掛けてきた中里デザイナーだが、昨今は実験的なアプローチで新たな美を生み出す持続可能な服作りに挑戦してきた。そして今回「Better Co-Being®」のコンセプトのもと、中里デザイナーのミッションは、世界中の人を迎え入れるフォーマルさと環境負荷軽減を考えた機能美だった。ユニホームの大きな特徴は、着る人の性別も体型も問わないサイズ展開と好みの着方ができるということ。アイテムは、半袖Tシャツと長袖パンツ、ロング丈のシャツ、レインコート、帽子の1型ずつのみ。シャツにおいては、長い袖を半袖またはノースリーブに変形でき、ウエスト位置はベルトを用いることで4段階に調整することができる。また、前立てを左右どちらも使えるよう設計することでユニセックスでの着用を可能とした。「環境負荷を与えないよう、また多様なニーズに応えられるよう、少ない型数でさまざまな体型にフィットできる仕掛けに工夫した。そこで、私もよくデザインのヒントとする着物にインスピレーションを得て、帯や前立てのアイデアを採用した」と中里デザイナー。
太陽光反射率の高い新素材と3Dデジタル技術を採用
今回のユニホーム開発には、ゴールドウインの富山本店にある研究開発施設「ゴールドウイン・テック・ラボ」(以下「テック・ラボ」)が中心となり、素材の開発やプリントデザインにおいて最新技術を提供した。素材については、屋外で着用する暑さ対策として、太陽光反射率に着目した素材を新たに東レと開発。特殊な加工技術により、紫外線遮蔽率(UVカット値)と太陽光の反射率をともに高め、ユニホームのジャケットとシャツ、パンツに採用した。さらには隙間を作る織り方により、通気性も確保した。日本で回収された使用済みPETボトルを原料にしたリサイクル率76%の超フルダム糸を使った素材でもあり、環境に配慮している。
印象的なプリントデザインは、朝から夕方までパビリオンを照らす太陽光の木漏れ日に着想。時間によって変化する木漏れ日の写真と中里デザイナーによるドローイングを重ね、「テック・ラボ」のAI技術を駆使したテキスタイルパターンと3Dデジタル技術によるグラフィックのサイズや配置の開発・検証を行い、つなぎ目のない連続したパターン制作を実現した。これらの技術により、残反削減だけでなく、試作サンプルもデジタル上で作成することで、資源の削減にも成功。また、セイコーエプソンのデジタル捺染機「モナリザ」の顔料インクを使用し、アナログ染料プリントに比べ96%の水使用量を削減した。
ファッションの未来も捉えたユニホーム
中里デザイナーは、「最先端技術により、アイテム一枚一枚に異なるプリントを配することができ、パビリオンのコンセプトでもある個性を輝かせるデザインを完成することができた。また防水のレインコートも新素材によって、ダイナミックな風も受けられる通気性を備えているし、脇のファスナーを開ければケープのように着ることもできる心地よさがある。襖や障子のある和室のような構造をイメージに衣類の中で空気を変化させていく。ともに試行錯誤した『テック・ラボ』との協業は、(15年以上ファッションに携わる)私にとって新しい発見と学びが多くあり、楽しく制作することができた」と話した。
ゴールドウインの新井元常務執行役員は、「われわれの使命はパビリオンの環境の中で、スタッフが安全に、そして快適に過ごせるかを実現すること。オファーがあった時は、相当難易度が高いなと思った。私たちを照らす太陽の光は大事であるが、現代の環境を考えると遮熱や遮断を考慮しなければいけない。さらに風が吹けば、速やかに通気できる機能も必要だ。『テック・ラボ』は天候に合わせた研究開発を行っている。今回は中里さんのデザインを具現化し、快適性を実現できる材料を考え、長期間でもクオリティーを落とさず着用できることに注力した」と明かした。
開発の裏側について話を聞いた宮田教授は、「中里さんは未来の責任からどう服を作るのかという問いに挑む、尊敬するデザイナー。個性を尊重するという多様性の時代において、服を通してチャレンジできたことにとても感謝している。そして自然環境と常に向き合ってきたゴールドウインの技術力もすばらしく、遮断しながらも風や緑、光の自然の魅力を感じることができる。ファッションにおいて、今回掲げたデザイン性と環境性、機能性のバランスは難しく、両者においても優先順位が異なる中で、すてきなユニホームを完成することができた。長く着ることで素材の風合いがさらに良くなることだろう。着用するのが楽しみだ」と喜びを語った。
「Better Co-Being®」のユニホームは12月13〜14日、東京・青山にあるゴールドウイン本社1階のイベントスペース「FASHION FRONTIER PROGRAM」エキシビションで特別展示をしている。