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連載 小島健輔リポート

顧客、従業員、取引先の「三方よし」実現へ アパレル業界2025年の課題【小島健輔リポート】

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ファッション業界の御意見番であるコンサルタントの小島健輔氏が、日々のニュースの裏側を解説する。今回は2025年のアパレル業界の動向を占う。インバウンドや富裕層が買い支える高級ブランド、あるいは「ユニクロ」など一部を除き、国内の大半のブランドは急激なインフレの影響を受け、事業構造の抜本的な見直しを迫られている。どんな手を打つべきなのか。

値上げと賃上げの応酬に苦慮した2024年は企業の対応次第で明暗が開いたが、トランプ2.0の怒涛が押し寄せる25年はインフレに逆らって「お値打ち」を高めて顧客に応え、「労働」にレバレッジを掛けて賃上げして従業者に応え、「取引先」にもコスト吸収を強いらず、後ろ指を刺されることのない勝者とならねばならない。では、アパレル事業者はどうすれば良いのだろうか。

インフレのコスト吸収を強いられたアパレル業界

コロナ明けのリバウンドに円安進行が重なった23年の衣料品卸価格(繊維品企業価格)は6.2%、同小売価格(消費者物価)は3.4%も値上がりし、円安が急進した24年の上半期も23年と同程度の値上げラッシュとなったが、7月末の日銀ショック以降は円安も収まって衣料品の小売価格も落ち着き、夏物の購入単価は前年を若干割り込み、秋物も2%前後の上昇にとどまったようだ。

23年はリバウンドの勢いもあって、多少(8.0%未満)は値上げしても客数は減らず、大幅(8.0%以上)に値上げしても客単価の上昇が客数の減少を上回り、「値上げした者勝ち」の様相を呈したが、24年はインフレと社会負担増に賃上げが追いつかず価格抵抗感が強まり、夏以降はインバウンド比率の高い店舗を除けば値上げが通りにくくなった。止まらない食料品の値上げが生計を圧迫して衣料支出が抑制され、「値上げした者勝ち」は通らなくなった。

21年から23年の2年間で衣料品の輸入単価が29.8%も跳ね上がる中、川中の供給単価は17.0%しか上がらず、消費者の購入単価は6.3%しか上がらなかったから、サプライヤーの差益も小売業の差益も、それぞれ9掛けに落ち込んだ計算になり、商社のOEM事業からの撤退や小売事業者の直接調達(いわゆる直貿)を加速させた。再び円安傾向に流れる中、これ以上の差益切り詰めは困難で、サプライ体制と運営体制の根本的な再構築が迫られている。顧客には「お値打ち」、従業員には「賃上げ」、取引先には「コスト転嫁受け入れ」という困難な「三方よし」を実現するにはどんな方策があるのだろうか。

インフレ下で「お値打ち」を訴求するには

これまで通りの調達方法ではコストアップを自ら吸収するか、取引先か顧客に転嫁するしかないから、サプライチェーンをショートカットするかタイムワープする必要がある。

ショートカットするには「直貿」が手っ取り早いが、発注先工場や生産仕様(スペック)が同一であることが前提で、それらが変わるなら商社やOEM業者が果たしていたソーシングとスペック開発の機能を内製しなければならなくなる。パターンと縫製仕様を設計して遠隔地の海外工場と生産仕様・コスト・納期を逐一、擦り合わせ、物流も手配し直す必要があるが、小売りチェーンやファブレスのブランドメーカーにそんな体制があるのだろうか。あってもコスト(固定費を含む)を外注より低く抑えられるのか、大いに疑問だ。

タイムワープするには、ECの売上比率が高く(越境ECならなおさら良い)、デジタル企画でCAD/CAM※1連携するオンラインPDM※2体制があって、バーチャルサンプルをAIモデルに着せてのEC掲載で受注が先行し、生産が短納期で後追いするタイムマシンサプライが必要だ。わが国のアパレル業界はようやくデジタル企画が広がり始めたばかりで、パタンナーは2D/3Dでデジタルワークしてもデザイナーはアナログワークのままだったり、海外工場とオンラインで仕様・コスト・納期を見積もってCAD/CAM連携するPDMプラットフォームを欠いていたりで、先行する中国企業のようなタイムワープが可能な企業は極めて限られる。

デザイン企画力で突出すればコストを超えた「お値打ち」が可能ではと考える方も少なくないと思うが、今日ではおよそ考えられるデザインが出尽くしてリメイクの使い回しになり、ほぼ全ての新商品やコレクションがECやHPに掲載されるから、クローラが巡回収集してAI企画すれば旬のデザインが即席で出来上がる。似たようなデザインでも素材の機能や物性、パターンや縫製仕様で着心地や着崩しのポテンシャルは大きく異なるから、着る側も素材とスペック(パターンと縫製仕様)にこだわる。アスレジャー以降の軽量化・機能化・イージーケア・イージーフィットという「ウエアリング革命」の急進もあって、「お値打ち」は素材とスペックが左右するのが現実ではないか。

ならばスペック開発力で突出するOEM業者と組むか、自社でスペックを開発する機能を持つか、洗練された物性の高機能軽量イージーケア素材を開発・供給してくれる合繊メーカーやテキスタイルコンバータと同盟する必要があるのは自明だろう。生産地の工場が現地で手当する流通素材や出来合いのスペックに依存するOEM/ODM仕入れでは付加価値は付かず、コストインフレを吸収するのは難しい。

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