ロート製薬の「メンソレータム(MENTHOLATUM)」といえば?ーーそう聞かれて、多くの人が思い浮かべるのは、深緑のあのリップだろう。おそらく日本で最も有名なリップスティックである“薬用リップスティック”【医薬部外品】(418円※編集部調べ、以下同)は、発売から49年が経った今もなお、老若男女から愛されている大定番の商品だ。ただ、近頃の若者はもしかすると違うリップを思い浮かべるかもしれない。SNSでは今、はやりのプランプ効果を搭載した「メンソレータム」の“リップフォンデュ”(全3色、各770円)が大きな話題になっているのだ。
ロート製薬のリップシリーズの売り上げは近年右肩上がりで推移しており、足下の24年7~11月も前年同期比123%と好調だ。「メンソレータム」のリップシリーズは全8種。集中補修できる“リペアワン”、1本で美発色&落ちにくさをかなえる“フラッシュティントリップ”、保水力に優れている“ウォーターリップ”、とろけるような塗り心地の“メルティクリームリップ”など多様な唇悩みのニーズに合った商品を展開しているが、中でも“リップフォンデュ”について宮下侑子 広報・CSV推進部 PRグループ マネージャーは「SNSの利用率が高い10〜20代の若年層を取り込むことができ、XやTikTokなどで商品が拡散されたことで売り上げが伸長している」と説明する。
コロナ禍で終了の危機に瀕す
PROFILE: 多田律/ロート製薬 プロダクトブランドマーケティング部
“リップフォンデュ”は2011年発売と目新しい商品ではなかったが、売り上げが爆発的に伸びたのは、24年7月のリニューアル発売がきっかけだった。たっぷりの潤いを与えるグロスのような艶感という従来品の特徴に流行のプランプ効果をプラスし、さらにトレンドを押さえた色展開に刷新。リーズナブルな価格も相まって若年層の心を捉え、「はやりのプランプリップが770円で手に入る」「2番のベビーピンクはうさぎ舌リップがかなう」などの口コミが相次いだ。
そんな同商品もコロナ禍では売り上げが落ち込み、一時は終売の危機に瀕していた。人々の唇がマスクの下に隠れてしまい、柔らかく溶け出すフォンデュのようなテクスチャーという強みが消滅してしまったのだ。ただジリジリと販売を縮小する中でも、愛用者からは継続を求める声が後を絶たなかった。「社内でも“リップフォンデュ”をなくしてはいけないのでは?という意見が広がり、コロナに負けるものか!と、辛抱強くシリーズを守り続けていました。そして再び艶リップやリップグロスの需要が高まったことを受けて、今こそ好機!とリニューアルに乗り出したのです」(多田律氏)。
安心・やさしさの“深緑”を改めて打ち出す
結果は大成功。しかし、リニューアル当時も「プランプ効果」「はやりの色展開」といった性能を備えた競合品はすでに市場にあったはずだ。その中でも“リップフォンデュ”が大ヒットできたのは、「メンソレータム」というブランドが培ってきた信頼がバックボーンにあったからだった。
「メンソレータム」は“リップフォンデュ”をリニューアルする以前の22年頃から、「安心・やさしさ」のイメージを改めて発信すべく、ブランドのシンボルである深緑色“メンソレータムグリーン”の打ち出しに力を入れてきた。商品のパッケージには必ずどこかに深緑を取り入れるようにし、ドラッグストアの販促物は深緑を前面に押し出したポップや什器に変更。テレビコマーシャルでも訴求した。「この色をひと目見るだけで『メンソレータム』というブランドや安心・安全なイメージを連想できるよう、訴求を徹底しました」(梅田かなは氏)。
その甲斐もあって、“リップフォンデュ”がリニューアルした際のSNSのコメント欄でも、使用する前から、「ティントだけど荒れなさそう」「信頼できる」といった好意的な投稿が多く寄せられた。そして、若者の間にも浸透しつつあった「安心・やさしさ」なイメージを、“リップフォンデュ”は使用感や効果効能でも裏切らなかった。
PROFILE: 梅田かなは/ロート製薬 マーケティング&コミュニケーション部
リニューアルを先導したのは2020年入社の梅田氏をはじめとする若手社員。若者と同じ目線で、プランプリップにありがちな欠点を克服すべく試作を繰り返し、新生“リップフォンデュ”を完成させた。また、それをサポートしたのは先輩社員の多田氏だ。「プランプ効果は、刺激が強すぎると逆に荒れてしまったり、ピリピリとした痛みを伴う場合があります。ですが、この“リップフォンデュ”はスーッとした心地よい清涼感はありつつも、誰が使っても荒れないような処方に仕上げています。安心・やさしさに真剣に向き合ってきた『メンソレータム』だからこそ実現した、努力の結晶といえる1本です」と胸を張る。
梅田氏は、「ゆくゆくは“リップフォンデュ”が、長く愛される1本になってほしい」と思い描く。「リップは一度使って気に入っていただければ、簡単にファンは離れない。リピートを繰り返しながら、ブランド愛が醸成されていきます」。梅田氏は、自身の経験からもそう感じているという。「私も学生時代に『メンソレータム』のリップシリーズ“もぎたて果実”を愛用していて。それ以来、荒れずにしっかりケアできる『メンソレータム』というブランドから離れられなくなったのです」。
学生時代からずっと、「メンソレータム」のリップを使っているーーそんな人もきっと多いはず。「今の中学生や高校生にとって、“リップフォンデュ”もそんな1本に成長してくれたらと思っているんです」と梅田氏は前を見据える。