環境に優しいシャンパーニュ「テルモン(TELMONT)」は、シャンパーニュ業界で最もサステナビリティに力を入れているブランドの代表格だ。“母なる自然の名のもとに”を掲げ、ブドウの有機栽培から輸送は海輸のみと徹底したサステナブルな企業活動を通して、シャンパーニュ業界に革新をもたらすと同時に、“量より質”をモットーにクオリティの高いシャンパーニュを届けている。「テルモン」を率いるのは、ルドヴィック・ドゥ・プレシ=テルモン最高経営責任者(CEO)。彼の右腕が、ジャスティン・ミード=テルモン グローバル・マーケティング&ビジネスデベロップメント・ディレクターだ。元々はフランスの新聞「ル・モンド(LE MONDE)」の記者だったというミードに、記者からシャンパーニュメゾンの運営へ転身した道のりや“ソバーキュリオス”の動きなどについて聞いた。
WWD:「ル・モンド」の記者からアルコール業界へ転換したきっかけは?
ジャスティン・ミード=テルモン グローバル・マーケティング&ビジネスデベロップメント・ディレクター(以下、ミード):記者として働き、コミュニケーション・エージェンシーでの経験もある。もともとお酒には興味があったし、記者としてではなく、違った視点で素晴らしい製品の重みのあるストーリーを伝えたいと思いモエ ヘネシーに転職し、シャンパーニュの世界を発見した。記者とシャンパーニュ業界での仕事を比較してみると、共通点がたくさんある。両方共、“真正性”や“情熱”が必須だし、真実に対する敬意がなくてはできない仕事だ。それからコニャックの世界に進んだ。
WWD:プレシCEOとの出会いや「テルモン」に携わるようになったきっかけは?
ミード:ルドヴィックとは、レミーコアントローの世界最高級コニャック「ルイ13世(LOUISⅠⅢ)」の仕事で出会った。彼がグローバル・ディレクターで、私はシニア・ブランド・マネジャーだったが、彼のチャレンジング精神とエネルギーに共感し、すぐに意気投合した。シャンパーニュもコニャックも高級で素晴らしい味わいが特徴。どちらも、自然の産物であるブドウがなければ作ることはできない。だから、徐々に自然やそれを育む地球を大切にするべきだという思いが芽生えた。それなしでは、これら最高の味わいは生まれないから。だから、ルドヴィックから環境に優しいシャンパーニュ「テルモン」の事業を手伝ってほしいと言われて「イエス」と即答したよ。「テルモン」はブドウ農家のシャンパーニュメゾンに対する暴動により1912年にアンリ・ロピタルが創業した。彼はブドウ作りを熟知しており、シャンパーニュも自分で作ろうと始めた当時のスタートアップ企業だ。ブドウ作りとシャンパーニュ作りは同じという精神を引き継ぎ、ルドヴィックとメゾンに第二次革命を起こしているところだ。
100年後にシャンパーニュを楽しむためにはプランBはない
WWD:数多くあるシャンパーニュブランドの中で「テルモン」の強みは?
ミード:シャンパーニュそのものが強みだ。それは、テロワール(ブドウが栽培される土地)そのものを表している。ボディーはしっかりしているけれども、とても軽やかな余韻がある点。フルーティで生命力があり、繊細な泡が特徴。それは、原料であるブドウの味に左右される。高品質のシャンパーニュをつくるには、いいブドウを栽培する必要がある。創業時からのブドウ作り=シャンパーニュ作りという考えを引き継ぎ、セラーマスターのベルトラン・ロピタルが1999年に有機栽培を始めた。畑を有機にすることは、新しい言語を学ぶほど大変なこと。長年かけて土壌を改善し、ここ数年で、除草剤、殺虫剤、防カビ剤、化学肥料を全く使用せず、100%の再生有機栽培に切り替えた。25年かけて生まれた完全有機栽培のブドウを使用したシャンパーニュは全体の約5%だ。
WWD:サステナビリティやトレーサビリティーへの取り組みには時間と投資が必要だが、ビジネス活動の主軸にそれを掲げるのは?
ミード:プランBは存在しないから。50年後、100年後にシャンパーニュを楽しみたいと思ったら、徹底したサステナビリティやトレーサビリティの活動を実行する以外に方法はない。われわれはサステナビリティへの取り組みを制限とは考えない。ビジネス活動を日々より良くする変化をもたらし、革新する大きなチャンスだと見ている。
WWD:具体的に行っている活動は?
ミード:まず、ギフトボックスを廃止。ボトルもリサイクルガラスを使用した色付きのボトルに切り替えて二酸化炭素の削減を行っている。「テルモン」は、グラスメーカーのヴェラリアと協業でシャンパーニュボトルとしては最軽量の800gのボトル(通常900g~1kg)を製作し、軽量化に成功した。通常は特許を取得し、他社との差別化を図るが、敢えてオープンソースにしている。より多くのシャンパーニュ業者がこの軽量ボトルを使用することで二酸化炭素排出量を減らせるから。「テルモン」の活動が小川だとしたら、それが業界全体に広がることで大きな川へとなる。オフィスや工場は全て再生エネルギーを使用しているし、トラクターもバイオ燃料に切り掛えた。通勤も全員、電車と自転車。雨の日は合羽を着て通勤しているよ。このように徹底的にサステナビリティにコミットすることで、「テルモン」は2050年までにネットゼロを達成した最初のシャンパーニュハウスになることを目指す。
品質や体験を重要視する“ソバーキュリアス”に商機あり
WWD:現在の課題は?
ミード:シャンパーニュの味自体やそれを製造する方法など、まだまだやることはたくさんある。サステナビリティの道は長い。「テルモン」のサステナビリティをビジネスの軸に据えた活動に続くワイン醸造家が増えることを期待している。
WWD:「テルモン」をより多くの人々に知ってもらうために行っていることは?
ミード:「テルモン」は、サステナビリティに関して一才妥協せずに、最高品質のシャンパーニュを提供するメゾンであることを伝える役割がある。われわれと共感してくれるディストリビューターやレストランなどとの関係性を築くのはもちろん、ラグジュアリー・ブランドをはじめ、サステナビリティ活動を積極的に行っているさまざまな他業種の会社とコラボレーションしている。イギリス発自転車「ブロンプトン(BROMPTON)」と協業でエコなワインツーリズムも提供している。パリから電車と「ブロンプトン」の自転車を使って、「テルモン」本社へ訪れるというものだ。
WWD:“ソバーキュリアス”の動きが広がり、アルコールフリーの飲料が増えているが、現在のアルコール業界をどのように分析するか?
ミード:ソバーキュリアスの動きは、確かにわれわれの業界に影響をもたらしている。それは、お酒の飲み方に対する意識が高まっているということ。「テルモン」のような量よりも品質や体験を重要視するブランドにとってはいい傾向だと思う。われわれにとって、この動きはポジティブなものでブランドの哲学ともマッチしている。高級アルコール飲料の未来は、透明性を持って本物と意味ある体験を提供することにあると思う。