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USインディー・ロック・バンド、ヒッポ・キャンパスが新作「Flood」で目指した「バンドらしい音楽」

2013年にアメリカ中西部のミネソタ州で結成されたヒッポ・キャンパス(Hippo Campus)は、流行の入れ替わりが激しいUSインディー・ロック・シーンで10年以上のキャリアを誇る実力派のバンドだ。メンバーは、リード・ボーカル&ギターのジェイク・ルッペン、リード・ギター&ボーカルのネイサン・ストッカー、ベースのザック・サットン、ドラムのウィスラー・アレンの4人。ジャズやオペラの素養を背景に持つ4人の演奏は実に多彩かつ巧みで、インディー・フォークとエモとエレクトロとアフロ・ポップが交差したサウンドは、The 1975やヴァンパイア・ウィークエンドも引き合いに出して語られるなど一貫して評価が高い。

そんな彼らが24年9月にリリースした4作目の最新アルバム「Flood」は、いわく「バンド」としての原点に立ち返った作品。実験的なプロダクションにこだわった前作「LP 3」(22年)と異なりライブ・レコーディングに近い形で制作され、生演奏のフィーリングとみずみずしいアコースティックの音色が歌やメロディーの魅力を引き立てる、親密な音づくりが大きな聴きどころだった。

そのニュー・アルバム「Flood」を引っ提げて行われた、昨年11月のジャパン・ツアー。これが初来日、しかも海外ではホール公演も埋める彼らをライブハウスで観られるということで、東京公演初日の場となった新大久保アースダムはもちろんソールドアウト。「今回のアルバムを通して僕たちは音楽の楽しさを改めて思い出したし、ファンとの絆も深まったと思う」。開演前にそう話してくれたジェイクとネイサンの2人に、そんな「Flood」と「バンド」を取り巻くさまざまなトピックについて聞いた。

「毎回、新しい挑戦をして、音楽を楽しみ続ける」

——ニュー・アルバムの「Flood」はライブ録音に近い形で制作されたということで、実際にライブで演奏していても、他のアルバムの曲とは違った手応えがあるのではないでしょうか。

イサン・ストッカー(以下、ネイサン):そうだね、「Flood」は、バンドが部屋で演奏するような、最もシンプルな状態に立ち返って、音楽の根源を追求したアルバムなんだ。無駄なものを削ぎ落として、生演奏のエネルギーにフォーカスすることで、音楽の本質をリスナーに届けたかった。だから、このアルバムをライブで演奏するのは僕たちにとっても新たな挑戦で、同時に大きな喜びなんだ。特に、日本のファンの前で演奏できることを楽しみにしてるよ。

——シンプルな状態に立ち返りたかったのは、どうして?

ジェイク・ルッペン(以下、ジェイク):過去の2枚のアルバムは、プロダクションに重点を置いて制作したものだった。ラップトップの使い方やレコーディング技術を追求して、とにかく音の限界を押し広げることに集中した。でもしばらくして、それが少しマンネリ化してきたように感じられて。スタジオで実験的なことをするのも楽しいけど、やっぱりライブでファンと直接つながることが大切だと思う。それで、音楽の本質であるライブ・パフォーマンスの重要性に気付かされて、ある意味、音楽の原点に戻ろうと思ったんだ。だから今回のアルバムでは、ライブで演奏することを前提に、より生々しく、ダイレクトなサウンドを目指した。今回のアルバムを通して、僕たちは音楽の楽しさを改めて思い出したし、よりダイレクトに感情が伝わることでファンとの絆も深まったと思う。

少なくともアメリカでは、僕たちはライブを中心に活動してきた。だから、それを象徴するようなアルバムをファンに届けたかったんだ。今回のアルバムは、ネイサンが言っていたように、可能な限り僕たちのコアに近い。でも次のアルバムでは、またクレイジーなサウンドづくりに戻るかもしれない。いや、その中間くらいかな(笑)。ただ、僕らにとっては、アルバムごとに異なるミッション・ステートメントを持つことが重要なんだ。毎回、新しい挑戦をして、音楽を楽しみ続けることが大事だと思う。

ネイサン:僕たちのアルバムは、いつも最後につくったアルバムに対するリアクションなんだ。だから次は、今までとは全く違うことをやってみたくなる。二度と同じことはしない。常に新鮮なものをつくり続けたいから。

——今回の曲づくりの過程は、試行錯誤の連続だったと聞いています。実際、今作のサウンドのフォルムやテイストに関しては、具体的にどんなイメージや方向性を持って制作は進められたのでしょうか。

ネイサン:今回のアルバムは、本当に自由な発想でつくったんだ。朝起きて、コーヒーを飲みながらスタジオに行って、何も考えずに楽器を演奏したり、即興で歌ってみたり。そんなことを繰り返して、自然に曲が生まれていった。曲づくりは、ジェイクがギターのリフを思いつくことから始まったり、僕とジェイクが一緒に歌詞を考えたり、みんなで集まって即興でセッションしてそこから新しいアイデアが生まれたり、本当にさまざまだった。

とにかく、僕たちはそれぞれの曲に全力を尽くして、完成させることに集中したんだ。それで全ての曲が完成したあとに、それらの曲に共通するテーマや、特に際立っている曲を見つけるために、何度も、何度も聴き比べた。結果、100曲以上のデモが出来上がって、そこからアルバムに収録する曲を厳選するのは本当に大変だった。曲づくりって、最初は本当に混沌としているんだよね。始めたばかりのころは、どの曲とどの曲が合うのかなんて、全く想像もつかない。だから、まずはそれぞれの曲を完成させて、最後にそれらを組み合わせて、アルバム全体としての一つの世界観をつくり出すんだ。まるで万華鏡みたいに、いろんな曲が組み合わさって、最終的に美しい絵が完成する。正直、僕自身も完成したアルバムを聴いて、自分でもどこへ向かっているのか分からなくなるときもあるよ(笑)。

ジェイク:今回のアルバムは、歌のメロディーや歌詞が特に重要な役割を果たしている。よりクラシックなロック・アルバムというか、歌詞とギター・コードが主導したつくりになっていて、心に響くような音楽を目指したんだ。レッド・ホット・チリ・ペッパーズや、リック・ルービンが手掛けた作品のような、シンプルながらも深みのあるサウンドを参考にしながら、自分たちの音楽をつくり上げた。無駄なものは一切排除し、本当に必要な要素だけを詰め込むことで、より楽曲の完成度を高めることができた。今回のアルバムは、メロディーや歌詞が際立っているので、聴く人により深く感情移入してもらえると思う。

——「クラシックなロック・アルバム」とのことですが、ただ、楽曲の構成や音づくりはヒッポ・キャンパスらしく“モダン”だと思います。

ネイサン:オアシスやトム・ペティのような、どこか懐かしい感じがする音楽もいいけど、僕たちはもっと現代的なサウンドに挑戦したい。レディオヘッドのようにね。

ジェイク:そうそう。でも、特定のバンドや音楽ジャンルに影響を受けたというよりは、“音のエートス(性格、気質)”みたいなものかな。もっと感覚的なもので、自分たちの内側から湧き出てくる感情や感覚を表現した作品なんだ。なぜなら、僕たちは常に変化し続けているから。過去の自分たちにとらわれずに、新しい自分たちを表現したい。自分たちが「これだ!」って思うような音楽をね。だから、同じような感覚を共有できる音楽を探して聴いたりもするけど、必ずしもそれが音楽的な影響ってわけじゃないんだ。

今作で実現したかった“バンドらしさ”

——その「同じような感覚を共有できる音楽」というところでは、先ほど名前のあがったレッド・ホット・チリ・ペッパーズの他に、フェニックスやビッグ・シーフからもインスパイアされた部分があったそうですね。

ジェイク:フェニックスは、リズム・セクションのドライブ感にエネルギーがあって、僕たちの音楽も大きな影響をもらっている。だから今作でも、 特にリズム・セクションのウィスラー(・アレン、ドラム)とザック(・サットン、ベース)の演奏はタイトでパワフルで、グルービーで、聴いていて気持ちいい。僕たちがバンドを始めた頃から、フェニックスは大きなインスピレーションを与えてくれるバンドの一つなんだ。

それとビッグ・シーフは、歌詞の言葉選びやメロディーのつくり方がすごく魅力的で、サウンドも独特で面白い。それに加えて、彼らはとにかく多作だよね。彼らがこの数年でアメリカの音楽シーン、聴衆やソングライターに与えた影響は大きいと思う。僕たちが今回のアルバムで実現したかったのは、僕たちが“バンドのように見える”ということだった。僕たちも、ビッグ・シーフみたいに、メンバー全員が一体となって音楽をつくりたいと思っていた。お互いを尊重し合い、コミュニケーションを取りながら、自分たちの音楽を追求していく。それが、僕たちの理想の「バンド」の形なんだ。特にライブ・パフォーマンスにおいては、観客との一体感を大切にし、エネルギッシュなステージングを心掛けている。

ネイサン:その通りだね。今回のアルバムでは、特定の要素に注目してつくったというよりも、「バンド」であることを伝えたかったんだ。だから他のバンドから影響を受けることはあっても、最終的には自分たちのオリジナリティーを追求したかった。それに、最近の音楽シーンでは「バンド・サウンド」が少なくなっていると感じていたので、あえてバンドらしい、ライブ感のある音楽を表現してみたかったんだ。

——ビッグ・シーフもそうですが、生楽器のオーガニックな音色やフォーキーなテイストは、これまでもヒッポ・キャンパスのサウンドにおいて大きな魅力だったと思います。そこに改めてフォーカスを当てることも、今作の音づくりにおいて鍵となる部分の一つだったのでしょうか。

ジェイク:うん、そうだね。僕たちの曲は、実際に演奏する楽器から生まれることが多い。特にアコースティック楽器のフィジカルな要素——ギターの弦を弾く感触や、ピアノの鍵盤を叩く音など、楽器から直接生まれる感覚は音楽をつくる上でとても大切なんだ。楽器に触れて音を出すことで、自然とアイデアが浮かんでくるし、生演奏の持つ力って、やっぱり特別だと思う。そして、スタジオで録音した曲をライブで演奏することで、その音楽にさらに命が吹き込まれる。今回のアルバムのニッキー(ネイサン)のギターは素晴らしいよ。

ネイサン:昔のレコードでは、ギターの音にエフェクトをかけまくって歪ませたり、ドラムの音を機械っぽく加工したりすることが多かった。でもこのアルバムでは、生演奏のダイナミックさを最大限に引き出すために、ギターはギターらしく、ドラムはドラムらしく、なるべく自然な音を出すことにこだわった。シンセサイザーも極力控えて、生楽器の音を前面に出したかった。だから、このアルバムはオーガニックなサウンドになっていると思う。

——その「オーガニックなサウンド」という部分でいうと、今回プロデューサーを務めたブラッド・クックの貢献も大きかったと思うのですが、いかがですか。

ジェイク:レコーディングは最初、友人のカレブ(・ヒンツ。前作「LP 3」のプロデューサー)と一緒に始めたんだけど、“もう一人の耳”が必要だという段階になって、それでブラッドを呼んだんだ。ブラッドは、アーティストの個性を最大限に引き出すことに長けていて、僕たちの音楽をもっとアグレッシブに表現する方法を教えてくれた。彼は、アーティストにとって最も強力なツールは自分自身の声であり、過度にテクニックに頼る必要はない、それ以外のもので“遊ぶ”のは危険だってことに気付かせてくれた。

彼の考え方は、リック・ルービンみたいなプロデューサーにも通じるものがあって、シンプルでストレートなサウンドを追求するその信念にすごく共感できた。特にレコーディングの最終段階で、ブラッドが僕たちの音楽を信じてくれたおかげで、自信を持ってアルバムを完成させることができた。ブラッドとの仕事は本当に楽しかったし、彼の人柄も大好きだ。ちょっと変わったところもあるけど(笑)、最高のプロデューサーだよ。

——ブラッド・クックといえば近年、ワクサハッチーやボン・イヴェールと素晴らしい作品を残していますが、そうした彼の仕事も今作の参考になった部分はありましたか。

ジェイク:そうだね。それも自然の流れだった。それらのレコードから得たインスピレーションが、僕たちの音楽の根底にもあると思う。

ネイサン:このアルバムは、僕たちが目指していたドライで力強いサウンドを実現できたと思う。ブラッドは、その点において、まさに理想のプロデューサーだった。彼がボン・イヴェールやワクサハッチーの作品でやったこととこのアルバムには通じるものがあると思う。どれも独特の雰囲気を持っているけど、共通して言えるのは、アーティストの個性を最大限に尊重し、その才能を引き出すことに長けているということ。それに今回のアルバムでは、カレブの持つ実験的なアイデアを具現化するために、ブラッドは積極的に協力してくれた。彼のプロデュース・ワークのおかげで、僕たちの音楽は新たなステージへと到達できたと思うよ。

ジェイク:それに2人ともノースカロライナに住んでいるから、お隣さんだしね。

「大切なのは今の自分たちの感覚を大切にしながら、音楽を作り続けること」

——ところで、(ベースの)ザックは今回の「Flood」について「30代に突入した男たちのレコード(“guy-entering-his-thirties album.”)」と呼んでいるそうなんですけど。2人にとってもそういう認識はありますか。

ジェイク:いや(笑)、分からないなあ……ただ、ザックが言いたかったのは“限られた時間を受け入れる”ということだと思う。歳を取れば取るほど、それはより現実味を帯びてくるし、自分の死というものをより身近に感じるようになる。死は決して遠い存在ではなく、常に自分の中に存在していることに気付く。そのことを意識することで、音楽に対する向き合い方が大きく変わったんだ。そのシリアスさは、これまで経験したことのないような形でレコードに影響を与えたと思う。特に歌詞では、人生の儚さや、限られた時間の中で何を大切にするかといった、以前とは違う、より深いテーマを扱っている。それは、僕たちにとって新しい表現の試みだったと言える。

ネイサン:僕たちも若いころは、音楽業界のルールに縛られて、自分たちの音楽を表現することに苦労した。でも、この10年の間に音楽業界は大きく変わって、昔のような考え方は通用しなくなった。そして、年齢を重ねるにつれて、誰かに認められたいという気持ちが薄れていった。今は、ただ自分が楽しいと思える音楽をやりたい。子供のころからずっと音楽をやってきたけど、大人になった今もその気持ちは変わっていない。だから、僕たちの音楽は、どんなジャンルにも当てはまらないかもしれない。でも、それが僕たちのスタイル——今の僕らの“30代の音楽”なんだ。みんなに気に入ってもらえたらうれしいけど、そうでなくても、僕たちは自分たちの音楽を楽しみ続ける。それだけのことさ。

——前作から今回の「Flood」の間に、ネイサンは断酒のためのセラピーを受けたり、またバンドとしても一人ひとりが自分自身と向き合うための時間を多く過ごしたと聞きました。そうした自分たちのありのままの姿を記録したい、という思いが今作には強くあったのでしょうか。

ジェイク:うん、年齢は違えど、大切なのは今の自分たちの感覚を大切にしながら、音楽を作り続けることだから。バンドとしても、個人としても、常に成長し、創造的な野心と創造的なプロセスを通してそれを表現し続けたい。簡単なことじゃないけど、自分たちにとってそれが最もやりがいのあることなんだ。

「Flood」は、コロナ禍で生まれたアルバムだから、自分たちの内面を深く見つめ直すいい機会になった。以前は、ツアーに追われて、自分の人生についてじっくり考える余裕がなかった。でも、コロナ禍で活動が止まったことで、自分にとって本当に大切なものって何だろうって、改めて考えるようになった。このアルバムには、そんな自分たちの心の変化がそのまま反映されている。何が幸せで、何がそうでないのか——そんなことを考えながら、一つひとつの音を重ねていった。多くの曲は、自分自身と向き合いながら生まれたものなんだ。30代になった今、あの時、コロナ禍を経験できたことは幸運だったと思う。あのまま突っ走っていたら、きっと燃え尽きていたかもしれない。あのころは、とにかく働きづめだったからね。アメリカらしい働き方というか、とにかく働き続ける、それが当たり前だと思ってた。常に何かを成し遂げなければいけないというプレッシャーを感じていたんだ。

ネイサン:そう、だから、みんないつかは死ぬんだということを忘れてはいけない。でも、そうだね、あの活動休止期間は、バンドとしても、そして僕らがお互いを理解し合うためにもとても有益だったと思う。あの経験があったからこそ、ヒッポ・キャンパスの次のアルバム(「Flood」)はとても健康的で、より深みのあるものになったんだ。だから今は、音楽を心から楽しむことを再発見しているところなんだよ。

目指すべきロールモデルは?

——そんな今の2人にとって、例えばこんなふうにキャリアを重ねていきたい、音楽的にも充実した作品を作り続けていきたい、みたいなロールモデルとなるバンドやアーティストはいますか。

ネイサン:ミネアポリスにロウ(Low)というバンドがいて、ロウのアラン(・スパーホーク)は僕らの最初のEP(「Bashful Creatures」)をプロデュースしてくれたんだけど、彼らがアルバムを重ねるごとに音楽的な幅を広げていく姿を見て、本当に刺激を受けたんだ。アランはすでに50代なのに、常に新しい音楽に挑戦していて、僕がこれまで聴いてきた音楽の中でもかなり突き抜けた、プログレッシブな音楽をつくっている。アランは僕たちにとって、音楽的な目標のような存在なんだ。音楽をつくるってことは、ただ音を出すだけじゃなくて、常に新しいものを創造していくことだと思う。芸術性を高め続けることで、自分自身の表現を追求していく。そのためには、恐れずに挑戦し続けなければいけない。アランを見ているとそう強く思うんだ。

ジェイク:本当にそう思う。アランは音楽だけでなく、人としても尊敬できる人なんだ。彼はコミュニティーを大切にしていて、みんなから愛されている。ヒューマニティーの擁護者なんだ。彼は、音楽が人々をつなぎ、社会をより良くする力を持っていると信じている。まず他人を大切にし、その上で音楽をつくり、それがサウンドやギターの弾き方に反映される。彼の音楽には、そんな温かい心が感じられるんだ。

ネイサン:僕たちが尊敬するミュージシャンは、経済的な安定を築きながらも、音楽に対する情熱を失っていない。でも、彼らはメガ・スターではない。中流階級のミュージシャンというのは、僕らにとっても興味深い存在で、自分たちのやりたいことをするための自由や自らのエージェンシーを持ちながら、幸せで健康的な生活を送り、仕事をすることができている。デス・キャブ・フォー・キューティーもその一つだよね。彼らが、自分たちのスタイルを貫きながら、長く音楽活動を続けている姿は、僕たちにとっても大きな励みになっている。若い頃は、彼らのようなキャリアを築きたいって、本当に憧れたよ。彼らのキャリアは、僕たちのようなインディーズ・ミュージシャンにとって、一つの理想と言えるかもしれない。

ジェイク:でも、歳を重ねて、昔のようにエネルギッシュな音楽を奏でられなくなってしまうバンドを見ると、少し寂しい気持ちになるんだ。僕もいつかそうなるのかと思うと、正直怖い。アランはそんな僕たちの不安を払拭してくれる存在なんだ。彼は年齢を重ねてもなお、音楽に対する情熱を失っていない。そんなアランを見ていると、希望が持てるというか。

将来のことなんて、正直よく分からない。でも、彼らのように、長く愛されるバンドになりたいという気持ちは、誰しもが持っているんじゃないかな。彼らが長く音楽シーンで活躍していることには、ただただ尊敬の念しかないよ。だから今は、目の前の音楽に集中して、自分たちの表現を追求していきたい。難しいことばかりだけど、それが楽しいんだ。

——ロウは同じミネソタ州出身のバンドということで、やはり特別な存在なんですね。

ジェイク:そうだね。彼らはまさに、僕たちが目指す音楽の理想形なんだ。

——アランとは今でもやり取りがあったりするんですか。

ネイサン:先日、偶然彼とばったり会ったんだ。久しぶりに話せて嬉しかったよ。彼は最近、ゴッド・スピード・ユー・ブラック・エンペラーのオープニングアクトを務めたんだ。(日本語で)トッテモカッコイイデス。トッテモ最高(笑)。

でも、彼とはもうしばらく一緒に音楽をつくる機会がなくて、少し寂しい。彼の奥さん(※ロウのドラマーだったミミ・パーカー)が亡くなってから、もう1年半が経つ。彼の奥さんの葬儀にも参列したんだけど、その時にステージで息子さんと一緒に演奏している姿を見て、本当に感動した。息子さんがベースを弾いていて、その演奏はとても美しかった。彼の母親への想いが込められているように感じたよ。

ジェイク:アランは僕たちにとって、音楽の父親のような存在なんだ。本当にそう思うよ。

アメリカ大統領選が終わって

——ヒッポ・キャンパスといえば、#MeToo運動と連帯してサポートの声を上げたり、慈善活動に取り組んだりしていた姿も印象に残っています。アメリカ大統領選が終わって2週間弱が経ちましたが、結果を受けて率直にどんなことを感じていますか。

ネイサン:ふーーっ(笑)……複雑な気持ちだよ。いや、複雑じゃないな。悔しいし、混乱してるよ。

ジェイク:そう、つまりとても引き裂かれていて、直視するのが難しいんだ。特に、ソーシャル・メディアがアメリカをこんな風にしてしまったなんて、本当に残念だよ。みんなが怒っているのもよく分かる。あのような男が、僕たちの国の代表として世界に顔を晒している現状は耐え難いし、とても恥ずかしい。

ネイサン:アメリカの二大政党制は、もう機能していないよね。もはや完全に崩壊している。人々に2つの悪のうち、よりマシなほうを選ぶように迫るのは、とてもつらいことだよ。民主主義の理想からかけ離れている。どの選択肢も満足のいくものではないけれど、ただ、それでもこの状況を改善するために、何かしらの行動を起こさなければならない。投票に行かないという選択肢はない。だから今回の選挙でも、多くの人がそう感じていたはずだし、より良い未来を求めて投票所に足を運んだんだと思う。

ジェイク:アメリカは今、自分たちの選択の結果と向き合わなければならない。なぜこのようなことが起きたのか、なぜこのような人物を選んでしまったのか、深く考えなければいけない。そして次の4年間は、自分たちの社会をより良くするために、深く内観し、何ができるのかを真剣に考えたい。今のシステムは明らかにうまく機能していない。ただそうした中で、人々に再び希望を与える方法を考える必要がある。より公正で平等な社会を実現するために、僕たちは力を合わせなければならない。

ネイサン:アランがゴッドスピードのライブで言っていたんだ。真のコミュニティーは、ローカルで、より個人的なレベルで築かれるべきだって。人々が集まって、毎晩1時間、プロテスト・ソングを聴きながら、建設的な話し合いをすればいい。社会問題について語り合い、互いに理解を深める。怒らず、分裂せず、建設的な方法で、適切なコミュニケーションの取り方をお互いに教え合う。そんな場が理想的だね。でも、それをビジネスにすることなく行うのはとても難しい。そうなると突然、また資本主義のシステムに飲み込まれてしまう気がする。どうすればいいのか……時々、何もかも捨てて、静かな場所に引っ越したくなるよ(笑)。

——今回のアルバムの収録曲の“Paranoid”には、「ゴールの先には何かが待っているのだろうか?(Is there something waiting out there for us at the finish line?)」という歌詞があります。この問いの答えは見つかりましたか。

ネイサン:いや、これからも見つからないと思う。実は、その歌詞の直前には「もしかしたら(maybe)」という言葉があって、それが何かを考え始めるきっかけになっているんだよね。

永遠に続くものなんてあるのかな? それとも、「永久」って言葉は本当にあるんだろうか?——答えなんてない問いだけど、でもこのことは、僕たちが今いる場所を教えてくれる気がするんだ。それはつまり、まるでレースみたいに、僕たちは今、その真っ只中を走っているってこと。だから、どうすればもっと効率よく、健康に走り続けられるか、って考えるべきなんだ。ゴールなんて、ずっと先にあるかもしれない。でも、一度ゴールしたら、もう後戻りはできない。だから、意味があるのかどうかは分からないけど……最初はさ、自分よりもっと大きな力、ある種の実存的な、神様みたいなものがあるんじゃないかって思ったんだ。でも、30代になった今、お酒をやめて、ドナルド・トランプが大統領になったこの時代を生きている。だから何であれ、持っているもの全部を使って、その力を最大限に引き出せたら、きっと何かが変わるんじゃないかって。そう思うんだ。

——ところで、ネイサンの帽子(「巨」と書かれた帽子)がずっと気になっているんですけど(笑)、読売ジャイアンツの帽子っぽく見えるのですが、それは日本に来て買ったんですか。

ネイサン:これ? この漢字は「巨人=大きくて背が高い」っていう意味なんだよね。何年か前にウィスラーに誕生日プレゼントでもらったんだよ(笑)。

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