PROFILE: 府川俊彦/「スブ」ディレクター
リラックスサンダルの「スブ(SUBU)」は1月11〜19日、原宿でポップアップイベント「ハレモケモ(HAREMOKEMO)」を開催している。府川俊彦ディレクターが“誰も知らない冬のサンダル”をコンセプトに「スブ」をスタートしたのは2016年。以来10年で、冬用サンダルの代表格の1つとしてマーケットを確立し、卸先は全世界30カ国約800店に拡大、年間売上高は約11億円に育った。仏ギャラリー・ラファイエットやメルシー、米MoMAストアといった有力店はもちろん、アフリカのマラウィや南米ボリビアにも卸先があるというから驚きだ。
「冬、仕事から帰ってシャワーを浴びた後にコンビニに行く。あるいはゴミを出しに行く。そんな時に裸足で履くものが欲しいと思ったのが立ち上げのきっかけ」と府川ディレクター。4層重ねたインソールと、足裏に当たる部分に起毛素材を使うことで、包みこむような履き心地を実現。確かに、冬に裸足で履いてもヒヤっしない。一部のコラボ商品を除いて、5280〜1万3200円という価格帯も魅力だ。
インテリア雑貨卸のイデアポートの中で、府川ディレクターは1人でブランドを開始。独学で身につけたイラストレーターでイメージ画を描き、それを手に中国をまわって作ってくれる工場を探したのだという。立ち上げ2年目からビームスとの別注が始まり、その後もパリの有力雑貨総合展「メゾン・エ・オブジェ」や、伊フィレンツェのメンズファッションの祭典「ピッティウオモ」などに出展。順調に国内外の卸先を開拓してきた。
コラボでファッション文脈を獲得
アウトドアシーンやカジュアル用途でまず認知を得た「スブ」だが、ブランドとしてステップアップする1つのきっかけになったのが、テキスタイルデザインに強みがある英「イーリー・キシモト(ELEY KISHIMOTO)」との21年のコラボレーションだ。それまではプロダクト的な切り口で語られることが主だった「スブ」が、「イーリー」とのコラボでぐっとファッションの文脈に近づいた。
「イーリー」以外にも、「アー・ペー・セー(A.P.C.)」「カーハート(CARHARTT)」「ア ベイシング エイプ®(A BATHING APE®)」「サンディー リアング(SANDY LIANG)」、ミラノの有力店ディエチ コルソ コモ、「ナンガ(NANGA)」など、カジュアル&アウトドアからモードまで、これまで多様なコラボを実施してきた。「『ベアブリック (BE@RBRICK)』がキャンバスとしてさまざまなブランドに愛されているのと同じように『スブ』も捉えてもらえているのかも」と府川ディレクター。女子サッカーのちふれASエルフェン埼玉とは、サンダル付きの観戦チケット「スブシート」といったコラボ企画も行っている。
冬用サンダルなのに、それほど寒くないインドの街やエジプトにも卸先がある。「暖房設備はないけれど、15度前後になる日もあるといった国の人たちに、『スブ』を履くぐらいがちょうどいいと感じてもらえている」。また、「身につけるものの中で、その国の文化を一番表しているのが靴」というのが府川ディレクターの考え。脱ぎ履きがしやすくて冬でも温かいサンダルは、「家の中で靴を脱ぎ、徒歩5分の距離にコンビニがあり、特定の曜日に必ずゴミ出しに行くといった日本の生活スタイルの中でなければ生まれないもの。日本からやって来た、“ちょっと気の利いた気持ちのよい履き物”が、現代版のぞうりのように日本的だとして支持されている面もあるのでは」。
「“ハレ”の日も履いてほしい」
世界各国のショップに誘われてポップアップイベントを開いてきたが、ブランドとして場所を借りてポップアップをするのは今回の原宿が初めて。純和風の日本家屋の外壁を、香港の工事現場で見るような竹組みの足場で囲い、巨大な「スブ」サンダルのバルーンも展示。中に入ると、LEDの9連スクリーンが設置されたイマーシブシアターに極彩色の世界が広がる。サンダルブランドとして「スブ」を知っている人でも、「こんな側面もあったのか」と驚くこと請け合いだ。イマーシブシアターは、干支のヘビや招き猫といった府川ディレクターが描いたおめでたいモチーフをもとに、3DCG制作のニエイチが映像化して空間を作ったという。ポップアップでは他に、ブランドの10年を振り返る年表やコラボリストの展示、漢方を取り入れたクラフトティーの提供などを行っている。
イベント名の「ハレモケモ」は、「スブ」の24-25年のテーマでもある。ゴミ捨てや仕事中の日常履きといった“ケ”のシーンだけではなく、“ハレ”のシーンでも履いてほしいという考えで、今シーズンはベロアやツイード、スパンコール装飾といった華やかな要素を盛り込んだモデルもそろえた。ポップアップでは、もちろんそれらの試着・購入も可能だ。
府川ディレクターは24年8月から、中国・浙江省の新昌県に住み、6人体制となったブランドをリモートでディレクションしている。「生産現場のそばに住んで、モノをしっかり作りたい。住んでいる場所は工場まで車で5時間くらい。近過ぎるのも良くないから、今はとても快適」と満足げ。「今後は『スブ』を身につけると気持ちいい、心地よい、温かいといった部分を軸にして、サンダルやシューズ以外にもブランドを広げていきたい。いつか常設店も持てたら」。
◼️「スブ」 ポップアップイベント “HAREMOKEMO”
期間:1月11日~19日
時間:11〜19時
場所:UNKNOWN HARAJUKU(アンノン原宿)
住所:東京都渋谷区神宮前 6-5-10
定休日:会期中なし
入場料 :無料(予約不要)