イッセイ ミヤケは、1月のパリ・メンズ・ファッション・ウイークで、これまで「オム プリッセ イッセイ ミヤケ(HOMME PLISSE ISSEY MIYAKE)」でショーを開催してきた枠にメンズブランド「アイム メン(IM MEN)」で初参加する。発表は23日にランウエイショーを、翌日24日から26日まで一般入場可能な特別展示“フライ・ウィズ・アイム メン(FLY WITH IM MEN)”をパリ6区のレフェクトワール・デ・コルドリエ(REFECTOIRE DES CORDELIERS)で行う。同展ではブランドの“エンジニアリング”を取り入れた服作りの方法論や、その背景、ストーリーを、吉岡徳仁のインスタレーションを通して世界に向けて発信する。
「アイム メン」は、20年に休止した「イッセイ ミヤケ メン(ISSEY MIYAKE MEN)」の後を継ぐメンズブランドとして、21年に本格始動した。“男性のための新しい日常着”をコンセプトに、三宅一生氏の服作りの根幹にある思想“一枚の布”を発展させた構造や、環境に配慮した素材使いなど、日常生活に軸足を置いた発想をもとに、あらゆる革新に挑んできた。立ち上げ当初は国内のみの小規模な販路でスタートし、1年前から海外での販路を少しずつ拡大している。パリでの発表を機に、さらなる知名度の向上と拡販を目指す。
三宅デザイン事務所(MDS)に所属する「アイム メン」デザインチームのメンバーには、とある肩書が付く。河原遷と板倉裕樹はデザイン/エンジニアリング、小林信隆はテキスタイルデザイン/エンジニアリングで、それぞれが“エンジニア”を担っており、その点が同ブランドの強みでもあるという。三宅氏と共に目指したエンジニアリングを融合した服作りは、7人のデザインチームによってどのように進化しているのか。また、実用性とシンプルな機能美を追求したプロダクトは、瞬間勝負のランウエイショーで通用するのか。ショー開催直前の3人に話を聞いた。
世界に発信するタイミングが来た
WWD:「アイム メン」でパリメンズに参加することになった経緯は?
河原遷(以下、河原):「オム プリッセ」と「アイム メン」が入れ替わったというよりも、両ブランド共に次の新しい試みを行うタイミングがたまたま重なった。「アイム メン」は、21年に三宅さんと共に立ち上げたブランドだ。40年以上続けてきた「イッセイ ミヤケ メン」を休止してまで立ち上げたのは、三宅さんが長年にわたって構想してきた、新しい男性服を作りたいという思いがあった。それは「イッセイ ミヤケ メン」という文脈上ではなく、さらに革新的である必要があった。われわれが三宅さんから受け継いだ服作りや背景などは、グローバルに発信していかなくてはいけない。立ち上げから4年経って共感してくれる人も増え、海外でのビジネスも少しずつ始めたタイミングでもあったので、今回のパリメンズでのショー開催が決まった。
板倉裕樹(以下、板倉):三宅さんは常に新しい試みをパリで披露して、その価値を伝えたいという思いがあった。パリメンズのスケジュールが「イッセイ ミヤケ メン」から「オム プリッセ」に変わった際も同様だった。“男性のための新しい日常着”として始まった「アイム メン」も、世界に発信するタイミングが来たと考えている。
WWD:「アイム メン」はデザインとエンジニアリングを融合したプロダクト視点の服作りが強みだ。一方で、ランウエイショー形式では瞬間的に伝わる華やかな“ファッション”の部分も必要である。
河原:ショーとはいえ、日常生活に根ざした美しいプロダクトという「アイム メン」の根幹にブレはない。三宅さんは「これからはプロダクトの時代だ」という言葉を、まるで執念のように何度も何度も繰り返しており、そのメッセージは不変だ。ただ、われわれがこだわってきた実用性の部分が、ショーという表現を通じて直感的に感じてもらいやすいように工夫はしている。デザイン面において、視覚的にどう映るかという視点も今シーズンは意識的に盛り込んでいる。
WWD:4年前の立ち上げ時に将来的にショーで発表する構想はあったのか。
小林信隆(以下、小林):立ち上げ当時はショーをするイメージはなかった。ただ、シーズンを重ねることで解釈やできることの幅が広がり、自分たちの服作りが世界にどう見られるのかを知りたい気持ちにもなっていった。メンバーでもかなり議論にはなったが、服を作っている以上は、パリという大舞台でどういう評価が付いたり、印象を持たれたりするのかは知りたい。
河原:議論になったのは、「アイム メン」はプロダクトを実際に手に取ってくれる人と語り合って深く理解してくれる伝え方が合っていると考えていたから。とはいえ、他ブランドのショーを実際に現地で見ていると、立体的な空間で、人が服を着て、布の質感や色彩がその動きに合わせて感覚に訴えかけてくるのは、プロダクトを頭で理解するのとは全く別物だった。ショーであまり説明的なことをしても感覚的なものを削いでしまう可能性もあるため、最終的にショーと展覧会の両方をやろうということになった。
小林:ショーでわれわれの服を感じてもらい、その短い時間では分からないモノづくりの背景などを展覧会で伝えることで、トータルで「アイム メン」を知ってもらう機会になればと考えている。
パリで伝えたいシンプルなメッセージ
PROFILE: (左)河原遷/デザイン・エンジニアリング(中)小林信隆/テキスタイルデザイン・エンジニアリング(右)板倉裕樹/デザイン・エンジニアリング
WWD:「オム プリッセ」が特定の個人が前に出ないのに対し、「アイム メン」はパリメンズでの発表を機に3人が前に出る意味は?
板倉:3人はあくまでデザインチームの代表者として対外的に説明する立場なだけで、“デザイナー”というわけではない。三宅さんがよく話していたのが「これからは絵を描いてイメージだけを伝えるデザイナーは必要ない」ということ。「アイム メン」は、あくまでデザインとエンジニアリングの両方に精通しているメンバーが、デザインを提案するブランドである。3人が出る理由は、こういうメンバーが手掛けているブランドであることを知ってもらうのと、作り手自身がモノ作りの背景や思いを直接伝えることが大切だったからだ。
河原:「アイム メン」は、「イッセイ ミヤケ メン」とは異なる手法でイッセイ ミヤケの新しい男性服を生み出していこうとしているブランドだ。これから強いメッセージや、一見するとデザインしてないようなデザインも出てくるかもしれない。受け取り手側のことを考えると、誰が言っているのかというのを明確にした方が、私たちが大事にしている“伝える”という点においては重要だと考えた。
WWD:25-26年秋冬シーズンで特に意識したことは?
河原:立ち上げ当初から続けている“一枚の布”の服作りを、世界に向けてさらに強く意識している。“一枚の布”という視点のモノづくりは、その時代をどう見ているかという考え方を証明することでもある。時代によってデザインやエンジニアリングのアイデアや実際に生まれてくるものが変わるし、ある種の方法論でもある。「アイム メン」はその方法論で服作りをしているのを伝えたかったので、“一枚の布”が分かりやすく目の前にあるという状態を意識的に作っている。ただシンプルに、布の美しさを感じてほしい。
板倉:ショーにはフォームが独特な服も登場するが、あくまで私たちが考える新しい日常着の提案だ。デザインが強い服も、ベーシックな服も実用的であることに変わりはなく、素材と向き合いながら、デザインやスタイリングにおいて“日常着”の表現の幅を探求している。
小林:強いデザインやテキスタイルを、ショー後のエキシビションで展示する予定だ。ショーに来場いただく業界関係者に加えて一般来場も可能にし、たくさんの方に私たちの服作りを知ってほしい。素材に使っている原料やテクニックなどを通じて、多くの方とコミュニケーションする機会になれば。
■FLY WITH IM MEN
日程:1月24〜26日
時間:10:00〜18:00(1月24日のみ13:00〜)
料金:無料
場所:REFECTOIRE DES CORDELIERS
住所:15 Rue de 1’Ecole de Medecine, 75006 Paris
※入場は完全予約制。公式サイトの予約フォームで入場受け付け