ネット通販やライブコマース、スマホ決済、ゲームなど、次々と世界最先端のテクノロジーやサービスが生まれている中国。その最新コマース事情を、中国専門ジャーナリストの高口康太さんがファッション&ビューティと小売りの視点で分かりやすく解説します。今回のテーマは、「AI先進国・中国で広がるAIマーケティング先進事例」。米国と並ぶAI大国の中国では、マーケティング分野で次々と革新的なサービスが開発されています。一方で、一般人にはこれまでより高い価格でサービスやモノが提供される弊害も。最新のAI事情に迫ります。(この記事は「WWDJAPAN」2025年2月17日号の転載です)
中国のAI(人工知能)マーケティングが急激に進化している。中国のAI開発は米国とは重点が異なる。米国ではAGI(汎用人工知能、人間並みの知性を持ったAI)という遠大な目標をゴールに設定しているが、中国では今すぐに役立つソリューションが開発の中心だ。中でもマーケティングは、中国でAIの普及が最も早い分野の一つだ。企画・開発から販売までのコストと期間をお大幅に削減できる画期的な活用法から、とほほな貧乏アピールまで、中国のAI活用事情を紹介する。
アリババが提供、AIを使った商品開発の強力な支援ツール
EC(電子商取引)大手アリババグループには、TMIC(Tモール・イノベーション・センター)という部署がある。同社が保有するビッグデータを活用し、メーカーに新商品開発に必要なユーザーインサイトを提供している。同センターが2023年3月に発表したAIツールが「AICI爆款公式」(アルゴリズム・インテリジェンス・クリエイト・アイデア=爆売れ商品の方程式)。開発したい商品ジャンルを選択すると、「そのジャンルに市場はあるか?」「価格帯や成分などヒットの因子をリサーチ」「販売チャネル別の現状」を分析し、最終的に爆売れする商品のヒットの方程式を表示するというもの。つまり、マーケットリサーチの仕事をAIが代行してくれるという優れ物である。すでにP&Gやパナソニックなど大手メーカーが採用している。
そうして生まれた商品の一つがP&Gのブランド「ヘアレシピ」の新シャンプーだ。「夏の外出時に頭皮の日焼けを防ぐ、髪の栄養補給」を訴求し、「カモミール、ベタイン、ケラチン、ビタミン」の有効成分を配合することで、ヒット商品になる確率が高いとAIが提案した。
中国では定番商品を伸ばすよりも、新たな「爆款」(爆売れ商品)を見つけるのがトレンドだ。TikTok売れに代表される、新たな流行をいち早く見つけ出すことに命を賭けている。そのためには企画以上に手数が大事。社運を賭けた新商品を一つ作るよりは、AIを駆使して大量に新商品をばらまくことが重要なのだ。となると、企画やマーケットリサーチに時間は割けないので、AIがあっという間にリサーチを終わらせてくれるのがありがたい。
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