「このデザイナーが伝えたいことをすぐには呑み込めないが、得体の知れない強い何かと、理解したいと思わせる魅力を持っている」。そんな空気が会場を支配するショーは、ロンドンのみならずパリやニューヨークでも稀である。そして、今の「J.W.アンダーソン」は、そんな数少ない、不可解かつ予測不可能な魅力を持つブランドのひとつだ。
先のメンズコレクションでは、“男がはくフリル付きキュロット”のように比較的分かりやすいアプローチを見せたアンダーソンだが、ウィメンズにはそのようなアイコニックなアイテムはない。メンズとの共通点は、プルオーバーなどに見る、タックを寄せた小さなネックラインと、バストの下に縦に入れた切れ込み。切れ込みに手の甲を突っ込みながらのウォーキングは、べったり糊付けされたヘアスタイルと合間って、服に神経質な印象を与える。
ラバー、レザー、ネオプレン、厚地コットン、ウール、シア—ドファーなど、フラットな生地で作るアイテムは、マイクロミニスカートやワイドパンツ、タートルネックセーターやスクエアネックのワンピースといった普通のものばかり。装飾も排し、とことんラインで勝負する。前後左右にアシンメトリーな裾に加え、縦に走るシャープなパターンとカッティング、スリットから生まれるアンバランス感がポイントだ。
キーワードは、中盤の2ルックに使用されたアメコミ風オリジナルプリントの「Caos」という言葉。カオスを超えて、このようなシンプルかつシャープな服を生まれた、という意味だろうか?いずれにしても、マフラーがいくつも飛び出す騒々しい改造車と、背中に「JW」のロゴが入った車修理工のような男の後ろ姿が描いたプリントが話題となりそうだ。
真っ白なハイネックのチュニックは、片腕とバストを黒やオレンジの幅広い布で拘束し、薄手のラバーのような素材のパンツは腰回りに大きな×(ばつ)の形に布を当てる。女性の乳房や女性器の上に充てがう布使いからはメンズコレクションでも見せた性差を超えるアプローチを連想させる。
アンダーソンの考えを理解することは容易ではないが、彼が良い意味で偏執的(新時代を作るデザイナーに欠かせない資質)、そしてマイペースな様でいて実は時代を冷静に見る賢さも併せ持つデザイナーであることは間違いない。
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