ロダン美術館の入り口のローズガーデンを抜ける時、ジョン・ガリアーノによる最後の「ディオール」のコレクションを思い出した人は多かっただろう。ラフ・シモンズによる3シーズン目となる「ディオール(Dior)」のコレクションは、そのロダン美術館に花に包まれたテントを用意して発表した。
テントの外観には壁一杯に野生をイメージする花と緑。緑のトンネルをくぐると、お伽の国へ入り込むようなミステリアスな気分が高まる。テントに入った頃には、その装飾に圧倒されてガリアーノのことが頭から消えていた、そんな人も多かったはずだ。
中は、むせかえるような花々、と言いたいところだが、そうとも言えない。なぜなら、壁一杯に這わせたグリーンや、天井から垂れ下げた蘭や藤の花は、本物とフェイクが混ざっているから。季節外れの藤の花を見て、軽く覚えた"違和感"は、そこから始まるショーで見せた新しい「ディオール」そのものだった。
単純に美しいだけのものはラフ・シモンズらしくない。ピュアネスと同時に人間の内面をえぐるかのようなシニカルな一面も持つ。そして、神経質とも言える高い集中力を持って、素材や色を選択し、研ぎ澄ましたカットを加えて造形する。それがこれまでラフ・シモンズが、自身のブランドや「ジル・サンダー(Jil Sander)」を通じて我々に見せてきた魅力だ。今回の「ディオール」では、その本領を発揮し、文字通り新生「ディオール」の花を咲かせた。花や自然と親和性を持つブランドのアイデンティティを守りながら、そこに一滴の"毒"を垂らし、アーカイブをベースに研ぎ澄まされたカットを加えて料理し、時代に即した新しい「ディオール」像を見事に描いている。
メゾンのシグニチャーである"バージャケット"は、ウエスト部分を一度解体して切り込みを入れて捻じったかのようなクロップド丈で登場した。ボタンは表には見当たらず、生地を交差することで形づくり、部分的に肌がちらりとのぞく。構築的なジャケットに対してスカートは、鮮やかなフローラルをプリントした細かなプリーツを斜めに使うことでセンシュアルなムードを引き出している。ピュアホワイトのコットンシャツはウエストを捻じり女性の曲線美を描きながら、胸元をえぐるような黒を差し込みきれいなだけでは終わらせない。
肌がほんのり透けるニットやシルクサテンを使った蕾のようなシルエットのスカートなど色鮮やかなシリーズと、マスキュリンをベースとしたテーラードのシリーズを経て、フィナーレはシルバーをベースに小さな花柄を織り込んだジャカードのドレスへ。モデルは今回もポケットに手を突っ込み、可憐なドレスが実は機能性を併せ持っていることをさりげなくアピールしている。
「洗練されていながらどこか"野蛮"な一目も持つ、新しい女性像を描きたかった。彼女たちはどこから来てどこへ行くのか分からない、そんな印象を持ってくれたら嬉しい。なぜなら。彼女たちは、変化と可能性を秘めた場所に存在する新しい"種族"だから」とラフ・シモンズ。なぜかフィナーレの挨拶には登場しなかったが、バックステージを訪れるとスタッフに囲まれ、LVMH のベルナール・アルノー社長兼最高経営責任者の祝福を受け、安堵の表情を浮かべる姿があった。3シーズン目にして、"ラフ時代の「ディオール」"を確固たるものにしたと言って間違いないだろう。