パリのコレクションブランド「ミュグレー」と「ユニクロ」という真逆とも言えるブランド、そして、ほんの少し前まで「ヴォーグ オム ジャパン」のファッション・ディレクターも務めていたニコラ・フォルミケッティ。常に注目を浴び続けるレディー・ガガのスタイリストでもあるし、今年に入って弟のアンドレアと組んでキャラクターブランド「ニコパンダ」をローンチさせ、日本やアジアでのポップアップストアを経て、ECサイトのオープンも計画している。
いくつものプロジェクトを平行して進め、具現化し、また次にとりかかるという、驚異的なスピードで次々とアイデアを形に変えていくニコラ。その最新作が、14日に発売される、英「デイズド&コンフューズド」12月号「Nicola Formichetti Presents #Fantasia」だ。ゲストエディターとして、表紙と38ページにわたり、アジアをフィーチャーする特集を作り上げた。しかも、表紙はきゅありーぱみゅぱみゅ、アンジェラベイビー、そして、それぞれがニコラと競演している、計4タイプと豪華だ。「ヴォーグ オム ジャパン」の休刊が発表された直後でもあるニコラに、秋葉原のメイド喫茶「めいどりーみん」で話を聞いた。(シニアエディター 松下久美)
WWDジャパン(以下、WWD):今回の日本滞在中は何をしていた?
ニコラ・フォルミケッティ(以下、ニコラ):「ユニクロ」のCM撮影がメイン。本当はもう1週間早く来る予定だったんだんだけど、NYのハリケーンの影響で飛行機が飛ばなくて、ギリギリのスケジュールだった。しかも今回は、僕もCMに出るんだ。(水原)希子に「ウルトラライトダウン」を選んだり。19日から放送になるから楽しみにしていて!それと、今朝はジェットラグで早く起きすぎちゃって。ホテルのジムは24時間営業しているんだけど、人を起こさなければいけないから、ホテルの近くの公園の周りをランニングしてきたよ。その後、今回日本に来てから急きょ、「ニコパンダ」のヴィジュアルを撮影しようということになって、今朝撮ってきたところだ。
WWD:3泊4日のスケジュールで、相変わらず驚くほどの密度だ。秋葉原にはよく来ているみたいだけれども。
ニコラ:こんなに面白い街はないと思う。毎回のように来ているし、友だちを連れて来てもすごくテンションが上がる。こんな場所に「ニコパンダ」のお店があったらいいよね。今回は、ちょっとセクシーなトイ(フィギュア)を買おうと思って。メイドカフェにも何回か来たことあるよ。
(確かに、パフェを注文し、メイドと一緒に「おいしくな〜れ、もえもえキュン!」とハートマークを作るしぐさも慣れている)。
WWD:さて、「デイズド&コンフューズド」について。手掛けることになった経緯は?
二コラ:ロンドンのソーホーにあった「パイナルアイ」で働いていた時に、面白いスタイリングだといって声を掛けてもらって、2000年から「デイズド&コンフューズド」のジュニアエディターとしてページを作らせてもらうようになった。あれから10年余り経ち、その間、いろいろなことを手掛けてきたが、1年ぐらい前から「デイズド」の創業者で元編集長のジェファーソン・ハックから、ニコラをカバーに起用したいとオファーされたんだ。でも、僕だけ出てもつまらないし、若い子たちにインスピレーションを与えることをしたいと思って、ゲストエディットする企画を提案したんだ。
自分は半分アジアの血が流れているし、日本やアジアの面白さやエネルギーなどを感じているけれど、ニューヨークに住み、海外で仕事をしていると、それがちゃんと伝わっていなくて残念だと思うことがたくさんあった。みんな「何かある」って思ってはいるけど、わからないというか。だから、両方の視点を持つ僕が、アジアの世界観を描き、伝えたいと思ったんだ。それで、きゃりーぱみゅぱみゅや希子、アンジェラベイビーなどアジアで活躍する人たちと一緒に雑誌を作ったんだ。それと、ひとつのアイデアとして、シールやステッカーを貼るみたいに、「ニコパンダ」のキャラクターをいろんなところに使いたかった。
作り方は、昔と一緒。今、興味のあるモノやコトや人を、フリーに描く、という。雑誌って、元々そういうものでしょ?なのに、最近は広告がどうだとか、広告自体も面白味に欠けているし、僕自体も雑誌を全然読まなくなってしまっているし。「デイズド」もね。だから雑誌にパワーを与えたいという想いも強かった。ちょうど「ヴォーグ オム ジャパン」も終わったところだったので、実験的な要素も盛り込んだ。タイミング的にも絶妙だったね。
ちなみに、幼い頃の写真や、「デイズド」の編集部で撮った、当時流行していた「ディオール」の柄モノのオールインワンを着た写真なども載っているよ。
WWD:きゃりーぱみゅぱみゅとは前から会いたいと言っていたが。
ニコラ:そう。フェイスブックやツイッターなどですごく見かけるようになって、「ポンポンポン」をYouTubeで見たときに、「何だこれ! She is Crazy!!」って、すごく興味を持った。日本のポップカルチャーを代表する女の子だし、ぜひ一緒に仕事をしてみたいと思っていた。表紙で着たのは「リトゥンアフターワーズ」(デザイナー:山縣良和)の最新作。あのゴチャゴチャ感、すごいでしょ。もう1枚は「クロマ」(デザイナー:鈴木淳哉、デザイナー兼パタンナー:佐久間麗子)のフューチャリスティックでデコラティブなコート。それと、「ミキオサカベ」のアーカイブで制服みたいなトップスとコレクションの時に使っていたみたいなブーツ、スカートは「クロマ」を合わせた。みんな超カワイイでしょ。撮影の日が初対面だったけど、すぐに意気投合した。「ニコパンダ」のiPhoneカバーをあげたらすごく喜んでくれて。彼女のワールドツアーの時にも、ヨーロッパで一緒に何かやろうか!?って話しているところだよ。
WWD:アンジェラベイビーに着せたのは?
ニコラ:「ミュグレー」と「ニコパンダ」。彼女は日本にいた頃から知っていたけれど、今は格段に人気が上がっていて、中国版ツイッターのウェイボーで20億人からフォローされていると言われるくらいすごい影響力を持っている。そんなパワーのある彼女を欧米で紹介すること、そして「ミュグレー」と「ニコパンダ」を着てもらえたのは嬉しいことだ。誌上対談もしているからそれも読んでもらえれば。
WWD:そのほか、起用したのは。
ニコラ:希子や、ずっと「ヴォーグ オム ジャパン」でもスタイリストをしてくれていて、最近エディ・スリマンに熱望されて「イブ サンローラン」のPRになった亀岡エミちゃん、それから、「ニコパンダ」でもモデルをしてもらっているHIRARI IKEDAや「キャンディ」のスタッフのMATCHA、マドモワゼルユリアやYOON、香港で人気の4人組アーティストTHE YOURSなど。みんな若くてスタイルを持ったカッコ良くてパワフルな子たちばかり。世界中の人たちに、東京やアジアにこんな子たちがいることを知ってもらいたいんだ。紙だけでなく、「デイズド」のデジタル版でも見られる。きゃりーやアンジェラ、希子の撮影風景をまとめたビデオも作った。これからは、ディレクションした人間が、紙やウェブ、インスタグラムなど、各々の特性に合わせたものを、メディアを超えてきちんと発信していかなければならない時代なんだと思うよ。
WWD:「ヴォーグ オム ジャパン」が終了してしまったことについては。
ニコラ:もちろん残念だけど、自分たちがやりたいことがなかなかできなくなっていたのも事実。だから、自分でマガジンを立ち上げることにした。スタイリストの(ワタナベ)シュン君や 編集者の(山崎)順介君など、あのチームのメンバーで新しいものを作っていく。デジタルスクリーンをめくっているようなだけの雑誌ではなく、雑誌を持った人が、触り、読み、印をつけ、といった、雑誌ならではの特性が生かせるようなものにするつもり。もう、待っていられないからね。