初めてランウェイ形式で発表した「トム フォード」が会場に選んだのは、英国政府が歓迎式典や外交会議などに使用しているランカスター・ハウス。19世紀の重厚な建物は厚い絨毯と大きなシャンデリア、数々の肖像画で装飾されている。
これまでの流れから、シンプルなデザインで上質素材とシルエットの美しさで勝負するニットやジャケット、タイトスカートなどが登場するかと思いきや、それとはベクトルが大きく異なる、めくるめくラグジュリアスな世界が展開された。
椅子の上に置かれたメモ書きには“CROSS CULTURAL MULTI ETHNIC”とある。その言葉通り、様々な国のモチーフやイメージを取り入れてミックスし、柄×柄のアイテムを生みだす。スペインを思わせる黒いレース使い、マサイ族の衣装を思わせる色彩、龍やボタンの花のような刺繍、チャイナ服のディテールを取り入れたジャケットなど。特に、トム・フォードの故郷であるテキサスのカウボーイを連想させるレザーのフリンジ使いや、アメリカン・コミックの一コマのような7色のジグザグ模様の登場回数が多い。
ジップアップ・パーカなどスポーティなアイテムも多いが、使われる素材がとことん豪奢なため、すべてがドレスのような存在だ。競合となるブランドはいない、唯一無二の世界観であることは確か。ショー映えするアイテムが多いだけに、コマーシャルピースへの落とし込み方が気になるところだ。