ラフ・シモンズが就任して2シーズン目のプレタポルテとなる「ディオール」は、前回と同じアンバリッドに建てられた白い特設テント、通称"ホワイトボックス"で発表された。会場に足を踏み入れると、壁一面が鏡で覆われ、巨大なシルバーの球体が配されている。今シーズン、ラフがインスピレーション源のひとつに挙げているアンディ・ウォーホルの"ファクトリー"を彷彿させる空間。床にはルネ・マグリットの絵画のような雲が描かれ、シュール・レアリズムの世界に迷い込んだ印象だ。
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曲線的なシルエットを描く漆黒のスーツに純白のビスチェを合わせたファーストルックで幕を開けたコレクション前半は、モノトーンが中心のパンツスーツやセットアップ。シルクドレスの胸元やウエスト周りに描かれた繊細な花や肖像画のモチーフが目を引く。「ジル サンダー」時代に、藤田嗣治の絵画をドレスに描いたラフだが、今回の作品はアンディ・ウォーホル財団の協力により、ウォーホル初期のドローイングをモチーフに使ったもの。ポップな色使いのリトグラフなどで知られるウォーホルだが、50年代のデビュー当時に制作された手描きのドローイングは静謐な作風だ。
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「今シーズンは、ファッションに求められるリアリティとファンタジーとのコントラストを表現したかった。創業者であるムッシュ・ディオールと僕の、アートへの情熱という共通点が根底にある」とラフは語る。「デザイナーとしてデビューする以前、ダリやジャコメッティなどのシュールリアリズム作品を扱う画商だったムッシュ・ディオールのベル・エポックに対する憧憬と、僕のミッド・センチュリーへの思いがひとつに繋がった。ポップアートの旗手であるウォーホルのパブリックイメージと、彼が初期に描いたドローイングのロマンティックな繊細さとのコントラストに惹かれた。『ディオール』本来のダイナミックなフォルムが象徴するエレガンスを、繊細なシルエットを好む僕らしい流儀で表現したのが今シーズンの作品だ」。
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デビュー・コレクションのキーアイコンとなった"バー・ジャケット"を、今シーズンはネイビーやチャコールのデニムで制作した。"ドリス(1947年発表)"や"ミス・ディオール(1949年発表)"など、ムッシュ・ディオール時代のアーカイブ作品を漆黒のレザーに置き換えてモダンに表現。大胆なグラフィックをモチーフに使いながら、ラフ独自のプロポーション・バランスやオーガニックな曲線美で描いたコレクションは、新生「ディオール」の方向性を明確に示唆している。