フロントローには、コレットやバーニーズ ニューヨークといったショップのバイヤーがずらりと並び、阿部の友人でもあるというトム・ブラウンも座り、パリコレのメンバーとして世界からもすっかり認められた感がある「サカイ」。とは言っても、相変わらず無理な背伸びはせず、「変わらない部分」が7割を占めるコレクションを発表している。刺激や驚きが求められがちなパリコレにおいて、「変わらない部分」を見せ続けることは「飽きられる」ことと表裏一体なだけに、非常に勇気がいることだが、そこをなし得ようとしているところに、今までの日本人デザイナーにはない強さがある。
異素材の組みわせや前と後ろのデザインの違いといった手法はこれまでも「サカイ」が得意としてきたところ。今シーズンはさらにその組み合わせが複雑さを増している。とはいっても、複雑であることを主張するのではなく、さらりと軽やかに見せるあたりが、阿部千登勢の力量だ。コットンシャツを小さなパーツに分けて、間にレースを挟み込んだブラウスやオーストリッチの羽根とチュールの"つけフード"を飾ったオーバーサイズのワークジャケットなど、実に手の込んだ組み合わせだ。スカートのように見えてパンツ、というアイテムが多く、途中、ショーの印象を変えたスカーフプリントのフルレングスのボトムも前から見るとパンツで、後から見るとスカートになっている。ヒッコリーのパンツとイエローの小柄を刺繍したアンティーク調のトップも実はオールインワン。