ここまでクリエイションやビジネス上の手応えを明らかにするデザイナーを取り上げたが、トレンドにおいても新たな動きがある。従来から和装や日本文化を取り入れているブランドに加え、2014年春夏シーズンは、モードやストリート感を前面に出していたブランドも日本文化を反映させていた。折しも、今年の9月に2020年東京五輪の開催が決定したこともあり、日本文化を世界に発信するチャンスに恵まれた。デザイナーの中にも、ポジティブな気持ちが働いたのかもしれない。しかし、9月の決定時から急にコレクションピースを変更するのは難しいため、デザイナーたちは、それ以前から日本のファッションをポジティブに見つめ直していたようだ。「ソマルタ(SOMARTA)」は、和装とドレスの間を探るアイテムが登場。着物の肌着がヘムラインからのぞくディテールに加え、百合などの植物柄で構成するボタニカルなプリントがドレスに表現されていた。茶道から影響を受けたコレクションは「リアル感を意識しながら、日本文化を取り入れた」とデザイナーの廣川玉枝。明るいピンクやイエロー、グリーンの配色で"長着"を打ち出した「マトフ(matohu)」は、ポジティブさを高めた内容。和装特有の奥ゆかしさや渋味のあるアイテムを残しつつも、ショー後半には洋装とも表現できるドレスやスカート、長着が提案されている。
一方、若者のストリート感を取り入れた「クリスチャン ダダ(CHRISTIAN DADA)」は、若者の危うさや不完全なマインドを、法被(はっぴ)のようなジャケットや特攻服に浮き上がらせた。こうした日本の不良文化を、どこまでモードにまで高められるか。その挑戦的なコレクションを評価したい。「ドレスドアンドレスド(DRESSEDUNDRESSED)」は、渋谷のスクランブル交差点を行き交う人々を上から撮影し、グラフィカルなプリントブラウスに仕立てている。コレクションのテーマは、アルフレッド・ヒッチコック監督の映画「鳥」とし、鳥、人も群れを成すときに「共通の恐怖を感じた」と北澤武志デザイナー。渋谷スクランブル交差点をその象徴とした。上記のブランドは、海外市場で販売した実績があり、さらに日本特有の文化をミックスし、海外メディアやマーケットを意識したコレクションを発表している。ビジネス実績を積み重ねることができるのか、その動向に注目したい。