エルメス財団は10月12日まで、銀座メゾンエルメス フォーラムで「『境界』高山明+小泉明郎展」を開催中だ。アーツ前橋館長の住友文彦をゲストキュレーターに迎え、若手作家の高山明と小泉明郎の新作を展示している。展覧会オープン前日の7月30日、3人によるトークショーを同店で開催した。
高山明は演劇ユニット「ポルト・ビー」を主宰。既存の演劇の枠を超えた演出やインスタレーションを披露するなど、話題を集めている。小泉明郎は戦争体験をテーマにした作品が多く、凝った映像作品に定評がある気鋭アーティストだ。両者に共通するのは、社会問題を多角的な視点で見つめていること。住友館長は「二人の作品は見る人の心をザワつかせ、ゆさぶるものがある。社会問題の中に潜む人間の矛盾や葛藤を感じさせる、多層的な表現が魅力」と説明する。
同展で2人は異なるアプローチで"回復"をテーマにした作品を掲げた。高山が見せるのは、「ハッピー・アイランド——義人たちのメシア的な宴」のビデオ・インスタレーション。映像は、福島県浪江町の『希望の牧場』にいる牛たちの群れ。福島第一原発の事故の影響を受け、旧警戒区域に位置する牧場だ。ガラスブロックに囲まれた同店の空間に、牛の映像が独特のコントラストを生み出す。小泉は「忘却の地にて」と題した作品を発表。交通事故によって記憶障害を抱えた男性に密着した体験から、記憶のメカニズムを掘り下げ映像で表現した。
同店で作品を展示することに対して高山は「街中で何かを見せることが多いが、このガラスブロックの空間はとても特殊で、生かして展示したいと思った。交互に配置した4kモニターの間を歩くことで、どこか別の世界のレイヤーがかかっているような体験をしてもらいたい」と語る。小泉は「ビデオでの展示なので、通常なら他の光が入るのは嫌なのだが、この光が集まる空間はとても気に入った。あえてこの明るい場でモニターを見せる工夫を凝らした」と続けた。住友館長は「二人の作品は異なる題材の別作品だが、お互いを補完しあう一つの作品としても見ることができると思う」と語った。
左から、高山明、小泉明郎、住友文彦