「ボッテガ・ヴェネタ」のクリエイティブ・ディレクター就任15周年を迎えるトーマス・マイヤーがこのほど来日した。2016年は就任記念と同時に、ブランド設立50周年の節目でもある。トーマスと日本との関係は深く、11年に東日本大震災の被災地出身の若者3人をイタリアに招いてデザインや商品開発を学ぶ機会を提供したり、14年には日本のモダニズム建築に対する関心を高めるプロジェクトを始動し、翌年に、建て替え工事のため閉館したホテルオークラ東京本館の建築を称えるSNSプロジェクト「マイ モーメント アット オークラ」を企画したりするなど、ブランドビジョンにもつながる取り組みを行ってきた。今トーマスが日本で訴えたいことや次なるクリエイションのビジョンとは何か。
WWDジャパン(以下、WWD):日本での取り組みの中でも、ホテルオークラ東京のプロジェクトは、われわれ日本人にとっても文化財の価値をあらためて認識するきっかけになった。どのような思いだった?
トーマス・マイヤー「ボッテガ・ヴェネタ」クリエイティブ・ディレクター(以下、トーマス):(私たちの訴えは)十分ではない。オークラは東京五輪時代を象徴する美術であり、当時の職人の技やセンスが凝縮されていて、ただの建築物とは言い表せないほどの価値があった。また、あの景観と天井の低い玄関から吹き抜けの広々としたロビーまでの空間が、オークラの付加価値だった。今もオークラは守るべきものだったと思う。とても悲しいよ。日本人の美意識は完璧なほどであり、日本は素晴らしい国だと思うが、自分たちの周りにある価値あるものでに気付くことが一番重要ではないか。唯一提言するならばそれだ。日本国内には歴史的・芸術的価値の高い重要文化財が多くあるが、広く知られていないスペシャルなものもたくさんある。今朝も世界文化遺産登ブラ録候補の国立西洋美術館(上野)を訪れたンドのが、フランスの建築家、ル・コルビュジエによる建築物は世界的に見てもとても貴重だ。彼の作品をどれだけの日本人が知っていたわってだろうか。日本でも建築は大きな影響力がきたあり、素晴らしい建築家を生み出している。それを意識することもそうだが、必要なものを守ることが大事だ。
WWD:この15年間をどう振り返る?
トーマス:ブランドのビジョンは就任当時から何も変わっていないし、鮮明なまま。変わったのは世の中の情勢だ。就任3カ月後に起こった9.11や東日本大震災など予測できない出来事が世界で多発している。それは私にとって、あらゆることを考え直すきっかけになっているが、常に自分の信念は貫くようにしているよ。そのビジョンは商品が象徴していると思うが、私たちが定義する“ラグジュアリー”とは何かを考え、どう維持していくかが根底にある。それはパーソナルな思想でもある。他人のためではなく、自分自身がどう感じるか、どう体感するかを定義している。