H&Mの創業一家が手掛けるH&Mファンデーションが、初期段階のイノベーションのコンペティションとしては世界最大規模となる100万ユーロ(約1億1300万円)を賞金とした「グローバル・チェンジ・アワード(GLOBAL CHANGE AWARD)」を設立し、ファッション業界の変革を促進する革新的なアイデアや技術を募集中だ。地球の資源を保護し、サステイナブルな循環型のファッションビジネスを構築することが狙い。昨年からスタートしており、選考された5つのアイデア・チームに対して、助成金を分配すると共に、実用化に向けてH&Mファンデーション、アクセンチュア、スウェーデン王立工科大学が提供する1年間のイノベーション促進プログラムの支援を受けられるようにするものだ。
「グローバル・チェンジ・アワード」のエリック・バン=プロジェクト・マネジャーは、「温暖化や天然資源の減少、人口の増加など、地球は危機にさらされている。世界規模でエコシステムを持つことが重要だ。ファッション産業においても手法を変える必要がある。幸い、技術が発達し、新しいアイデアも生まれるなど、チャンスがある。われわれがその開発をリードし、パイオニア的なアイデアを促進することで、ファッション業界において、循環型のプロダクトやビジネスモデルを作るサポートをしたい」と狙いを説明する。
日本円で1億円以上という賞金は他に例を見ない高額であるが、そこは、社会貢献に意識の高いH&Mと、スウェーデンの先進的企業でPRをしてきたエリックの戦略が合致。「インパクトを最大化したかったから。アイデアや技術を広く集め、開発・育成していくプラットフォームにすることで、ファッション業界の循環型へのシフトを強くサポートしたい」と説明する。H&Mファンデーションは、ステファン・パーション=オーナー率いる創業一家が個人的に資金を提供するもので、2013年の設立以来、100億円以上を投じてきた。「あくまでも非営利団体であり、『グローバル・チェンジ・アワード』についても問題解決に向けて本気で取り組み、資金や環境を提供し、プロセスを加速させるが、H&Mも含め、いかなる利権も知的所有権も所有することはない。あくまでもファッション産業全体、ひいては地球のために役立つことを目指している」と、アイデアや技術についてはオープンにして、誰もが活用できるような形にしていきたいという。ちなみに、分配金については、「グローバル・チェンジ・アワード」のホームページでオンライン投票で決まるという、まさに、デモクラティックなウエアを提供するH&Mらしい手法をとっている。
初回となった昨年は、112カ国から2700以上の応募があり、5つの革新的アイデアを選考し、研究開発を進めているところだ。特にイタリアから選ばれた「柑橘類ジュースの製造時に副産物から洋服を作り出す」アイデアでは、「研究開発チームを増強し、オレンジファイバーの生産に成功している。今は商業用途として適正かどうか、クオリティーテストの段階に来ており、いくつかのメジャーブランドとの取り組みも始まっている」。また、オランダから選ばれた「水中での繊維の成長~藻類を利用した再生繊維の開発」では、中国でテストプロジェクトに向けた商談のため、南京市のシティエクスポでも展示を実施。17 年には実験的にサプライチェーンのミニチュア版を開始するという。「通常なら何年もかかる研究開発だが、わずか数カ月でスピーディーに開発がすすめられている。とてもエキサイティングだ。このアワードによる支援金と、プロの参画のアドバイスによるトレーニング、そして、H&Mのネットワークを活用しながらもオープンドアな活動であるため多くの支援者を巻き込めることや、信頼性があること、そして、何よりも活動自体がクリエイティブであることが、このアワードの特徴だ」と手応えを語る。
他の受賞アイデアについても、アメリカから選ばれた「ポリエステル消化装置~微生物によるポリエステル繊維廃棄物のリサイクル」では、技術試験の実施と未加工原料に対するコスト効率改善のために、ポリエステルの大手製造企業や化学会社とのパートナーシップを獲得している。フィンランド発の「綿くずを新しくする~綿くずの新繊維への変換」では、溶剤リサイクル方法の試験を完了し、廃棄綿からのテスト作品の開発が始まっている。その他、エストニアから選ばれた「繊維の余り物のオンライン市場~製造過程でのこぼれものを販売用として再生品化する市場」では、アップサイクリングという、リサイクルの一歩先を行く循環方法で、古布や廃材を用いて商業用として通用するおしゃれな商品へと変身させる仕組みを提案。ブランドと工場向けにコンセプトと価値を証明するための技術モデルを開発したうえで今年6月、中国で試験的にプログラムを開始している。
2回目の今回は、10月末まで募集中だ。さらに広範囲なアイデアを集めるため、「循環型ビジネスモデル」「循環型素材」「循環プロセス」の3分野を設定。「循環型ビジネスモデル」では、製品の再利用、修理、シェア、デジタル化、寿命の延長に関するアイデアを、 「循環型素材」 では新たな繊維、リサクル技術、代用革などに関するアイデア、 「循環プロセス」 では化学薬品、水、染色に関する新たな手法や、3D印刷、需要主導の生産などのアイデアを求めるという。前回、日本からは数件の応募があったというが、「日本には高い技術力もあるし、創造力もある。多くの人々に応募をしてもらい、循環型社会の実現を共に目指してほしい」。
なお、同アワードの審査員には、フランカ・ソッツァーニ=「ヴォーグ」イタリア編集長やスーパーモデルで女優、サステイナビリティーのインフルエンサーとしても知られるアンバー・ヴァレッタ、単独世界一周航海記録を打ち立てたデイム・エレン・マッカーサーの他、ロンドン芸術大学のサステイナブル・テキスタイルおよびファッションデザイン教授やストックホルム環境研究所エグゼクティブディレクター、ニューヨーク科学アカデミーのプレジデント兼CEO、ワールド・バンク・グループ気候変動・環境ファイナンスリーダー、エクスポネンシャル・リーダーシップ創設者で1Qbitインフォメーション・テクノロジーズ会長など、ファッション、環境、先端技術など、幅広い専門家が名を連ねている。
「グローバル・チェンジ・アワード2016」
応募期間:16年9月1日~10月31日
審査員による選考期間:16年11月1日~17年3月27日
一般公開・オンライン投票期間:17年3月27日~4月2日
グランドアワードセレモニー開催:17年4月5日(場所・スウェーデン・ストックホルム)
1年間のイノベーション促進プログラム実施:17年4月6日~18年4月6日