1983年ベルギー・ブリュージュ生まれ。建築を学んだ後、アントワープ王立芸術学院に入学。卒業後は「ジャンポール・ゴルチエ」などでキャリアを積む。2013年に「Y/プロジェクト」のクリエイティブ・ディレクターに就任。メンズとウィメンズの両方でパリコレに参加
ここ数シーズンのパリ・ファッション・ウイークでは、「ヴェトモン」や「コーシェ」など新たな才能が続々と頭角を現している。2017年春夏はそんな若手デザイナーたちの活躍が定着し、彼らのブランドがパリコレ序盤の大きな目玉になった。ここでは、特に今後の飛躍が期待される実力派4人を直撃。クリエイションに対する姿勢や思いに迫る。第3弾は、「Y/プロジェクト(Y/PROJECT)」のグレン・マーティンス。彼が作る極端なプロポーションのウエアはショーでは圧倒的なインパクトを放つが、一点一点よく観察すると、「着る人に合わせて変化する服」を追い求める彼の哲学が詰まっている。
誰が着ても同じに見えるアーミーを作りたくはない
WWDジャパン(以下、WWD):2017年春夏コレクションでは、デニムやボディコンドレスといったクラブキッズの定番アイテムに、コルセットやパールなどのブルジョワ的な要素が盛り込まれていたが、テーマはどのように決めた?
グレン・マーティンス(以下、マーティンス):最初から一貫したストーリーを作ることはあえてしないんだ。インスピレーション源はストリートカルチャーだったり、歴史だったり、色々あるけれど、とにかく何でもミックスしちゃうのが僕のクリエイションに対する基本スタンス。だから完成したコレクションにもストリートからテーラード、ドレッシーまで、幅広いスタイルがそろっている。そんな組み立て方が今の時代に合っていると思うんだ。街に出れば色んな国籍の人が行き交っているし、僕たちのムードだってコロコロ変わるよね。僕も日によってビジネスマンになることがあれば、デザインチームのリーダーになることもあるし、ティーンみたいな気分に戻る日だってある。
WWD:インスピレーションはどこで得ている?
マーティンス:メトロに乗るのが好きなんだ。「地下鉄なんて耐えられない」という人が多いけどね(笑)。あそこにはファッションやアート業界とは関係のない人たちもいて、本当に多様性のある空間。人々のリアルなスタイルを見ることで新鮮な気持ちになれるし、新しい気付きを得られることもある。
PHOTOS BY MATTHIEU LEMAIRE COURAPIDE
WWD:ボタンやカフリンクスを留める位置などで、着方を調節できるウエアが特徴的だ。
マーティンス: 着る人に合わせて服が変化するブランドでありたいからね。コーディネート次第でべーシックにもパンクにも着こなすことができるよう工夫しているんだ。例えば、超ロングスリーブのシャツも、袖を何重にも折り返せばラッフルになる。そうやってカフリンクスやボタン、リボン、ファスナーで使って着こなしの幅を広げている。誰が着ても同じに見える服で“アーミー”を作りたくはないんだ。むしろ、誰もが自分自身のスタイルや気分に合わせられる服を作りたい。この間レイブで出会った女の子も全身「Y/プロジェクト」で踊り狂ってたし、僕の90歳のおばあちゃんも、僕の服で友達とお出かけしてるよ(笑)。
WWD:さまざまな要素をミックスするセンスはどこから?
マーティンス:生まれ育ったのがベルギーのブルージュというのがあるかもね。ブルージュはとても面白い街で、歴史的な建築物が並ぶ中世風の街並みの中にモダンなカルチャーが溶け込んでいる。そんな街で育ったから、相反する要素同士をミックスすることは僕にとっては自然なことなんだ。
WWD:一見きわどいピースも、どこかエレガント。品を感じさせるコツは?
マーティンス:ストリートの要素が強いピースにも、どこかにエレガンスを潜ませることはとても大切だと思う。建築を学んでいたこともあって、クラシックな“美の法則”の追求にはかなり長い時間をかけてきた。決してマスターはできていないけれど、最近ようやく微妙なさじ加減が分かったんだ。
WWD:ディテールにまでこだわりが詰まっていても、重苦しくならないのが魅力だ。
マーティンス:着る人に自由にアレンジして遊んでほしいし、僕がデザインした服でファッションを楽しんでほしい。僕はストーリーテラーではない。つまらないデザイナーだと思われるかもしれないけど(笑)。もっとエモーショナルでダークな世界観を表現するデザイナーのクリエイションも素晴らしいけど、僕自身はそんなに難しく考えず、気軽なアプローチでファッションと付き合っていきたい。
WWD:直営店のオープンなど、今後のプランは?
マーティンス:“テイク・イット・イージー”がいいな。特に決めていないよ。建築を学んでいたからショップのデザインもすごく楽しそうだけど、今は卸で十分だ。
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