インスタグラムから遷移した「アミープラス」
アイテムをクリックするとECサイトに直結する
バロックジャパンリミテッド(以下、バロック)が4月19日、新ECサービス「アミープラス(AMEE+)」をローンチした。2015年9月にスタートした自社のキュレーションサイト「AMEE(アミー、現在はシェルマグに統合)」の発展版として、同社が抱えるファッション・インフルエンサーのインスタグラムとECサイト「シェルター ウェブ ストア(SHEL'TTER WEB STORE)」をつなぐ役割を担う。インスタグラム上に投稿された商品が気になったファンは、各アカウントのホーム画面にあるリンクから「アミープラス」へ遷移する。「アミープラス」はインスタグラムをイメージした直感的なUI(ユーザーインターフェース)が特徴で、サイト上ではインスタグラムと同じビジュアルから直接EC商品を購入することができる。
まずは同社販売員の室原彩夏や佐々木志穂、太田早紀というインスタグラマー3人と「マウジー(MOUSSY) 」「スライ(SLY) 」「アヴァン リリー(AVAN LILY)」の3ブランドのアカウントをサイトと連携する。今後は社外キュレーターや企業とも連携をしていく予定で、「アミープラス」導入を皮切りにしたECサービスの開発など、ECシステム市場への参入も計画する。同社事業はブランドごとの縦割り組織になっているため、新サービスを取り入れるかどうかはブランドごとの判断に任せられる。「マウジー」などのSNSを統括する松本つかさ・メディアマーケティンググループいわく、「ブランドごとにSNSへの注力の仕方も違う」。「アミープラス」についても、まずは乗り気なブランドがトライアルを始めた形だ。「『アミープラス』へ参加した販売員兼オフィシャルブロガーの室原彩夏らと連携し、投稿内容やSNSの潮流、加工方法などについて普段からやりとりをし、いかに顧客の購買意欲を喚起するかに注力をしている」。
「アミープラス」を含む新規事業を手掛ける服部真也・経営企画室 Eビジネス推進グループ グループ長は、「初めて1週間ですでに6アカウントからECサイトへ約1万ユーザーを送客できた。購入コンバージョンも1%程度と非常に良い。今後は参加インフルエンサーを増やすことで、月間30万〜40万ユーザーを送客できるようにしたい」と意気込む。「アミープラス」発案の理由について、「自社の顧客がどこに溜まっているかを考えた時に、今の時代はインスタグラムだった。一からファンを集めるより集まっている場所に導線を作る方が効率がいい。すでに100万人のフォロワーを抱える自社アカウントがあるのに、従来インスタグラム上では直接ビジネスにつながらなかった。『販売員が来ている写真の服が欲しい』と考えるファンにとって親切な機能を考えただけだ」という。
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たしかに、インフルエンサーが投稿する写真に写る商品を全て購入可能にすれば、ファンにとっても理想的なプラットフォームビジネスができあがる。山崎本部長はすでにこの構想を持っており、夏までに「アミープラス」を自社以外の商材と連携することで、少しずつサービスを完成に近付ける。「在庫を持たずに自社以外の商品を顧客をつなぐ。バイヤーが商品を買って在庫を持ち、顧客を集めて販売するという従来の小売業とは真逆の考え方だ。加えて、商品をキュレートするインフルエンサーにも一部収益が入る仕組みを作ればいい。もちろんインフルエンサーも自社以外へ広げる可能性もある」。服部グループ長も、「インフルエンサーにサンプルを渡してインスタで宣伝してもらう、いわゆる“ステマ”広告には限界がある。実際にどの程度効果があったかはわからないし、インフルエンサーの増加によって広告単価も落ちている。だったら、販売実績に応じてマネタイズをすればいい」という考えだ。
今回の新事業は未来のファッション市場を考える上で大きな意味を持つ。「アミープラス」を率いる服部グループ長と山﨑浩史・取締役常務執行役員管理本部長によれば、「ファッションECサイトの概念自体変わる可能性がある」という。「ECの利用は大半がスマホになった。しかも、『アマゾン(Amazon)』のダッシュボタンに代表されるように、目的があれば購買にビジュアルは必要ない。『アミープラス』もインスタグラムから流入し、直感的にECヘリンクすることを考えると、トップページは必要なかった。インスタに限れば、そこから直接商品カートにつながればいい。ECサイト自体がいらなくなるのではないか」と山崎本部長。
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室原彩夏(@muro_aya)の公式インスタグラム
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バロックはECだけでなく、自社SNSアカウントの運営や新規サービスの構想など、デジタル事業に対して先進的な企業だ。しかし、プラットフォームの構築は本来ECシステム企業が得意とするところ。山崎本部長に聞けば、「当社にしかできないことは、世界観を作るインフルエンサーを囲っていること」だという。「店舗がブランドの世界観を完璧に表現する場所であるように、インフルエンサーは彼女らの世界観をきちんと持っている。自社でシステムを作るだけではなく、販売員を筆頭にインフルエンサーが自社にいることが差別化を図るポイントだ」。服部グループ長も、「EC企業はどこも“オムニチャネル”を目指すというが、“オムニ”という概念自体が事業者側の発想。もともと“オムニ化”には反対だった。買い回りのシステムをうまく作っても、ECで店舗並みの世界観を表現できないので、店舗の世界観が好きな人たちにとっては何の魅力もない。それなら、新規顧客を1人でも多く獲得できるよう集客をする方が、会社全体の売り上げにつながるはず」と持論を展開する。それならば、購買意欲を販売につなげる世界観作りにまい進しようというわけだ。
他にも、バロックにしかない強みとして、現場の販売員の情報力とそれを全力でサポートする会社の組織体制があげられる。オフィシャルブロガーの室原に関しても、「インスタに投稿する画像は自分や友だちが撮っている。常にインスタ映えする背景が気になってしまう」というほど、本人のSNSへの関心は強いが、彼女をバックアップするのがメディアマーケティングの仕事だ。ブランドごとのメイク指導だけでなく、新作の撮影会やサンプルの提供など、会社としてインフルエンサーの発信力を最大化することを意識しているという。「アメリカやオーストラリア、アジアと比べて、日本のインスタグラムビジネスは後進的。フォロワーを増やすことがゴールではない。インフルエンサーによってフォロワーの上限があるはずで、全員100万フォロワーを目指そうとは思っていない。フォロワーが少なくてもファンが濃い子もいるわけで、一番重要なのは個々が作業にならないで自身の世界観を自発的に発信し続けてくれること」と自社のインスタグラムビジネスへの考えを示す。