クリエイターと消費者、企業をつなぐクラウドソーシングサービス「ソフ プロジェクト」が5月中旬、本格的にスタートする。手がけるのは保坂忠伸スプリング オブ ファッション最高経営責任者(CEO)だ。保坂CEOはこれまでコンサルや人材派遣、アパレルと多業種を渡り歩きながら、“消費者ニーズとマーケットのかい離”というファッション市場が抱える問題の解決法を探ってきた。そして16年、その糸口となるであろうクラウドソーシングサービス「ソフ プロジェクト」を考案。これまでのノウハウを生かして法人化を成し遂げ、今年5月サービスの本格ローンチを迎える。保坂CEOが考えるキャリア像と今後のサービスビジョンとは。
WWDジャパン(以下、WWD):新サービスのサービス内容は?
保坂CEO:服を作って欲しい一般の人やモデルを探しているEC担当者、デザイナーを求めている事業会社などがクリエイターを探すためにサイトを訪れます。彼らが金額を提示して求人募集をすると、条件に合うクリエイターが応募をするという流れです。条件が合えば、プロジェクトを開始します。もちろん、クリエイターが載せている作品を見て、発注者側から直接仕事を依頼することもできます。クリエイターはプロでなくても、18歳以上であれば誰でも登録が可能です。これまでアマチュアと呼ばれてきたデザインから縫製までできる一般人を“ファッションクリエイター”にすることがこの事業の使命です。
WWD:間口を広げた場合、クオリティーコントロールはできますか?
保坂CEO:例えば、トップページに表示する作品は当社が選定するなどのクオリティーコントロールはしていく予定です。しかし、クリエイターの審査などはありません。また、当社が仲介に入ることで、金銭トラブルなどのいわゆるCtoCビジネスのようなリスクもなくすことができると思っています。そもそもアプリのビジョンは「世界のクリエイターに発表の場を」というもの。今後はクリエイターを集めたリアルな展示会をやるなど、プラットフォーム自体の価値を上げていきたいと思います。4月にクリエイターのコンテストを行って、数百通の応募がありました。発表の場としての価値はあるものだと実感しています。
WWD:ビジネスモデルは?
保坂CEO:両者が合致した金額に10%上乗せをして、依頼者から当社へ支払いをします。当社が当初金額の20%を手数料とし、残りをクリエイターに支払います。例えば、依頼者とクリエイターが1件あたり1万円で合意したプロジェクトの場合、まず依頼者が1万1000円を支払い、当社が2000円を差し引いて、残りの8000円がクリエイターに入る仕組みです。ゆくゆくは手数料を下げて、クリエイターの収益を増やしていきたいと思っています。
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WWD:起業メンバーは?
保坂CEO:日本ではインターンを除けば、まだ僕しかいません。エンジニアはサポートメンバーも含めて5人いますが、みんなアルゼンチン人です(笑)。コンピューター言語は英語なので、海外のエンジニアの方が最先端の技術力を持っているんですね。その割に物価が低く、人件費もコスト安なんです。知人の紹介で知り合ったそのうちの1人は、最高技術責任者(CTO)として7月から日本に移住します。まだ会ったことはないんですが、日本が大好きで、日本語も話せます。いつもスカイプでコミュニケーションをとっています(笑)。
WWD:サービスをテストローンチしてみた感触はどうですか?
保坂CEO:1月のユーザー登録開始から前月比140%以上の割合でユーザー数が伸び、今の登録者数は900人程度。今はまだかつての学生向けSNSの延長版としてクリエイターの作品を掲載しているにとどまっていますが、本格ローンチを経て、クリエイターへの仕事依頼ができるようになります。
WWD:今後の目標はありますか?
保坂CEO:11月をめどに資金調達に動くと思います。調達資金はメンバーの拡充にあて、流通を拡大することに主眼を置きます。ユーザーについては年内1万人が目標です。既存産業はSPAばかりで、国内のものつくりが空洞化・同質化していると感じます。これに対して、バリエーションある商品をビジネスにしていくことで、国内の生産体制が活性化するなどの変化も起こせるのではないかと思います。
WWD:クリエイターと消費者をつなぐマッチングサービスのもとにあるのは、やはり学生時代の経験ですか?
保坂CEO:そうですね。加えて、現在のファッション業界不況の元にあるのが、クリエイションの同質化だと思うんです。一方の消費者ニーズは多様化している。そもそも、ファッションは多様化の代名詞じゃないですか。みんなiPhoneが被っても嫌じゃないのに、服が被ったら嫌ですよね。これだけのニーズがある一方で作品を発表できていないデザイナーの卵もたくさんいる。これは、活躍の素地があると確信しました。
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WWD:経歴がかなり多彩ですが、ファッションへの関心はいつからありましたか?
保坂CEO:ファッションへの関心は昔からありました。コンサル業に就職したものの将来やりたいことが見えなかったので、留学をしようと決心をして、仕事を辞めました。ファッションの道へ進もうと思い立ったのは、ニューヨークにいた頃です。でも、大学で服作りを学ぼうといざ日本へ帰ってみると、5月で入学のタイミングを逃してしまい・・・(笑)。そのままアパレル企業で働くことにしました。
WWD:その後、再び仕事を辞めて大学へ行かれましたね。
保坂CEO:どうしても基礎から服作りを学びたかった。そこで、帰国の翌年には文化服装学院の1年コースへ入学しました。実際に入って気付いたのは、プロのデザイナー顔負けの洋服がたくさんあることです。でも、彼らに将来について聞くと、「作品はこのまま自宅保管し、どこかに就職すると思う」とのこと。どうして彼らが海外で戦えないのか、不思議で仕方なかったんです。一点ものの素晴らしい作品がこんなにあるのに、見てもらう環境がない。ファッションの現実を知るとともに、今のサービスの原型もいえる“マッチング”という概念の重要さに気付きました。
WWD:起業しようと思ったのはその頃ですか?
保坂CEO:文化の後、デザイナー山縣良和氏が主宰するファッションスクール・ここのがっこうへも通いました。レクチャーコースには今も通っているのですが、この時に自分がデザインをする人間ではなく、プラットフォームを作って彼らをサポートする人になりたいと決意しました。すぐにエンジニアを見つけ、卒業までにサービスを完成させたのですが、エンジニアに預金とともに逃げられたんです。
WWD:それは災難ですね・・・。
保坂CEO:事業を立ち上げるのはもう辞めようと思ってしまいました。その後、また企業に就職をしたのですが、やっぱりやり直したいという気持ちがあって、懲りずに学生が作品をシェアするためのSNSを作ったんですね。「本気でやりたいことなんか、人生でそんなにあるものじゃない」と自問自答し、ふたたび事業の立ち上げを決意しました。この時人材派遣会社からお誘いをいただき、一度はその下で事業を進めようと入社したのですが、新規事業に集中することができず・・・。起業すべきだと気付いて、ようやく独立に至りました。
WWD:仕事のやりがいは?
保坂CEO:大きな目標も大切ですが、目の前の人に「このサービスが必要だ」と言われた時が一番やりがいを感じます。そのためにも、自分が一番働くことが大切です。特に起業家としては「今後のキャッシュや人件費はどうしよう」といった悩みも多いですが、そもそも儲けるために始めたのではありません。起業家として、悩んでいる人に対して場所を作ってあげることができれば、それが一番うれしいですね。
WWD:仕事の息抜き方法は?
保坂CEO:睡眠時間を無理して削らないこと。そして、1日1回は散歩に行くことです。仕事とプライベートが非常に曖昧で、しかもこの生活が365日続くので、一定のリズムで無理せず仕事をすることが大切です。でも、上司がいない分、ストレスはないですよ(笑)。