「グッチ(GUCCI)」は5月29日、2018年プレ・スプリング・コレクション(クルーズ・コレクション)をブランド創業の地であるイタリア・フィレンツェのピッティ宮殿のパラティーナ美術館で開催した。
招待客はショーの前に、ルネッサンス芸術を巡るツアーへ案内された。ツアーは、メディチ家歴代の美術を有するウフィツィ美術館からスタート。ボッティチェッリの名画「ヴィーナス誕生」などを鑑賞した後、観光名所・ヴェッキオ橋の上にかかる、かつてはメディチ家専用だった秘密の通路を通ってピッティ宮殿内のパラティーナ美術館へ。ショーは、ラファエロやルーベンス、ムリーリョといったルネッサンス美術を代表する名画が壁いっぱいに飾られた館内で行われた。
アレッサンドロ・ミケーレ(Alessandro Michele)が挙げたキーワードは“ルネッサンス・ロックンロール”。ウィメンズとメンズを合わせて115ルックに見る、過剰な装飾主義やミックススタイルは引き続きだが、それを“変わらない”と一刀両断しては、今の「グッチ」の好調理由は理解できない。変わらないスタイルの中に込めた密かなメッセージや遊びを発見するのが今の「グッチ」の楽しみ方だからだ。
アメリカ西部を連想する幌馬車柄や、中国風のドラゴン柄、80年代ディスコ風スパンコール装飾など文化はミックスされ、国境を超えたメッセージとして発信されている。キスをする男女の浮世絵柄は、ピンク色のスタジアム・ジャンパーの背中に採用された。アイテムは、ジョギングパンツからテーラードのスーツ、毛皮のコートに、ウエスタンシャツ、マキシドレスまでとにかくなんでもアリだ。
ルネッサンス絵画から直接的に着想を得たルックも多い。ボッティチェッリが愛した女性をモチーフにしたルックは、彼女が纏っていた服の色彩を取り入れつつ、ロックの要素をプラス。モデルとして歩いたイタリアのロックミュージシャン、フランチェスコ・ビアンコーニ(Francesco Bianconi)は、絵画から抜け出したような総花柄のパンツスーツを着ていた。
アレッサンドロの手法は古典的な画家の手法に通じるものがある。メディアがない時代、画家たちは絵のモチーフや構図を工夫して、思想や風刺を伝えた。「グッチ」の服を好む人は、その派手さだけではなく、秘密のメッセージを読み解く知的な遊びを楽しみ、実際に身につけることで親近感と愛着を覚える。ショーの冒頭に流れたのは、なんと“南無妙法蓮華経”だった。美術館内に響くお経を聞いてざわついたのは主に日本人だったが、おそらくショーの中にはその文化を深く理解した人にしかわからないメッセージが他にもちりばめられているのだろう。
“GUCCI”のロゴ遊びも引き続き。華奢なメンズモデルが着るピンクのティディベア柄のスエットには“GUCCI”ではなく“GUCCY”とある。それは例えるなら、日本人の内田さんを“ウッチー”と呼ぶようなもので、語感だけで親しみを覚える。“GUCCIFY”や“GUCCIFICATION”といったダジャレ風アレンジもある。
「古典的な文化を崇拝しているんだ」とアレッサンドロ・ミケーレ。そのため、ショーの場所として当初ギリシャやアテネも候補としてあげていたが、最終的には“ヨーロッパの美学の始まり”であるフィレンツェを選んだという。古代ギリシャ、ローマ文化から始まり、ルネッサンスで花開いた文化を引き継ぎ、継承するという思いがそこにはあるようだ。
パラティーナ美術館がショー会場として使用されるのは初めてのこと。ウフィッツィ美術館とフィレンツェ市とともに取り組む文化プロジェクト「プレマヴェーラ・ディ・ボーボリ(PRIMAVERA DI BOBOLI)」の一環として実現した。「プレマヴェーラ・ディ・ボーボリ」は、ピッティ宮殿に隣接するボーボリ庭園を修復・保全して後世に伝えることを目的としており、「グッチ」は同美術館に3年にわたり総額200万ユーロ(約2億3600万円)を寄付している。