スノーピーク(SNOW PEAK)と京浜急行電鉄が6月9日、神奈川県横須賀市の観音崎に「スノーピーク グランピング京急観音崎」をオープンした。同施設は観音崎京急ホテルが運営を行うグランピング専門の宿泊施設で、利用者は隈研吾がこのために設計したモバイルハウス“住箱”に宿泊することができる。客室数は3室(1室2人まで利用可能)で、料金が1泊2食付きで2万5000円〜と決して安くはない価格設定だが、すでに100件以上の予約が入っているという。
観音崎は神奈川県の南東部・三浦半島に位置する。東京からは京急線を乗り継いで約90分の馬堀海岸駅が最寄り。駅からバスで15分ほど走った場所にある自然豊かな海岸沿いだ。山本理顕建築の横須賀美術館をはじめ観光スポットが点在するひっそりとした観光地でもある。
9日に行われた内覧会のために、実際に現地に赴いた。乗り継ぎこそ多いが、それほど疲れる距離ではないと感じた。お目当ての“住箱”も、想像していたほど狭くはない。約14.7平方メートルの空間には「シモンズ」製のダブルベッドと「スノーピーク」のソファ・テーブルが配置されているだけで、テレビはない。代わりにベッドの足元とソファの先には高さの違う大きな窓が2つあり、景色を楽しむことを最大の魅力としている。温泉施設はホテルにあるものを自由に利用できる。もちろん、クーラーやドライヤー、鏡、虫よけグッズなど備品は部屋に完備されている。
“住箱”最大の楽しみは地元の食材を利用した料理だろう。調理をするのは観音崎京急ホテルの一流シェフだ。夕食はサーモンのマリネと自家製ハム、三浦半島の野菜の盛り合わせのオードブルをはじめ、魚介ブイヤベースやチキンの香草焼きなどフルコースが並ぶ。バーベキュー設備が完備されていて、出てきた料理を火にかけるだけでお手軽バーベキューが体験できる仕組み。片付けはもちろんスタッフがやってくれる。朝食はホットサンドクッカーを使用して、ホットサンドを自分で作るスタイルだった。
実際に体験して感じたのは、グランピングがキャンプとは全く異なるアミューズメントで、料理から備品まで至れり尽くせりの宿泊体験だということだった。自分では何もせず、ただ自然を気軽に、贅沢に味わうことができる施設であれば、2万5000円は高くはない。観音岬という場所はこれまで何か目的がないと来ないような場所だったのかもしれないが、“住箱”は宿泊自体がここに来る目的になるだろう。今後山の中にも“住箱”を設置する計画があるという原田一之・京浜急行電鉄社長が「ここは最高級の体験を提供する場所。三浦半島をグランピングのメッカにしたい」と意気込むのも納得できる。
もう一つ感じたのが、「スノーピーク」というブランドの訴求力だ。室内の備品から食器、スタッフの制服まで全て「スノーピーク」の製品を使用し、客を迎え入れる。ここに来た客は贅沢体験を通して「スノーピーク」というブランドの世界観を知り、好きになるはずである。今はまだ現地で「スノーピーク」商品を買うことはできないというが、こうして自然とファンを増やすことができるのであれば、「スノーピーク」としてもグランピング施設への投資は安いものだろう。世間がモノ消費からコト消費へと移り変わる中で、「ザ・ノース・フェイス(THE NORTH FACE)」のスキー場進出など、アウトドア業界は早くから体験型のブランド訴求を重要視してきた。キャンプ製品を得意とする「スノーピーク」だけに東京近郊でも気軽に提供できるグランピングを選択したわけだが、コト消費の訴求力の強さを肌で実感できる貴重な機会となった。