テキスタイルデザイナーの梶原加奈子は7月7日、北海道・札幌の札幌芸術の森近くに、セレクトショップとレストラン、ゲストハウス、ワークショップスペースを併設した複合施設「コキュウ(COQ)」をオープンした。梶原デザイナーは日本のテキスタイル会社と組んで開発したテキスタイルは海外でも高い評価を受ける、日本を代表するテキスタイルデザイナーの一人で、「コキュウ」の立ち上げから運営まで、全てを自己資金でまかなった。気鋭のデザイナーはなぜ北海道に新たな拠点を立ち上げたのか。
「コキュウ」は住所こそ札幌市であるものの、市街中心部から車で40分ほど。市内から観光というにはやや距離がある。「『札幌芸術の森』に隣接し、テラスのすぐそばには小さな川が流れていて、『コキュウ』は森の一部のようなもの。市内観光ではなく、北海道の素晴らしさを体感するための場所」と梶原デザイナー。約1100平方メートルの敷地には、2階建ての500平方メートルの面積を持つ建物があり、4部屋に分かれたセレクトショップと、北海道の人気フレンチレストラン「アキ ナガオ(AKI NAGAO)」の長尾彰浩オーナーシェフとコラボレーションするダイニングレストラン、1スイートルームのみのゲストハウス、ワークショップスペースを併設。セレクトショップではストールやバッグなどのアクセサリーの他、テキスタイルの切り売りも行う。ワークショップスペースでは今後、この場所で購入したテキスタイルを使ったバッグやウエアの制作などを行っていく予定だ。
産地企業の技術とハイセンスなデザインを融合した梶原デザイナーのテキスタイルは、海外でも高い評価を受けてきた。2015年にグーグル(Google)が日本のテキスタイルメーカーと組んで発表したスマートテキスタイルプロジェクトでも、公開された動画に梶原デザイナーが登場する。これまでビジネス活動のベースは東京に置きながらも、週末は故郷の北海道に戻る、二重生活を行ってきた。なぜ今になって新たな施設を北海道に作ったのか。「東京にいると気づかないかもしれないが、北海道には今、多くの観光客が訪れ、高級ホテルなどが札幌市以外にもどんどん建設されている。それに北海道自体が自治体を挙げてアートやデザインなどのクリエイティブへの投資を行っている。美術館を併設した札幌芸術の森自体が、自然とアートが一体になったエリアになっている」。
一組のみが宿泊可能なスイートルームのシーツや毛布などのリネン類やタオルは、高級ホテルと同じ製品を使用。いずれもこれまで梶原デザイナーがコラボレーションしてきた産地企業と作りあげてきた製品だ。「ダイニングレストランは長尾シェフが手掛けるワンプレートランチを出すということもあって、早くも話題になり、市内外からも人を呼び込んでいる。まずはダイニングレストランをきっかけにこの場所を知ってもらいたかった」。
このプロジェクトのための資金は全て自己資金でまかなった。「自分のルーツである樹々の奥から聴こえる川のせせらぎやきれいな空気をシェアしたいという想いに突き動かされたようなもの。ほぼ全ての知人に“無謀だ”と言われている(笑)。ただモノを売るだけでなく、日本中のハイクオリティなテキスタイルや製品に触れ、宿泊施設とワークショップで体感し、それでいて北海道の素晴らしさも知ってもらえる “特別な場所”を作りたかった。東京での活動をもう一段上げるという意味でも、絶対に必要だと直感した」。
◾️COQ
住所:札幌市南区常盤5条1-1-23
営業時間:11:00〜19:00(セレクトショップ)、11:00〜20:30(ダイニングレストラン)
定休日:月曜日(祝日の場合は翌日)