ケリング(KERING)とLVMHモエ ヘネシー・ルイ ヴィトン(以下、LVMH)が共同で、モデルのウェルビーング(身体的、精神的および社会的に良好で幸福な状態)確保のための憲章を発表した。両社が共同で憲章を出すのは史上初めてのことだ。
憲章には、両グループのブランドは各モデルにファッションショー開催前6カ月以内に発行された健康診断書の提出を要請すること、女性サイズ32、男性サイズ42(フランスでのサイズ基準)という基準をキャスティング要件から削除し、キャスティング会社には、サイズ34以上の女性モデル、サイズ44以上の男性モデルを斡旋することを求めること、専任の精神分析医やセラピストを常勤させ、必要に応じてモデルが労働時間内に面会することができるよう環境を整えることを定めた。
また、16歳未満のモデルを、ファッションショーや撮影に起用しないことを規定。16〜18歳のモデルには22時〜翌6時の勤務禁止の他、エージェンシーが指定する監督者または保護者が立ち会うこと、18歳未満のモデルは監督者または保護者と同じ施設に宿泊すること、モデルが就学義務を確実に履行することをエージェンシーに要求することを定めた。さらにホットラインなど設置し、モデルはモデルエージェンシー、キャスティング・ディレクター、ブランドとの間で生じた問題を訴えることができるようにする。
両社はこの憲章に、フランスオートクチュール・プレタポルテ連合会(通称サンディカ)やイタリアファッション協会など、ファッション業界を担う各団体や企業の賛同を期待している。こうした動きの背景には2月に米キャスティング・ディレクターのジェームズ・スカリー(James Scully)が「エルメス(HERMES)」「バレンシアガ(BALENCIAGA)」などがモデルを不当に扱ったとする批判をインスタグラムに投稿したことがある。
フランソワ・アンリ・ピノー(Francois Henri Pinault)=ケリング会長兼最高経営責任者(CEO)は、「ケリングは15年からモデルの雇用環境改善について取り組んできた。だが批判を受け、『もうたくさんだ。われわれがルールを設け、次のファッション・ウイークから実行する』と決断した。誰かが動かないといけないとすれば、それはわれわれだ。ファッション業界での最初の例となり、リードする」と語った。
しかし、業界にインパクトを与えるには、他の企業の参加が必須だ。「業界のリーダーであるLVMHに、この憲章作成に興味がないかとコンタクトを取った。彼らもモデルの雇用環境改善に取り組んできた企業だったため、話は進んだ。このLVMHチームとのコラボレーションは非常に有益で影響力があるものになった。これは誰が先に始めたとかいう問題ではない。職業倫理とビジョンの問題だ。この憲章が機能し、多くのブランドが参加するだろうという自信がある。この憲章は、業界にはびこるモデルの痩せすぎ問題と、特に拒食症問題を終わらせる大きな一歩だ」とピノー会長兼CEOは話す。
ベルナール・アルノー(Bernard Arnault)LVMH会長兼CEOの息子、アントワン・アルノー(Antoine Arnault)=ロロ・ピアーナ会長兼ベルルッティCEOは、スカリーのインスタグラムの投稿に「もしこのようなことがわれわれのブランドで起きていることを知ったら、私に直接連絡をください」とコメントし、数日後スカリーと面会したという。「このようなことがファッション業界のどこで起きても驚きはしなかった。だがそれは、われわれのグループ内でも起きているということ。今までの体制では人々に受け入れられない。業界のリーダーとして、業界を導き、問題を回避するために先手を打つ先例となる責任がある。この共同憲章をとても誇りに思う。競争以上に重要なことはあるのだ」と話す。
ピノー=ケリング会長兼CEOは、憲章制定にあたり、アレッサンドロ・ ミケーレ(Alessandro Michele)「グッチ(GUCCI)」クリエイティブ・ディレクターやデムナ・ヴァザリア(Demna Gvasalia)「バレンシアガ」アーティスティック・ディレクターなど、グループ内のデザイナーと直接話をしたという。「このような重大なトピックは、一人一人と直接話をしなければ、間接的な返事しか得られないだろう。デザイナーと話し、落ち着いて議論すれば何も問題はない。彼らは理解してくれる」。
フランス政府が15年に可決した痩せすぎモデルの雇用を禁止する法律では、ファッションショー開催前2年以内に発行された健康診断書の提出をモデルに求めていたが、ケリングとLVMHはこれを6カ月以内に短縮。「2年は長すぎると誰もが思っているだろう。法律は遵守するが、われわれはそれよりも上を目指す」とアントワン=ロロ・ピアーナ会長兼ベルルッティCEO。モデルのナタリア・ヴォディアノヴァ(Natalia Vodianova)を妻に持つ同氏はまた、「ナタリアはこの問題は15年前からあったという。このことを気付かせてくれたSNSには感謝しなくてはいけない」と語った。