「ザ オーディナリー」商品 PHOTO BY DECIEM
最近海外のSNSや各種メディアで人気を集めているスキンケアブランド「ザ オーディナリー(THE ORDINARY)」。シンプルでおしゃれなパッケージには、「レチノール1%ソリューション」「ニアシンアミド10%+亜鉛1%」「アスコルビル酸テトラヘキシルデシル ソリューション20%イン ビタミンF」「アゼライク酸サスペンション10%」など、一般の人には少し理解が難しそうな化学成分が商品名として印字されている。一番の驚きは、その値段。もっとも安価なもので「サリチル酸2%ソリューション」と「レチノール0.2%イン スクワラン」がそれぞれ8.40ドル(約940円)で、高価なものが「アスコルビル酸テトラヘキシルデシル ソリューション20% イン ビタミンF」と「ビュッフェ」がそれぞれ19.90ドル(約2220円)だ。一般的な化粧水や美容液に使用されているヒアルロン酸の美容液も10.90ドル(約1220円)だ。他社商品の半額以下で買えるアイテムばかりがそろう。同ブランドはSNSだけでなく、海外の媒体「アリューア(ALLURE)」「リファイナリー29(REFINERY 29)」「イントゥー ザ グロス(INTO THE GLOSS)」英「エル(ELLE)」英「ヴォーグ(VOGUE)」もを取り上げており、さらにニューヨーク・コレクションのバックステージでも使用されていた。「サンデー・タイムズ(THE SUNDAY TIMES)」「グラツィア(GRAZIA)」「CEW(コスメティック エグゼクティブ ウーマン)」など数々の賞も受けている。
幣紙記者ももちろん気になり、美容液やケミカルピーリングを含む全8品を1万6000円以下で購入。例えば日本でも人気のローズヒップオイルは100%オーガニックのコールドプレスのもので16.90ドル(約1890円)。高価な他社商品に負けないくらいのクオリティーで、使い心地も抜群。AHAとBHAを含んだピーリングも、個人的に効果を実感できた。商品名が成分名でもあるため若干選ぶ際に迷ってしまう点は否めないが、サイトには各商品についての成分や効能、使い方をきちんと説明している。そして公式インスタグラムアカウントに寄せられたコメントや質問にもきちんと答えている。
「ザ オーディナリー」のベストセラー「ビュッフェ」PHOTO BY DECIEM
さらに注目すべき点は、「ザ オーディナリー」を手掛けている企業のデシエム(DECIEM)だ。2013年にカナダで創業され、「ザ オーディナリー」以外にも計15ブランドを手掛けている。それらは、一般的な界面活性剤を使用していないヘアケアブランド「HIF」や美容サプリメントドリンクブランド「ファウンデーション(FOUNDATION)」、美白専用ブランド「ホワイトRX(WHITE RX)」、エイジングケアに特化した「NIOD」など、ユニークなコンセプトのブランドばかりだ。ウェブサイトもイマドキ風のおしゃれなレイアウトで、話題を呼ぶのも納得だ。17年6月には、エスティ ローダー カンパニーズ(ESTEE LAUDER COMPANIES)が株式の一部を取得したことからも、いかに注目されているかがうかがえる。日本では直営店の展開はないものの、アジアでは韓国には出店している。
ブランドン・ドゥルアックス創業者 PHOTO BY DECIEM
今回、ブランドの成功の秘密を探るべく、デシエム創業者のブランドン・トゥルアックス(Brandon Truaxe)にインタビューした。
WWDビューティ(以下、WWD):デシエムについて教えてください。
ブランドン・トゥルアックス=デシエム創業者(以下、トゥルアックス):約4年前に、特定の悩みに特化した機能性ビューティブランドを立ち上げたくて、会社を設立した。具体的な悩みだけに特化し、そこをとことん極めているブランドは少ないことに気づいたのがきっかけだ。
WWD:デシエムの特徴は?
トゥルアックス:機能性をうたうブランドの多くは、うさんくさいコピーや誤解されやすい売り文句をたくさん使い、消費者からの信頼も低下している。われわれは、トランスペアレンシー(透明性)を大切にしており、成分や製造工程について全て明確にしている。広告もほとんど出さず、公式インスタグラムに出しているコンテンツは全て事実を伝えているだけ。成分名をそのまま商品名にしているのも、それが狙い。全ての商品には、成分とその配合比率を見やすいように表示している。そして開発から製造工程まで全て自社で行っているため、クオリティーのコントロールもしやすい。
WWD:商品名が少し難しいが、その狙いは?
トゥルアックス:化学成分に詳しい人にとっては、実は結構シンプルなんだけどね。われわれは、成分についての周知度を上げたいというのも一つの目標。10年前は、誰もヒアルロン酸なんて知らなかった。でも今の消費者にはとてもなじみのある成分だ。難しい商品名は決してユーザーフレンドリーではないかもしれないが、100万人に“好かれる”より、1000人に “愛される”ブランドでありたい。
WWD:これまでどのように成長してきたか?
トゥルアックス:自分たちでも信じられないくらい、創業から4年で飛躍的に成長した。特に「ザ オーディナリー」「NIOD」「ハイラマイド(HYLAMIDE)」が人気だ。スキンケアの需要の方が高いからそうなっているが、本来はヘアやボディーのエイジングといった悩みも多いはず。だから今後はヘアとボディーケアブランドを強化したい。
WWD:高品質なものを、低価格で提供できる理由は?
トゥルアックス:無理やり高価格にしないこと。例えば純度の高いナイアシンアミドは1キロあたり10ドル(約1120円)で手に入る。「ナイアシンアミド10% + 亜鉛1%」(9.80ドル、約1000円)の美容液の原価は約1ドル(約112円)。そこに生産や商品開発コスト、マージンを最低限足しているだけ。
WWD:現在の店舗網について教えてください。
トゥルアックス:直営店は10店舗を構え、1万以上の店舗に卸している。日本への出店は未定だ。とても重要なマーケットだが、きちんとリサーチが必要だと考えている。
WWD:化粧品業界全般についてどう思うか?
トゥルアックス:情報がいろんなところで入手できる今の時代、消費者が重要視するのは、きちんと化学的に効果が立証されていることや、ブランドからの正直なコミュニケーションだと思う。そして成分についての知識も多く得ている彼らは、豪華な容器にはだまされなくなっている。そういう意味でも、「透明性」をわれわれは強調していきたい。ここまで成長したのも、莫大な費用をかけた広告ではなく、純粋な口コミからだ。
WWD:今後手掛けてみたいカテゴリーは?
トゥルアックス:メイクアップやベビーケアアイテム、あとはもう少し研究が必要な美白系の商品も開発していくつもりだ。どのような「アイテムを展開するとしても、“ファンクショナル・ビューティ(機能的なビューティ)”ブランドとして今後も発展していきたい。