「WWDジャパン」2000号が11月6日に発売された。1979年の創刊から現在に至るまで、39年分のファッションニュース、時代を象徴するコレクションなど過去を振り返りつつ、現代のデザイナーや経営者たちのインタビューを掲載し、ファッションの未来を探る特大版だ。そこで「WWD JAPAN.com」では2000号の制作に携わったスタッフのコラムを不定期連載としてお届け。この号の編集を通して未来を見つめた、老(?)若男女幅広いスタッフたちの気付きや意見に、くみ取っていただける何かがあればさいわいだ。
「WWDジャパン」2000号はタブロイド紙でありながら170ページという膨大なボリュームで、広告の入稿作業にも追われていた広告部所属の新卒1年目の森川です。特集制作では主に2000年代を担当しました。業界を客観視する中で気づいたことは “ファッションに無駄がなくなっている”ことでした。
05年のニュースで印象的だったのは、ファーストリテイリングが同年10月7日に「ユニクロ(UNIQLO)」銀座店をオープンしたことでした。同年、銀座中央通りでは日本の老舗専門店がドミノ倒し的に次々と消え、海外ブランドの店舗に取って代わる現象が起きていました。この現象に待ったをかけた日本企業は、ファーストリテイリングでした。このニュースが象徴するように、00年代は日本のSPA企業が業界に旋風を起こし、ファッションを大衆化しました。自ら製造し売ることでコストの無駄をなくすSPAの躍進は、その後ファッションの低価格化に繋がります。
一方で、11年には「ア ベイシング エイプ(R)(A BATHENG APE)」を運営していたノーウェアを香港企業I.Tが取得。このニュースは私より一回り年上の世代に大きな衝撃を与えました。「クリエイティブというところでは他に負ける気はしない」というNIGO(R)の言葉通り、効率よりもクリエイティブで裏原カルチャーの代表格になったノーウェア。私は、このニュースを“もう服にカルチャーは必要ではない”と宣告された瞬間と受け止めました。
00年代以降のニュースを読むと、無駄をうまくなくすことができた企業が成長しているようです。そしてゼロからオリジナルを生み出す企業よりも、多くのデータから売れる商品を作る企業の方が称賛されるようになってきています。ビジネスの世界では売り上げこそが正義なのは理解できます。しかし、 “全てが効率化されることが正しい”という価値観が重要視され始めていることに私自身はどこか違和感を覚えていました。
私自身は無駄を楽しむことがファッションの醍醐味と思っており、他の業界と違い、ファッションには遊びが多くあっていいはずだと信じています。良いクリエイションは振り返って見れば、多くの無駄のもとに成り立っていると思います。感情を詰め込み、苦心して続け生み出した答えだったりするからです。無駄を省くと、ファッションは死んでしまうのではと思うのです。
AI(人工知能)により超効率化された未来では、逆に無駄が大切になるのではないか?と思います。究極に効率化された服を追い求める各企業の商品は、さらに同質化するはずです。差別化をはかるには、無駄なものを足すことが必要になります。服は自分たちがまとうものなので、感情移入しやすい商品です。実際私は、職人が時間をかけて作った靴、環境保全に気を使った服などの商品に惹かれます。このような、服に込められたストーリーが他との差別化の方法になると思います。カルチャーが消え、店に足を運ぶことが少なくなることなどは、言葉にするとなんだか寂しい気がします。人間にしか感じることができない感情を大切にできる企業が未来を切り開くはずです。