海外で経験を積んだ日本人若手デザイナーたちが今、続々と新ブランドを立ち上げている。それぞれの独創性を保ちながら、いずれもがコレクションブランドで培った技術を生かして新たな価値を打ち出している。今季本格デビューの「ミスターイット(MISTER IT.)」はウエアやアクセサリーやインテリアグッズなどに加え、展示会ではオリジナルの音響やムービーも制作するこだわりよう。「クードス(KUDOS)」はスタイリングや撮影もデザイナー自ら手掛け、ブランドを総合的にプロデュースする。それぞれの個性を生かす、プレゼンテーションによる世界観作りにも長けている。ここではデビューから1年半以内の新たな風を吹き込む6ブランドをピックアップする。
「ミスターイット」パーソナルな思い出を込めた
プレゼントをコレクションに
「ミスターイット(MISTER IT.)」は、「メゾン マルジェラ(MAISON MARGIELA)」で3年間ウィメンズとオートクチュールのデザインチームで経験を積んだ砂川卓也が立ち上げたブランド。同メゾンを去る際に元同僚10人への感謝の気持ちを込めて、プレゼントとしてコレクションを制作したのが「ミスターイット」の始まりだ。初めて量産を行う2018年春夏は、その一人一人の元同僚とのパーソナルな思い出から着想した服をベースに、商品へと転換させた。シンプルな白シャツには、カフス部分に小さなハートの刺しゅうを加え、握手をすると見えるという仕掛けで「話のツールになるような服を作りたい」と砂川デザイナー。また、“ユア タッチ(YOUR TOUCH)”と名付けた一点モノラインでは、1960年代のビンテージのインテリアファブリックなどを使ったスカートやパンツなどをそろえた。
オリジナルのアクセサリーやインテリアグッズもある。1960年代のインテリアファブリックを張り付けたカルトナージュのティッシュボックスやアクセサリーも発表。角砂糖のような指輪はビンのケースとスプーンがセット。指輪をビンの中に飾り、スプーンですくって取り出すというものだ。
価格帯はアウター5万〜7万円、ニット3万3000〜4万2000円、シャツ2万7000〜3万2000円、ボトムス3万4000〜4万円、アクセサリー1万2000〜2万5000円、一点モノ商品4万〜21万円など。
原点となった“コレクション ゼロ(collection zero)”は15年に制作した。砂川は「初めはフランス語をうまくしゃべれなくて悩んでいたが、チームの皆は温かく迎え入れてくれ、いろいろな面でサポートしてくれた。このコレクションではブランドを始める前に“1の前に0のことをしっかりと”という思いでお世話になった元同僚に向けたコレクションを作った。すべてユニークピースで構成し、一人一人の顔を思い浮かべながらデザインした」という。展示会はパリのビンテージショップの「サンクス ゴッド アイム ア ヴィップ(THANX GOD I'M A V.I.P)」。で、行い元同僚を集めてプレゼンテーションを行った。元同僚のマニュ(Manu)に向けた作品は、ストレートに感謝の気持ちを伝えるため、1輪の花を添えて服をプレゼント。元同僚のサンディー(Sandie)に向けた作品では、ファストフード店へ決して行かず、セクシーでタイトな服を着ていた彼女へ“逆”を提案し、笑ってもらいたいという気持ちを込めた。
「サーロイン」日常着にユーモアを加えた
脱力感のあるモード
「サーロイン(SIRLOIN)」は「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」で経験を積んだ宇佐美麻緒と、「ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)」でアシスタントデザイナーを経たアルヴェ・ラガークランツ(Alve Lagercrantz)が上海の企業から資本を得て2016年にスタートした。誰もが親近感を抱くシャツやポロシャツ、Tシャツなどのカジュアルな日常着に、アシンメトリーなカッティングやドレープを施して脱力感や違和感を加える。下着も制作し、ブラジャーや“SIRLOIN”のロゴ入りパンツなどバリエーションを豊富に展開。17-18年秋冬、18年春夏の2シーズンとパリや上海でプレゼンテーションやショーを行っている。パリではケイト・モス風のウィッグを着けた女の子たちがぎこちなくポーズを決めるという、シュールな演出でブランドの世界観を表現していた。
価格帯はアウター6万〜12万円、トップス2万〜6万円、ボトムス3万〜5万円など。
「クードス」遊び心のあるモードを
ユニセックスで提案
「クードス(KUDOS)」はパリでファッションを学んだ工藤司によるユニセックスブランド。学校で卒業コレクションの発表を課されなかったことから、個人的に“ヨーロッパ卒業コレクション”として制作した作品がバイヤーの目に留まってオーダーが入り、ブランドをスタートすることになった。本格始動の2018年春夏は、画家のルーチョ・フォンタナ(Lucio Fontana)の作品から着想を得たトップス、五輪の輪をイメージした「LOVE」のロゴ入りTシャツなど、遊び心に加えて、独特な雰囲気を持つ。工藤は写真家やスタイリストとしても活動中で、すでに池袋パルコのイベントでビジュアルの衣装を手掛けた。
“卒業コレクション”として制作したコレクションは、ランダムな色使いがポイントのノースリーブとアームウォーマーがセットになった手編みのニット、3つの異なる生地のレイヤードをボタンで留めたシャツなどを制作。撮影やスタイリングもデザイナー自ら手掛けた。
「スエサダ」ブラひもや乳首ピアスで作る
新たなフェミニニティー
「スエサダ(SUESADA)」は、「アンソニー ヴァカレロ(ANTHONY VACCARELLO)」や国内のアパレルメーカーで企画を経験した末定亮佑が手掛けるウィメンズブランド。フェミニンとマニッシュな要素を掛け合わせて提案する。2シーズン目の今季はブラジャーのストラップやホック、乳首ピアスを模した真ちゅうパーツを、厚みのある肩パッドを入れたおじさん風ジャケットのセットアップやロングワンピースに取り付けて、センシュアルなユーモアを加えた。光沢のあるブルゾンやワイドパンツのスリットには、スタッズをボタンとして使用し、繊細な印象に仕上げた。素材選びも縫製のクオリティーも良質。意外性のあるアイデアをエレガントに昇華して、新たなフェミニニティーを模索した。
価格帯はトップス9800〜3万1500円、ボトムス3万1500〜3万5000円、アウター6万9800〜19万8000円、ドレス4万2000〜8万9000円、アクセサリー4800円〜1万6800円など。
「ヨーソー」立体的なシルエットと 手描きのテキスタイル
「ヨーソー(YOSO)」は、パタンナーやモデリストとして経験を積んだ本郷佑佳がパリを拠点にスタートしたウィメンズブランド。名前は洋装店の“ようそう”に由来し、人とのコミュニケーションを大切にし、職人の技術や手作り感を生かしたいという思いを込めた。日本やヨーロッパの生地を用いてフランスを中心に生産する。デザインは、切り替えを加えた立体的な丸みのあるシルエットで、女性が着たときに感じるフィット感などを重視。やりすぎないズレを意識したボタンの合わせや、線の重なりをイメージした手描きのオリジナルテキスタイルも、キレイすぎないハズしとして利かせた。
価格帯はコート6万〜9万5000円、ジャケット4万〜7万5000円、ドレス4万〜6万円、トップス2万5000〜4万円、ボトムス3万〜5万円など。
「アヤーム」クチュールのテクニックで
オリジナル素材の探求
「シャネル(CHANEL)」傘下のメゾン ルマリエ(Maison Lemarie)や 「コーシェ(KOCHE)」でインターンを経験した竹島綾の「アヤーム(AYAME)」が、2018年春夏に本格デビューする。クチュールライクなオリジナル素材作りを得意とし、新たな質感や風合いで独創性を出す。今季は迷彩や小花柄、ギンガムチェックをさまざまな加工で、表情を変えて見せた。グリッターをのせたオーガンジーと和紙を合わせてシュリンクした生地は、さらにオパール加工で透明感のある印象に。その異なる生地をパッチワークのように組み合わせてドレスやアウターとして仕立てた。シルエットはゆったりとしたマニッシュなトップスとフェミニンなタイトスカートを合せたスタイルを提案する。
セント・マーチン美術大学の卒業コレクションでは、リンキングのテクニックでフリルニットをつなぎ合わせ、シフォンやフェルト状にしたコットンローンレースなどをスモッキングしたウエアなどを発表した。
価格帯はアウター6万8000〜16万8000円、ドレス6万3000円、トップス1万7000〜4万5000円、ボトムス3万8000〜6万7000円など。