VIDEO 3:33あたりからドレイクの新曲「Signs」がショーBGMとして使用された
ラッパーのドレイク(Drake)が新曲「Signs」をキム・ジョーンズ(Kim Jones)手掛ける「ルイ・ヴィトン(Louis Vuitton)」2017-18年秋冬メンズのショー音楽として発表したことを皮切りに、オーバードーズ(薬物の過剰摂取)でこの世を去った“ラップ界のカート・コバーン”ことリル・ピープ(Lil Peep)がパリコレを歩いたり、ケンドリック・ラマー(Kendrick Lamr)がナイキ(NIKE)と、リル・ヨッティ(Lil Yachty)が「リーボック(REEBOK)」とパートナーシップを締結したり、トラヴィス・スコット(Travis Scott)は「サンローラン(SAINT LAURENT)」とレコードを発売するなど、2017年はヒップホップとファッションの関係がより深まった1年だった。
というのも17年は、06年以降でヒップホップのジャンルから最も多くのトップシングルが生まれた年で、数字や結果で見てもここ10年で最も盛り上がった年であった。音楽ストリーミングサービスでみると「サウンドクラウド(Soundcloud)」では、1年間に再生された楽曲TOP50のすべてがヒップホップという結果に。「スポティファイ(Spotify)」においても、最も再生されたアーティストがエド・シーラン(Ed Sheeran)とザ・チェインスモーカーズ(THE CHAINSMOKERS)だった他、ドレイク、ザ・ウィークエンド(The Weeknd)、ケンドリックとブラックミュージシャンの3人がTOP5にランクイン。最も再生されたアルバムTOP5で見ても第1位のエド・シーランの「÷(divide)」を除き、ドレイクの「More Life」、ケンドリックの「DAMN.」、ザ・ウィークエンドの「Starboy」、白人ラッパーのポスト・マローン(Post Malone)の「Stoney」が上位を独占した(日本で最も再生されたアーティストはONE OK ROCK)。
先日発表された第60回「グラミー賞」候補者も、白人男性アーティストの作品が史上初めて主要4部門にノミネートされず、ジェイ・Z(JAY-Z)やブルーノ・マーズ(Bruno Mars)、チャイルディッシュ・ガンビーノ (Childish Gambino)、カリッド・ロビンソン(Khalid Robinson)、リル・ウージー・ヴァート(Lil Uzi Vert)ら多くのブラックミュージシャンが名を連ねた。
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さらに、全米ビルボードシングルチャートで女性ラッパーのカルディ・B(Cardi B)の「Bodak Yellow」が、女性ラッパーのソロ曲として1998年のローリン・ヒル(Lauryn Hill)以来となる1位を獲得したことも勢いを象徴しているだろう。
READ MORE 1 / 1 なぜヒップホップが流行ったか?
では「なぜヒップホップが流行ったか」と考えた時に、ファレル・ウィリアムス(Pharrell Williams)やカニエ・ウェスト(Kanye West)の顔が頭に浮かびつつも、「コレ!」と断言することは難しい。が、“デジタル化”は大きな要因の1つだろう。ロックやフォークと違いヒップホップは比較的最近生まれたジャンルのため、サンプリングなどの電子音がメーン。若い世代は生まれた時から電子音に慣れ親しんでいることから潜在的に受け入れやすいのではないだろうか。またバンドと違い、音源とマイクがあればすぐにパフォーマンスできる手軽さもある。つい先日自宅近くの公園で小学校高学年くらいの子どもたちが滑り台の上でサイファー(複数人が輪になって即興でラップをすること)していたのを見て、以前ヒップホップ・クルーのKANDYTOWNに所属するKIKUMARUがインタビューで「単純に何もないところから始められる。ただ音が鳴れば、それはラップ」と答えていたことを思い出した。
そして、ヒップホップの「俺のラップはヤバい」「良い車に乗ってる」「周りにはこんな女がいる」「こんな服着てるぜ」といったボースティング(自画自賛、自慢の意)の文化が、日々コーディネートを投稿し、「いいね」の数に一喜一憂するSNS世代の若者のファッション感に通ずるところもあるだろう。
カニエ・ウェスト(左)と妻でモデルのキム・カーダシアン (c) Fairchild Fashion Media
カニエ・ウェスト (c) Fairchild Fashion Media
カニエ・ウェスト (c) Fairchild Fashion Media
エイサップ・ロッキー (c) Fairchild Fashion Media
エイサップ・ロッキー (c) Fairchild Fashion Media
「ストレンジャー・シングス」に出演した女優のミリー・ボビー・ブラウン(左)とエイサップ・ロッキー (c) Fairchild Fashion Media
また、デヴィッド・ボウイ(David Bowie)やカート・コバーン(Kurt Cobain)などミュージシャンはいつの時代でもファッションアイコンだったが、いまのファッションアイコンの多くはカニエやエイサップ・ロッキー(A$AP Rocky)といったラッパーが担っている。“ラッパーのファッションアイコン化”については諸説あるが、日々ニューカマーが現れる音楽業界で生き残っていくには、独創的で強烈なインパクトを残すことができる個性が非常に重要となってくる。そこで、個性を一瞬でアピールでき、“外に対する内面性の表明”としての要素を強く持つファッションが注目されるのも自然な流れだ。
GIOVANNI GIANNONI / WWD (c) Fairchild Fashion Madia
ちなみにファッションデザイナーには、「カルバン・クライン(CALVIN KLEIN)」のラフ・シモンズ(Raf Simons)、「アンダーカバー(UNDERCOVER)」の高橋盾、「オフ-ホワイト c/o ヴァージル アブロー(OFF-WHITE c/o VIRGIL ABLOH)」のヴァージル・アブローら“音楽オタク”が多く、「グッチ(GUCCI)」のアレッサンドロ・ミケーレ(Alessandro Michele)は、17-18年秋冬コレクションでオーストラリアのロックバンド、AC/DCのバンドTシャツを発表していた。先月亡くなったAC/DCのギタリスト、マルコム・ヤング(Malcolm Young)を偲ぶ意味でも、個人的に来年はバンTが流行ってほしい。