バーバーサコタ(BARBER SAKOTA)は、バーバーチェア2脚のみの店だ。店に立つのは迫田将輝オーナー(30)一人。生まれ育った東村山市の1000円カットの店や、青山にあるアパレル・飲食・バーバーの複合型ショップ、フリーマンズ スポーティング クラブ(FREEMANS SPORTING CLUB)でキャリアを積み、2016年5月に28歳で独立した。
店は、世田谷の下高井戸駅前の商店街の先にある。「スローな時間が流れる場所」が決め手になった。「それまで下高井戸には縁もゆかりもなかった」と笑う。昨今のバーバーブームとは一線を画し(ただし絶妙にかすりながら)、あくまで「町の床屋」として存在している。カット3000円、シャンプー1000円、シェーブ500円という料金設定からも、それは読み取れる。メローなBGMが流れる43平方メートルの店内は、白を基調としたシンプルな内装も奏功し、理容師一人客一人には広々とした印象で居心地がいい。
生粋のスケーターである迫田オーナーのネットワーク力、前職から続くファッション関係者の支持も厚く、現在は3週間先の予約を取るのも困難な人気店で、土日はひと月待ちの状況だ。「原宿や渋谷の喧騒に疲れた方の来店が多い。髪の毛を切るときくらいは、うちでリラックスしてほしい」とコメントした。ただし「仲間だけの集まる店にはしたくなかった」とも言い、「近所のおじいちゃんから学生、子どもまで、どんな人でも気軽に立ち寄れる店にしたい」という。迫田オーナーが最も大事にしているのは、客とのコミュニケーションだ。一人一人にしっかり向き合いたいから、マンツーマンの接客を心掛けている。
とはいえ、「予約が取れなくて迷惑をかけてしまっている現状を打破するために」、18年1月8日からフリーの理容師がバーバーサコタに参加することになった。美容業界ではヘアメイクとの兼業などフリーランスというスタイルも例はあるが、理容師ではまだ珍しい。鍵となるのは迫田オーナーのような理解ある先達だ。「若いときの苦労は買ってでもしろというが、僕自身もそれは実感した。若ければ体力もあるし、失敗もリカバーしやすい。独立を目指す若い理容師を少しでも応援できたらと思う」と語った。
厚生労働省の16年度の報告によると、全国にある理容室の数は12万2539軒。24万3360軒ある美容室の半数で、12年度の報告に比べると7700軒減った。片や美容室は1万2200軒増えている。「今は、お客さまも僕と同世代が多いが、将来的には待合スペースで近所のおじいちゃんたちが囲碁や将棋をしている、そんな店作りが理想」と言い、試行錯誤しながらも「あくまで自分のペース、自分の目の届く範囲でやっていきたい」とした。迫田オーナーが下高井戸で印す小さくも先進的な一歩が、理容業界の未来を照らしている。