百貨店の冬のセールの光景が、2018年は少し変わったものになりそうだ。
最大手の三越伊勢丹ホールディングスは、冬のセールの開始日を前年よりも約1週間早い1月4日にする。今年3月に電撃退任した大西洋・前社長の指揮の下、夏と冬のセール開始日を他店より約1~2週間後ろ倒しにしてきた。これが冬に関しては、6年ぶりに他店とほぼ横並びになる。
百貨店を含めた商業施設のセールは衣料品の販売不振に伴い、2000年以降、次第に前倒しされていった。その結果、セールまで買い控える顧客が増え、正価(プロパー)で服が売れなくなる悪循環に陥った。大西前社長は需要のピークに適正価格で販売することで、顧客の価格への信頼を取り戻そうとした。百貨店のあるべき理想の姿を掲げる“大西改革”の象徴的な施策の一つといえた。
冬のセールの前倒しの理由を三越伊勢丹ホールディングスは「早く春物の新商品を見たいというお客さまの声に応えるため」(同社広報)と説明する。まだ着用するには早すぎる春物衣料でも、年明けから間を置かずに店頭に並べることで、すぐに購入に至らなくても、顧客に購入検討を促す効果を生み出す。この検討の日数を十分に確保する必要があり、冬のセールの開始が1月半ばだと、春物商戦の初速にも影響してしまう――そんな風に同社は主張する。
一方で、これまでのようなセールの後ろ倒しは販売力がないと成立しない。他店が大々的にセールする中、プロパーで勝負するには百貨店ののれんに対する顧客ロイヤルティが大前提になるからだ。三越伊勢丹グループの中でも、伊勢丹新宿本店など都心の基幹店には遅いセールを待ってくれる優良顧客の厚みがあったが、それ以外の地方・郊外店は苦戦を強いられていた。ある大手アパレル幹部は「正直なところ、(今回の前倒しを)歓迎している」と打ち明ける。
百貨店のセール時期が二分化されていたこの6年、衣料品のセールを取り巻く環境は徐々に変化した。ショッピングセンターなどでは年末にセールに踏み切るところが増えた。急拡大したECでは、時期にあまり関係なく頻繁にセールが繰り返されている。消費者はセール慣れしてしまったのだ。百貨店のセールも稼ぎ時であることには変わりないが、以前ほどの集客力をなくしている。セール初日こそ盛り上がるが、潮が引くのも早い。
大西前社長がセールの後ろ倒しを発表した当時、百貨店のセールの在り方を巡って、小売りやアパレル業界で活発な議論を呼んだ。それに比べると今回の方針転換は、静かに受け止められているような気がする。