インナーダウンは、今やニットに代わるミッドレイヤー(中間着)として市民権を得ている。カジュアルシーンのみならず、出退勤時のビジネスマンのジャケットの下で強い味方になっている。しかし5年前、この当たり前はなかった。新たな着こなしを大きくけん引したのが、日本のアウトドアブランド「モンベル(MONT-BELL)」だ。竹山史朗・常務取締役兼広報本部長に話を聞いた。
WWD:インナーダウンは「モンベル」が作った?
竹山史朗・常務取締役兼広報本部長(以下、竹山):ダウンウエアというアイテムが誕生して以来、それは無条件でアウターを指していました。生地もがっしりし、とにかくボリュームがありましたから。
「モンベル」が、軽量でコンパクトに収まるファスナー式のダウンジャケットを発表したのは1997年。実はダウンの下着というものはそれ以前にもありました。ただしそれは完全に冬山用のもので、一般の方はまず着ない、少なくともファッションの文脈で出てくるものではありませんでした。「モンベル」が作ったのは、中間着として着られるもの。これがインナーダウンの走りだと思います。当時のアイテム名は“ダウンインナージャケット”でした。
ジャケットから始まり、2001年にはプルオーバータイプのベストを発売。当初は襟付きのデザインでしたが、重ね着する際に干渉しないよう襟のないものに変わっていきました。その後もスナップボタン式やフード付きなど、次々販売しました。
WWD:「モンベル」の代名詞ともなったカーディガンタイプの発売は?
竹山:11年です。
WWD:街着として着ようとなったのはいつから?
竹山:それまでは軽量でコンパクトなダウンというものがなかったので、これを見つけたスタイリストさんらファッション感度の高い人たちが、自由な発想で着こなしに取り入れ始めたのがきっかけだと思います。もちろん温暖化も重要なファクターでしょう。それほど、ごついダウンが必要なくなった。脱いだ時もかさばらず、小さくたためる方がいいですし。こうしてアウトドアシーン以外でも、少しずつ着られるようになってきました。1万円前後という価格帯も手を出しやすかったのではないでしょうか。今ではオフィスで、ニットの代わりにインナーダウンを着る方も増えましたね。
WWD:この“トレンドの芽”を見逃さず、多くのメーカーがインナーダウンを開発・販売した。
竹山:ええ、軽量コンパクトなダウンが一般化していきました。ただ、“収納して持ち運べるダウン”という発想は、われわれが最初だと思います。少しでも携帯する可能性があるものについては、全てスタッフバック(袋)を付けました。
WWD:やはりスナップボタン式のカーディガンタイプが突出して売れている?
竹山:そんなことはないですね。アウトドアシーンで、インナーとしてもアウターとしても着られるファスナータイプの方が売れています。
WWD:11年の発売以来、デザインに変化は?
竹山:丈やダウンの質・量を調整するなど、常に改良しています。「ビーミング バイ ビームス(B:MING BY BEAMS)」とは別注も行っています。具体的には、カラーとステッチに変化を加えています。
WWD:インナーダウンという当たり前を作り、冬のワードローブの幅を広げた「モンベル」の次なる一手は?
竹山:それまでになかったモノ(インナーダウン)を作ったかもしれませんが、流行らせようとしたわけではないので、次はと聞かれると困ってしまいますね……(笑)。
われわれのモノ作りの姿勢の一つに“ライト&ファスト”というものがあります。ライトは「軽量&コンパクト」、ファストには「素早い行動」の意味があります。全てのプロダクトをライトにして、それを使うことによって素早い行動が可能になる。それが安全につながる、という考え方です。
もう一つが“ファンクション・イズ・ビューティ”。これはモンベルアメリカ・インクを設立した際、機能美をどう表現しようかと思案し、形にしたものです。美を求めるためのデザインではなく、機能を求めてアプローチする。結果として、そこには美が宿り、機能美が生まれるというものです。
これからもアウトドアーズマンのニーズに耳を傾け、“必要なモノ”を作り続けたいですね。