毎朝、身支度をする時間にどんな音楽を聴くかは自分にとって重要なことで、天気はもちろんですが、アグレッシブに行きたい日か、冷静さを取り戻したい日かなど気分に馴染む音楽を、YouTubeをサーフィンしながら探して選びます。
「最近いそがしい日が続いて、心も肌もガサガサしているな」という時に選び、無理矢理でも自信を持ちたい時に見るのが、「シャネル(CHANEL)」の主に「No.5」のキャンペーン・ムービーや、公式ページで公開している“インサイドシャネル”という「シャネル」の歴史や物づくりを伝える動画集です。「No.5」の中でも特に好きなのが、数年前に公開されたジゼル・ブンチェン(Gisele Bundchen)がサーフィンをするシーンから始まるシリーズ。自然と都会の2つを舞台にジゼルが恋する女性と母の顔の2つの顔を演じています。ジゼルに自分を重ねるほど図々しくはありませんが、音楽効果もあり背筋が伸びて、“ガサガサしていないで自分もきれいでいる努力をちゃんとしよう”と思わせてくれるのです。
「シャネル」というブランドが扱うモノは服であり靴やバッグやジュエリーであり化粧品や香水でありますが、こういった女性の中の何かを呼び覚ますメッセージを一緒に届け続けているから高いステータスを保ち続けているのだと思います。
それらのメッセージの“原液”のような存在がオートクチュールです。羽根や刺しゅうといったアトリエの力を集結して、時間をかけて作るオートクチュールは、夢見る極上のドレスやツイードのスーツはもちろんですが、時には、正直言うと“突拍子もない”と驚く実験的な服の形も登場します。「決して後ろは振り返らない」と公言するカール・ラガーフェルド(Karl Lagerfeld)にとって、オートクチュールはラボラトリーとしての役割を果たしているのだと思います。
前置きが長くなりましたが、2018年春夏のオートクチュールにも、ユニークなシルエットの服が登場しました。その時々の「シャネル」の、そしてカール・ラガーフェルドの方向性を知るには“ツイードをどう扱うか”を見ればわかります。ショーの冒頭はたいがいツイードのシリーズであり、アイコニックな素材をどう料理するかでシーズンの方向性がわかるからです。
今季は肩から袖にかけての形が特徴的でした。丸くボリュームのある肩のラインと、着物のような袖やラグランスリーブはパワフルですがいわゆるパワーショルダーとは異なるまろやかさも備えています。ボリュームのあるトップスに対してボトムスにもボリュームを持たせ、さらに頭のてっぺんに花飾りを載せています。ファーストルックが登場した時は、その独特のバランスを単純に美しいとは受け止められず首をかしげたのですが、何ルックも繰り返し見るうちに目に馴染んできて、フィナーレではそれが当たり前の感覚になるのです。これがカールのマジックなのでしょう。ファッションが先に進む時、そこには最初必ずといっていいほど小さな違和感を覚えるものですが、「シャネル」のオートクチュールで見るのもまさにそれです。
フランスの庭園を再現した会場は真冬にもかかわらずバラの花が咲き乱れ、春の様相。刺もあるバラは本物だと疑わずに香りを嗅いでみたらイミテーションでした。鼻先を近づけるまでまったく気づかない完璧な再現です。そしてショーの後、上空からショーを撮影した動画を見て、公園の全景の形がジャケットと同じラウンドシェイプであったことに気づきました。服だけではなく会場の隅々にまで徹底する美意識に驚きます。
このカールのクリエイションはビューティーを含む数多くのアイテムはもちろん「シャネル」が力を入れているインスタグラムといったデジタルコンテンツなどの原液となるわけです。このデジタルコンテンツに関しては、「シャネル」の若いスタッフたちも活躍しているということを今回の取材で知りましたがその話はまた今度。