「ラフ・シモンズ(RAF SIMONS)」が、禁断のドラッグに手を染めた。
と言っても、2018-19年秋冬メンズ・コレクションの話だ。
多感で繊細、でも時に大胆なユース、若者の文化に傾倒し続けてきたラフは、ついに多感であるからこそ興味があり、禁断であるからこそ正直魅了されてしまうドラッグと向き合った。
コレクションは、クスリに手を染めてしまった若者が陶酔しているかのように、万物が倒錯する。オーバーサイズのクラシカルなコートと合わせたのは、首から垂れ下がったニットウエアとフェティッシュなラバーのロンググローブ。ニットウエアは頭から被ったものの袖に手を通さず前に垂らしたようなコーディネート。一見するとディナーナプキンのようで貴族的だが、袖にさえ手を通せないほど酩酊しているかのようなダークサイドも表現する。シルエットも常軌を逸したアシンメトリーだ。上半身だけですでに過去と現在、そして未来、ラグジュアリーとデカダン(退廃的)が複雑怪奇に倒錯している。
下半身に目を移すと、パンツを彩ったパッチワークには“LSD”や“XTC”など、ドラッグの略語のアルファベット。足元は、不自然に大きなラバーのレインブーツだ。こんな姿で山盛りのフルーツ、倒れたワイングラス、薄気味悪い真っ青のゼリー、そしてチョコレートソースがベタベタにかかったベルギーワッフルなどが雑然と並ぶランウエイを、あてもなさそうに歩くモデルたちは、まさにジャンキーのようだ。
このコレクションを好きになれるか、それとも猛烈な嫌悪感を示すかは、人によって分かれることだろう。しかしラフが、引き続き人間のダークサイド、特に今回は法にも触れる暗黒を描いた点は、評価したい。前回の「カルバン・クライン(CALVIN KLEIN)」でも話していたが、ラフは「ダークサイドもあって初めて人間」と真理を唱える。そして、そのダークサイドに果敢に踏み込むのは、デザイナー数多しと言えど、ラフ・シモンズくらいだ。
今シーズンは、コレクションの売り上げの一部を麻薬中毒者の更生を支援する施設への募金に充てる。