時計のカスタマイズを生業とし、2017年にはLVMHモエ ヘネシー・ルイ ヴィトン(LVMH MOET HENNESSY LOUIS VUITTON以下、LVMH)傘下、「ゼニス(ZENITH)」「タグ・ホイヤー(TAG HEUER)」「ブルガリ(BVLGARI)」の公式カスタマイザーとして発表された「バンフォード ウォッチ デパートメント(BAMFORD WATCH DEPARTMENT以下、バンフォード)」。その「バンフォード」と藤原ヒロシが手掛ける「フラグメント デザイン(FRAGMENT DESIGN)」がコラボレーションした「ゼニス」の時計がドーバー ストリート マーケット(DOVER STREET MARKET)の銀座店、ロンドン店、ニューヨーク店、シンガポール店の4店舗で発売された。今回発売した時計は、「ゼニス」の名作“エル プリメロ(EL PRIMERO)”をベースにした非常にシンプルなデザイン。「シンプルだからこそ、ディテールへのこだわりが必要」と語る同コラボの仕掛け人、ジョージ・バンフォード(George Bamford)の考える「シンプル・イズ・ベスト」論に迫る。
WWD:時計のカスタマイズを始めたのはいつ頃?
ジョージ・バンフォード(以下、バンフォード):14年ほど前のことだ。もともと時計が好きで、アンティーク時計を買ってきては改造していた。改造していくうちにどんどん面白くなってきて、「ここをこうしたらいいのでは」など、アイデアや活力が生まれるようになっていった。
WWD:今回のコラボの経緯は?
バンフォード:ドーバー ストリート マーケット ロンドンのディコン ボーデン(Dickon Bowden)副社長の連絡がきっかけだ。彼は私と藤原ヒロシが友人であることを知っていた。それで17年にLVMHの公式カスタマイザーの発表があった時に「ヒロシとコラボしよう」と連絡があり実現した。
WWD:数ある時計の中で、なぜ「ゼニス」の時計をカスタマイズしたのか?
バンフォード:いくつか選択肢があったが、「ゼニス」の“エル プリメロ”はスポーツらしさを感じる。さらに1964年に開発された歴史あるムーブメントが搭載されており、魅力的に感じたからだ。
WWD:今回発売された時計の特徴、気に入っている点は?
バンフォード:内部の構造は非常に複雑でありながら、外見はいたってシンプルなところだ。マットブラックのダイヤルやサブダイヤルの目盛りの幅・長さなどをヒロシとお互いにやり取りしながらデザインしていった。シンプルで、中央に要素を寄せたデザインのため、ディテールにこだわる必要があった。「シンプルであることも難しい」と感じたが、結果としてパッと見て迫力があるデザインに仕上がったと感じている。正直、売らないで私が盗みたいぐらいだ(笑)。
WWD:販売店舗であるドーバー ストリート マーケットについてはどう思う?
バンフォード:大好きだ。これは神に誓って言える(笑)。例えばシンガポール店は1フロア構成で銀座店とは雰囲気が異なるが、やはり「ドーバーに来たな」と感じる。バイブスだったりフィーリングだったりが同じなのだろう。
WWD:カスタマイズすることで、時計にどういった価値が生まれると思う?
バンフォード:やはり個性だろう。道行く人のファッションスタイルを見ても、みなそれぞれに自分のスタイルを持っている。時計も同じく、それぞれのスタイルがあってもいいはずだ。今回発売した「ゼニス」の時計も、値段は140万円と通常のものよりも高くなっているが、それでも買う人がいるのは個性を求めているからだと思っている。
WWD:藤原ヒロシはどういう存在か?
バンフォード:彼のデザイン哲学は非常に尊敬している。そんな彼を今、友人と呼べることは光栄なこと。彼と一緒にいることで常にデザインのインスピレーションを得ることができている。
WWD:藤原ヒロシとのコラボレーションを通じて学んだことはある?
バンフォード:シンプルを突き詰めることで生まれる美を学んだ。恐らくヒロシの持つシンプルな美学から影響を受けたのだろう。他の時計をカスタマイズする中でもお客さまとの対話から毎回学びがあるが、今回学んだ「シンプルの中にある美」は今まで学んでこなかった。
WWD:カスタマイズではなく、自分自身でデザインした商品を発売したいと思ったことは?
バンフォード:いずれはやっていきたい。ただ、17年にLVMHの公式カスタマイザーになったばかりなので、今はカスタマイズに集中しようと思っている。
WWD:時計のカスタマイズ以外に、今後新たにやってみたいことはあるか?
バンフォード:実はヘッドフォンのカスタマイズや、「フェンディ(FENDI)」とのコラボなど、既に2、3のプロジェクトが進行中だ。今年はさらに2つのプロジェクトを発表できると思う。楽しみにしていて欲しい。