AOKIが4月30日、スーツとシャツ、ネクタイをセットにした定額のレンタルサービス「suitsbox」を開始する。レンタルサービスという同社初の新たな試みの背景には、社内の若手社員で構成されたプロジェクトチームがクラウドファンディングを実施して事業化したという意外な事実がある。「もっとスーツを楽しんでほしい」という思いから生まれた新事業の成り立ちについて、35歳で事業を統括する永沼大輔AOKI suitsbox事業部 事業責任者に聞いた。
WWD:まず、「suitsbox」プロジェクト立ち上げの経緯を教えていただけますか。
永沼大輔AOKI suitsbox事業部 事業責任者(以下、永沼):構想は2017年2月頃からあって、若手メンバーを選んで新しいプロジェクトをしないかと中村(宏明AOKI社長)から直接声をかけてもらいまして。キーワードとしてはファッションの枠の中で、デジタルだったり若手だったり、いろいろとあったんですが、当社が60周年を迎えることもあり、継続できるビジネスを、というところで20代の社員と外部のコンサルタントの方に打診をし、アイデア出しをはじめました。まずは、紳士服店で買い物をしたことがない20〜30代の男性10人くらいにインタビューをしたり、自宅を訪れて生活環境を調べたりしました。
WWD:なぜレンタルサービスでいこうと?
永沼:たくさんのアイデアを出す中で、レンタルというアイデアは3月くらいからありました。ターゲットユーザーの話を聞いていた時に、今の若者はモノの所有ではなく使用に価値を見出しているんだと感じたんです。それは話を聞いた方のほとんどが車を持っていなかったことだったり、彼らの自宅は駅近で狭いのにモノにあふれていたり。じゃあ、買う以外のスーツの選択肢というのを考えた時の1つがレンタルでした。しかも1回借りてやめるのではなく、サブスクリプション(定額サービス)がいいのではないかと。
WWD:アイデアが固まった後、なぜすぐにクラウドファンディングを?
永沼:そうして最終的にアイデアが固まったのは8月で、社内で発表、合意をとれたんですが、宿題として、本当にニーズがあるのか、というのことを言われました。それをどうやって調べようと考えた結果、クラウドファンディングでテスト的にユーザーを集めることにしました。「マクアケ(Makuake)」を運営するサイバーエージェントとも話して、スタートアップ企業だけでなく、大企業がトライをすることをあると聞きまして。
WWD:つまり、ニーズがあるかどうか、テストマーケティングという意味でのクラウドファンディングだったんですか?
永沼:そうですね。目標金額は100万円でしたが、思っていた以上に早く到達しまして。 担当の方から「初日が大事です。初日で半分いけば勝ったも同然です」と教えてもらったんですが、結果的には3日で達成できました。これをきっかけにメディアやSNSなどでも反響を呼び、プロジェクト終了の10月までには223万6000円が集まりました。
WWD:いよいよニーズも見えてきたと。その後は事業化まっしぐらですか?
永沼:そこからローンチまでの日程でビジネスプランを形にしなけばならないんですね。そこでまず、物流なんです。これまでのビジネスでは売って終わりだったので、商品が返ってきてそれを回すというノウハウがありませんでした。そこで寺田倉庫にコンサルタントのような立場でサブスクリプションのことをいろいろと教えてもらいました。2つ目に商品です。既存の商品を使うにしてもただ商品をお渡しするだけでは面白くないと。そこでファッションブロガーのMBさんに協力を依頼し、スタイリングなどのアプローチ方法に関して相談をしました。MBさんはロジカルに物事を考える方で、非常に話がしやすかったですね。そして、3つ目がシステム。ウェブ専売で商品の選定だったり、サイトのフロント部分だったり、物流とのつなぎこみだったりが必要だったので、まさにいまも開発を進めているところです。最後にPRということを考えましたが、今年はまずは認知度を上げるといった土台作りが大事だと思ったので、まずは下積みをして、2年目以降PRを強化しようと考えています。
WWD:なるほど。あらためて、出来上がった商品サイクルについて教えてください。
永沼:物流は既存の倉庫を使っているので、サービスに関わるのは寺田倉庫とクリーニングのホワイト急便、配送の佐川急便、あとは裾上げなどを担う補正屋さんです。具体的には、顧客から注文を受けて、スタイリストが決めた商品を物流倉庫からピックして送ります。1カ月使って戻してもらうと、倉庫で検品をして、クリーニングに出します。汚れの状態によって適したクリーニングの方法に変えようと思っています。そしてクリーニングから戻ってきたものを倉庫で再度検品し、裾をほどいて貸し出す前の状態にして、倉庫に格納するという流れです。この流れの中で検品は2回やるべきだとか、そういったサポートを寺田倉庫メーンで考えていただきましたね。
WWD:ちなみに、何度もレンタルした商品はどうする予定ですか?
永沼:裾上げを30回くらいやったり、テストはいろいろとやっています。もちろん、使っていくうちに検品に引っかかったものは破棄する予定ではあります。ある程度、こうした基準を設けていこうと思っています。
WWD:一度使った商品を中古販売するようなことはありますか。
永沼:考えはありますが、今は具体的ではないですね。
WWD:4月末のローンチを前に、現状はどんなステイタスですか。
永沼:ちょうどローンチに間に合うくらいのスケジュールで進行中です。まだまだ、油断はできませんね(笑)。システムも進行中だし、物流についてはまだ入荷できていないものもあって、商品だけは先行して秋冬に向けた準備をしているところです。
綺麗でトレンドのあるスーツが届くことで、生活サイクルが変わるWWD:事業化にあたって、意識したサービスはありますか?
永沼:たとえばメンズレンタルの「リープ(leeap)」は実際に利用しましたし、企業研究としては(ストライプインターナショナルの)「メチャカリ(MECHAKARI)」だったり「メルカリ(MERCARI)」だったり、すごいなと思って、勉強をしています。競合意識よりかは、仲間として一緒に頑張っていこう、という認識です。
WWD:サービスのターゲットは?
永沼:“ファッション非エリート”で、大都市圏にいる25〜35歳のある程度年収を持った男性です。コスパ重視ではなく、そこそこの生活水準の方。ただ、クラウドファンディングでは、想定と違ってファッションが好きな人だったり年齢層も高い人が多かったので、実際にローンチしてみて、顧客層を見極めたいと思います。
WWD:サービスの特徴はどこにありますか。
永沼:商品構成です。ちょっと違うものを出さないと価値を感じてもらえないな、と感じていました。試験運用をしていると、ふだん着ないようなものを貸し出したユーザーの方が喜ばれたんですね。ベーシックなものを貸し出してみると、「いつもと変わらない」という意見で。なので、マスではない商品を多めに用意しました。また、「suitsbox」は平日週5日間のサービスだと思っています。だから、週末に返却してもらって新しい洋服を送っていたのでは、翌週の仕事に間に合わないんですね。そこで、アドバンスドコースでは返却ボタンを押すだけで先に次の洋服が届くような“先出しプラン”を考えています。意外とこれが、これまでなかったんですよ。
WWD:シャツは自分で洗って使わないと回せないですよね?
永沼:もちろん、シャツは自宅で洗ってもらってもかまいません。洗うのが面倒だと考える方には、シャツ使い放題のオプションプランを考えています。
WWD:使用する商品は既存アイテムですか。
永沼:スタート時は既存商品を使いますが、今後は商品企画も検討しています。
WWD:届ける商品の選定はどのように行うのですか。
永沼:会員登録の際、顧客にサイズなど個人の情報に加えて、色などの嗜好を確認します。その後、人の力とロジックを掛け合わせて送る商品を選ぼうと思っています。
WWD:今後の目標を教えてください。
永沼:今後3年でユーザー数1万人を目指したいです。数値でないところでいえば、きれいでトレンドのあるスーツが届くことで、生活サイクルが変わるようなことを夢見ています。例えば、結婚しましたとか、仕事が上手くいきましたとか、そんなことがあれば僕にとっては小さなガッツポーズポイントですね(笑)。ビジネスウエアというのは通常相手を意識したもので、制限もあるものですよね。だから、そうした場所から少し離れたところで、自分を楽しんでほしいなと願います。