ファッション

デジタル世代の新たなビジネスモデル 2人の若手起業家が語るビジョン

 デジタル化が進み、企業の在り方や個々の働き方は変化し続けている。AI(人工知能)やロボットの普及が人間から多くの仕事を奪うとネガティブに語られることもあるが、これまでになかった職種を生み出したり、不可能を可能にすることができるのも、テクノロジーのポジティブな側面であるはずだ。ファッション業界にも、デジタルを利用して新たなビジネスモデルを築く企業がある。4月18、19日にポルトガルの首都リスボンで開催された、米コンデナスト(CONDENAST)主催のカンファレンスに、2人の若手起業家が登壇し、デジタルを利用した新たなプラットフォームと、彼らのビジョンを語った。

「NOT JUST A LABEL」

 ロンドンにオフィスを構える「ノット ジャスト ア レーベル」は、世界中から才能ある若手デザイナーやクリエイターを見つけ出してサポートする、オンライン上のショールームのような役割を担う。立ち上げから10年経ち、現在約100カ国の約2万ブランドを抱えている。地理的な制限なしにクリエイターを抱えるグローバルプラットフォームとして急成長し、各国で見本市出展、期間限定店、イベントなどを開催している。日本からは「ドレスドアンドレスド(DRESSEDUNDRESSED)」「オオタ(OHTA)」「タクター(TACTOR)」などが参加している。デザイナーに関する記事、コラム、コレクション販売を行うサイトは月間2500万以上のPV数を誇る。

 創業者のステファン・シーゲル(Stefan Siegel)は、「ノット ジャスト ア レーベル」の最大の魅力は、消費者が直接デザイナーに連絡を入れて注文することを可能にした販売モデルだという。デザイナーの同意によって7対3の利益を分配することで、彼らの創作活動をサポートしながら、余分な製造と在庫をなくし、工業用衣類製造の環境への影響を大幅に軽減する目的もある。シーゲルは「消費を減速させ、マイクロファイバーによる海洋汚染を止め、社会を尊重する必要がある。現在の業界構造の裏には、10歳未満の子ども1000万人が児童労働を強いられている現実があるのだから」と訴えかけた。「既存のシステムに逆らい、根気強く続けることで、次世代に良い社会をつないでいけるようにしたい」と自身のビジョンを語った。

「AWAYTOMARS」

 ポルトガル出身でロンドンを拠点にするアルフレッド・オロビオ(Alfredo Orobio)が2015年に立ち上げた、共同創作を目的としたオンラインプラットフォームが「アウェイトマーズ」だ。同サイトに登録すると、誰もが自由にスケッチ画やコレクションアイデアを披露したり、閲覧したりすることができる。クリエイションに賛同した人は自身のアイデアを共有し、オンライン上で直接コンタクトを取り合い、創作プロセスへと進むことができる。実際にコレクションを制作し、クラウドファンディングで資金を募ることができれば、「アウェイトマーズ」が抱える製造会社が生産を行い、自社サイトで販売を行うといった仕組みだ。無駄な生産をなくすために、卸しは行っていない。

 16年3月から毎シーズン、登録者との協業でリスボン・ファッション・ウイークでコレクションを発表し、現在約90カ国1万人のクリエイターが参加するコミュニティーへと成長している。2018年春夏コレクションはブラジル生まれのシューズブランド「メリッサ(MELISSA)」とのコラボレーションを果たした。「異なるバックグラウンド、経験、思考を持った人々によって起こる化学反応で、思いがけないクリエイションが生まれる。オンラインによって、創造性の制限をなくすことができる」と共同創作の魅力についてオロビオは語る。「上に立つデザイナーだけがスポットライトを浴びる一人勝ちではなく、共創によってコミュニティー全体が成長し、持続可能な生産を可能にすることこそが、ファッション業界の次なる革新だと信じている。インターネットの普及によって、時間や国境を越えてアイデアを共有することが容易になった現代、クリエイションは次なるステージへと進んでいる」。

 時代の流れを捉え、変化に機敏に対応し、変革にチャレンジする新世代の彼らの姿勢に会場からは大きな拍手が送られた。先が読めない時代ではあるが、デジタル化は着実に進むし、またそれは業界構造を変える力になることは確かだと感じた。

ELIE INOUE:パリ在住ジャーナリスト。大学卒業後、ニューヨークに渡りファッションジャーナリスト、コーディネーターとして経験を積む。2016年からパリに拠点を移し、各都市のコレクション取材やデザイナーのインタビュー、ファッションやライフスタイルの取材、執筆を手掛ける

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