かつては「ギャル男の聖地」として名をはせていた渋谷109メンズ館。ギャル男ブームも去った後、外国人旅行客の取り込みを目指し「マグネット バイ 渋谷109(MAGNET BY SHIBUYA109)」と名称を変え2018年、全面リニューアルし新たな109メンズ館が誕生した。同館に入る「ヴァンキッシュ(VANQUISH)」で働く柏木龍さんは、元「メンズエッグ(men's egg)」のモデルとしてギャル男カルチャーの最前線に立っていた。ファッション週刊紙「WWDジャパン」6月25日号販売員特集で紹介した販売員の中から、柏木龍さんのインタビューの詳細をお届け。ギャル男ブーム全盛時代の接客から今の接客までの変遷を柏木さんと共にたどる。
WWD:販売員を志したきっかけは?
柏木:元々はモデルに憧れていたのですが、自分が好きなブランドの販売員になればそこの洋服も着ることができるし、若者のカルチャーの最前線に立つことができると思ったからです。
WWD:働くブランドとして「ヴァンキッシュ」を選んだ理由は?
柏木:2005、6年当時ギャル男のカルチャーの中では「ヴァンキッシュ」とその運営会社であるせーのの認知度がすごく高かったんですよね。僕自身よく足を運んでいましたし。そのタイミングでせーのが「レジェンダ(LEGENDA)」というブランドの新店のオープニングスタッフを募集していると聞いて。即応募したら受かりました。「メンズエッグ」のモデルもしながら「レジェンダ」のスタッフとして働き、4年後に渋谷109メンズ館(当時)の「ヴァンキッシュ」の店長になりました。
WWD:なぜ、ギャル男モデルになろうと思ったのか?
柏木:秋田から上京してきた時にギャル男というものを知ったんですが、当時はそれがモテると思ったんですよね。最初はスナップを撮られたいがために渋谷、原宿をよく徘徊していました(笑)。そこから声がかかってモデルになったという感じですね。
WWD:実際にモテた?
柏木:しっかりとモテました(笑)。“お兄系”とかがブームだったころは、「メンズエッグ」のモデルってすごくて。店頭に立ってもファンの人が店舗に押し寄せるので接客があまりできなかったこともありました。
WWD:当時は接客しなくても商品が売れた?
柏木:そうですね。みんな買いたいものがはっきりと決まっているんですよ。「あの雑誌に出てたこのモデルさんが着ている服がとにかく欲しい!」みたいな。なので商品の提案などは必要なくて、アテンドするだけで十分でした。お客さんの方が圧倒的に“強い”、といった感じでしたね。
WWD:来店客の様子は今は全然違う?
柏木:全く違います。今は海外旅行者を含め、回遊客が多いので、欲しいものがはっきりと定まっていない人がほとんどです。そのためアテンドだけでは不十分で、しっかりとオペレーションをしてあげないといけない。
WWD:そういった中で接客で心がけていることは?
柏木:「いらっしゃいませ」「ご試着もできます」といったよくあるものとは違うようなお声がけは常に心がけています。あとはお客さんを見て判断しますが、基本的には対等にフランクに接することを意識しています。お客さんとの会話では絶対に疑問形で入りますね。「どこから来たんですか?」といった質問から、「普段どんな音楽を聴いているんですか?」「SNSではどんなヒトやモノをチェックしているんですか?」といったところまで聞くことが多いです。そこからお客さんに合う服を考えて提案していきます。
店内に置かれている“忠犬パチ公”。海外客も多い同店舗では何かとネタになり、来店者との会話が弾むという
WWD:その接客スタイルを確立したのはいつ頃?
柏木:店長になった際にうちの会社の石川(涼・代表)に視察としてパリに連れて行ったもらったことが大きいですね。コレット(COLETTE)をはじめ、現地のセレクトショップで受けた接客がすごく新鮮でした。急に肩をガッとつかまれたり、歌を歌いながらこっちに近づいてきたりしたんですよ。日本ではありえない接客なので最初は面食らいましたが、そのフランクさを日本で実践してみようと考え、今の自分の接客に至っています。日本人のお客さんの肩を急につかんだりはしませんが(笑)、海外の方にはハグやハイタッチなんかはよくやりますし、喜んでくれますね。
WWD:店長になってから意識は変わった?
柏木:ガラッと変わったことはあまりありませんが、視野をもっと広く持とうと思うようになりました。マネジメントを任されるようになったことが大きかったのかもしれません。最近は他のショップに足を運んでどういった接客やマネジメントがされているのか、リサーチをしています。
WWD:今後の目標は?
柏木:「ヴァンキッシュ」のデザイナーになることです。海外のお客さんに接するようになって改めて感じましたが、「ヴァンキッシュ」は海外での認知度も高く、世界に出ていけるブランドだと思っています。そのためにも店長の後は、マネジャー、そしてデザイナーとステップアップし、ブランドを世界に広めていきたいです。