いま、イギリス・サウスロンドンの地で起きている音楽シーンの興隆を見逃すことはできない。ロックバンドのシェイム(Shame)やHMLTD、シンガー・ソングライターのトム・ミッシュ(Tom Misch)にレックス・オレンジ・カウンティ(Rex Orange County)、キング・クルール(King Krule)、ジェイミー・アイザック(Jamie Isaac)、コスモ・パイク(Cosmo Pyke)、サンファ(Sampha)、ラッパーのロイル・カーナー(Loyle Carner)ら、サウスロンドンからシーンを盛り上げているミュージシャンは数知れず。ガールズバンド、ゴート・ガール(GOAT GIRL)もそのうちの1組だ。
ゴート・ガールは、クロティ・クリーム(Clottie Cream)、ロージー・ボーンズ(Rosy Bones)、ネイマ・ジェリー(Naima Jelly)、L.E.Dの女性4人で構成された平均年齢約20歳のバンドで、今年4月にデビューアルバム「Goat Girl」をリリースしたばかり。いわば「平成生まれ」の彼女たちは音楽のストリーミング配信サービスが当たり前の世代だからこそ“生の音”にこだわり、テープを使ったレコーディングによるローファイでけだるいサウンドが特徴だ。また、4人それぞれがポップからジャズ、エレクトロニック、クラシックまで異なった音楽偏好を持ち、ヒップホップでいうサンプリング的手法で楽曲を制作していることからも「ゴート・ガールらしさ」と「ロンドンらしさ」が感じられる。
イントロからの入りが印象的な2ndシングル「Crow Cries」
初来日のタイミングで、オシャレが好きだと話すギターボーカルのクロティとドラムのロージーに、ローファイなサウンドへのこだわりや、政治的メッセージを歌う理由などについて話を聞いた。
WWD:初来日だそうですが、日本はどうですか?
クロティ:初めてだから、日本のイメージが強いお寿司を食べたんだけど……刺身はちょっと怖くて食べられなかったわ。やっぱりカリフォルニアロールが好きね(笑)。
WWD:日本だとそれはお寿司とは言い難いです(笑)。それでは、直訳すると「山羊少女」のバンド名に込めた思いやエピソードがあれば教えてください。
クロティ:私たち4人は、みんな1990年代の米コメディアンのビル・ヒックス(Bill Hicks)のファンで、彼の皮肉で毒の効いた芸風が好きなの。私たちの歌詞と彼の芸風には通ずるところがあって、彼の作品の「Goatboy」をマネて名付けたわ。
バンド名のきっかけとなったビル・ヒックスの「Goatboy」
WWD:ゴート・ガール以前、何らかの音楽活動はしていましたか?
ロージー:クロティ、ネイマ、L.E.Dの3人は15歳頃からゴート・ガールの前身バンドを組んでいて、私は17歳の時に後から加入したの。それまでは学校の友達とバンドを組んだり、歌詞を書いたりしていたわ。
WWD:デビューアルバム「Goat Girl」をリリースして、反響はどうですか?
クロティ:ポジティブなものが多いかな。これまでもユーチューブなどに音楽をあげていたけど、アルバムをリリースしたことで、それを聴いてライブに来てくれる人がとても増えたからね。シンガロング(アーティストと観客が一緒に曲を歌うこと)できる歌も増えたし、すごくいい感じよ。
WWD:「Goat Girl」は全22曲ながらとても聴きやすく、サンプリング的にいろいろな音楽を混ぜ合わせていたり、歌詞も政治家のセクハラ問題に触れていたりと刺激的な印象を受けました。
クロティ:そう言われるとうれしい!(笑)。シングルを寄せ集めたようなアルバムにはしたくなくて、1曲のように聴けるアルバムにしたかったから、曲順もレコーディングも納得いくまでやったの。
楽曲はサンプリングとまではいかないけど、メンバーそれぞれが偏好するジャンルの曲からいろいろアイデアを持ってきて、それを参考にしつつ、直感的に自由にいろいろやった結果生まれた感じ。ただ、いろいろなアイデアを持ってきているからこそ、ダラダラと長ったらしく変に長い曲にならないようにしたわ。長い曲だとお客さんも自分たちも飽きて、退屈してしまうからね。
クロティの元彼を歌った代表曲「The Man」。MVは、ザ・ビートルズなどアイドル扱いされた男性ロックバンドを皮肉った内容に
歌詞は私の実体験だったり、ビル・ヒックスら皮肉の効いたコメディアンや社会問題、自分たちが置かれているミソジニー(女性蔑視)の環境を歌っているの。自分を取り巻く状況について“声に出して歌う”のが大切だと思っていて、歌詞には力があって女性のパワーを表現できるからね。影響を受けているのは、ビル・ヒックスはもちろん、イギリスのTV番組「BRASS EYE」(全6回しか放送がなかった風刺番組)やクリス・モリス(Chris Morris、同番組の脚本家)。歌詞に注目すると、他にもいろいろなことが隠れているのをわかってもらえると思うわ。
WWD:テープでのレコーディングなどローファイなサウンドにこだわっていますが、皆さんはその時代には生まれていませんよね?
クロティ:シンプルであることが私たちなの。新しい機材を使っちゃうと編集もいくらでもできるし、いろいろと手を加えていくうちに、目には見えない耳では聞こえないなにかよかったモノがなくなってしまうような気がして。だから機材をわざわざ新しいものにする必要もないかなって。そうすることで緊張感や、人間らしいローファイな音が生まれるんだと思うの。音をそのまま活かした人間臭さっていまはすごく大事だと思わない?
WWD:いまのメーンストリームであるヒップホップやR&Bといったブラックミュージックとの違いから、やりづらさなどは感じますか?
クロティ:確かに流行りの音楽ではないけど、やりづらさは感じない。“いまのメーンストリーム”とは違うけど、私たちが幼い頃はリアーナ(Rihanna)やブリトニー・スピアーズ(Britney Spears)、グウェン・ステファニー(Gwen Stefani)たちのポップミュージックがメーンストリームで、それに影響を受けていた。彼女たちはパワフルな女性で、自分たちも女性。彼女たちが世の中に発信していたメッセージ的な役割を私たちも果たせるし、表現できると思っている。だからやりづらさとかの感覚はないかな。
WWD:個人的に次のメーンストリームはサウスロンドンかなと思っています。シェイムやトム・ミッシュらと交流はありますか?
クロティ:シェイムはバンド結成当初からよく一緒にライブしてたわ!トム・ミッシュは、妹のローラ・ミッシュ(Laura Misch)のことだったらよく知ってるかな。彼女はフルートとボーカルを一緒にやっていて、とても面白いミュージシャンよ。
トム・ミッシュとローラ・ミッシュによる「Follow」
WWD:サウスロンドン以外で生まれていたとしても音楽はやっていたでしょうか?
ロージー:やっていると思うわ。ロンドンに住んでいるからロンドンっぽい音楽だと思われるかもしれないけど、私たちが表現しようとしているのはロンドンっぽさではないからね。ただ私たちらしさが、周りからしたら結果的にロンドンっぽいって思われてるだけなの(笑)。