2010年にデビューしたロサンゼルス発のデニムブランド「マザー(MOTHER)」は、現在100カ国以上で販売され、日本では15年にサザビーリーグと独占販売契約を結んでいる。同社によると「売り上げは毎年20%以上ずつ伸びている」という。モデルのミランダ・カー(Miranda Kerr)やフレーヤ・ベハ・エリクセン(Freja Beha Erichsen)など、ファッションアイコンと協業する“コラボレーションコレクション”も展開するが、今回は「オーセンティック」と自己評価するモノ作りについて、また変化するデニム市場への対応策とサステイナビリティーについて、10年ぶりに来日したティム・カーディング(Tim Kaeding)共同創業者兼デザイナーに聞いた。
WWD:デニムにこだわる理由は?
ティム・カーディング「マザー」共同創業者兼デザイナー(以下、カーディング):はく人をスリムに見せられたり、脚を長く見せられたり、デニムはマジカルな魅力を持つ素材だからだ。
WWD:お気に入りの生地はある?
カーディング:イタリアのカンディアーニ・デニム(CANDIANI DENIM)の生地は20年以上前(「マザー」を始める前)から使っている。何千という生地を見てきたが、私が考える味(特徴)を表現するのに適している。
WWD:日本のデニム生地を使うこともあるのか?
カーディング:カイハラの生地を使っている。デニムに関わる者として、とても光栄だ。日本のデニムの魅力は、ずばり色。まさに唯一無二で、他国のデニムは洗えば洗うほどグレーイッシュになってしまうが、日本の生地は生命を持っているように青が深まる。他にもトルコなど世界中の生地を使っており、「マザー」のデニムコレクションに広がりを持たせている。
WWD:「マザー」の全コレクションにおけるデニムウエアの割合は?
カーディング:7~8割だ。もともとデニムウエアのみを製作していたが、Tシャツをきっかけにスエットやカーゴパンツなどを次第に増やしていった。
WWD:ウィメンズとメンズの割合についても教えてほしい。
カーディング:9割以上がウィメンズだ。メンズラインは2018年春夏にスタートしたばかりで、まずはアメリカ本国のロンハーマン(RON HERMAN)とECサイトで販売した。18-19年秋冬からは、日本のRHC ロンハーマン(RHC RON HERMAN)をはじめ欧州やカナダなどでも展開する。
デニムクリエーターとしてビジネスに向き合う
WWD:あなたはクリエイティブ・ディレクターとして「セブン フォー オール マンカインド(7 For All Mankind)」を率いてプレミアムジーンズブームをけん引した。デニムビジネスを長く続けるための秘訣は?
カーディング:カリフォルニアの多くのプレミアムジーンズブランドはリーマン・ショック以前に誕生したが、リーマン・ショック以降もビジネスやクリエーションのスタイルを変えなかった。しかしデニムとファッションの関係、そしてSNSを含めてそれらを売る環境は激変した。それに対応できなかった者が淘汰された。
WWD:生き残るために「マザー」が行っていることは?
カーディング:ストーリーを伝えることだ。2019年春夏のファーストデリバリーは「80年代のハードロック」をテーマにしている。メタルバンド風のデザインだったり、タイトフィットだったり、炎をモチーフにしたディテールだったり、今季にかかわらず直感的に感じたことを表現している。ユーザーにビビッドに伝えるためだ。一方で、ビジネスパートナーのリラ(・ベッカー Lela Becker)からアドバイスを受けることもある。実家の引き出しにあるような鳥を刺しゅうしたセーターも彼女の助言から製作したものだ。
WWD:デニムビジネスに長く関わるあなたに、どうしても聞きたいことがある。「WWDジャパン」8月6日・13日合併号では“サステイナブルでなければデニムは生き残れない!”と題してデニムを特集した。「マザー」はこの問題について、どう考える?
カーディング:とても厳しい質問だ。もちろん「マザー」もさまざまな試みを行っているが、今はまだ自分の中で納得できていない部分があるので声高に言うことはない。
WWD:「マザー」のアイテムは99.9%ロサンゼルス製だと聞いた。
カーディング:デニムウエアについては100%だ。目の届くところで生産することで、責任を持ちたいと思っている。サステイナビリティーについて1つ言えることは、生産者・消費者を問わず、全員が同じ方向を向かなければならないということだ。水を使わないなど、生産者が“環境に優しいデニムウエア”を作ることはできる。しかしアプローチが似通うため、同質化してしまう。同時に消費者は、いくらか多くの代金を“サステイナブルなデニムウエアに”支払う必要がある。ポイントはそれを受け入れられるかどうかだが、残念なことに賢明な消費者は“退屈なデニムウエア”を許容しない。ただし、向こう10年でアップサイクルな素材や、水や化学薬品を一切使わない加工など、デニム作りは革新的に変わるはずだ。リーマン・ショックの経験を活かし、その変化にも対応していきたい。