ネット専売のオーダーシャツブランド「ケイ(KEI)」がこの夏好調だ。2016年10月にクラウドファンド「マクアケ(MAKUAKE)」を利用してスタートしたブランドで、生産に関わる中間コストを排除したいわゆるD2C(Direct to Consumer)の仕組みにより4980円からオーダーシャツを提供している。ブランドスタート時に月間1000着(単純計算で年商約6000万円)だった受注数が、この夏週800着のオーダー上限を設け、最短数時間で売り切れたこともあったという。對馬三宣(つしまみつのぶ)ケイ社長いわく、「(プライベートブランド『ゾゾ(ZOZO)』のために配布している採寸用の)“ゾゾスーツ(ZOZOSUIT)”の波及効果があった」。これは一体どういうことなのか。
「ケイ」のオーダーには自分で採寸をする“自己採寸”と身長体重などから過去のデータをもとに自動提案される“オート採寸”、それ以外に自分のシャツを郵送して採寸してもらう方法や過去のオーダーデータを共有する方法がある。“ゾゾスーツ”のデータはこの4つ目にあたるのだが、最近ではこれに限らず、他のオーダーシャツブランドや百貨店のオーダーシートをもとにしたオーダーが相次いでいるという。「ローンチから一切広告などを行わず、リピートと口コミで徐々に伸びてきたが、この夏はネット専売の他ブランドのデータ持ち込みによる注文が殺到していて、今増産体制を整えている真っ最中。近い将来月2万5000着(単純計算で年商約15億円)を目指したい。成長率でいえば現実的な数字だ」と意気込む。
たしかに「ゾゾ」ではこの夏までドレスシャツの販売をしていなかった。そのため、詳細な採寸データをもとに注文が相次いだというのは納得できる。しかし、なぜ「ゾゾ」でドレスシャツの販売が始まった今、(そもそも他オーダーシャツブランドのデータを使った)依頼が絶えないのか。「(オーダーシャツブランドの増加は)むしろいい影響が出ている。価格と品質が選ばれる理由だと自負している。製品にとにかくこだわっているので、他のオーダーシャツと着比べてほしい」と對馬社長。
たしかに「ゾゾ」のドレスシャツ(税込4900円)を除けば、シリコンバレー発の「オリジナルスティッチ」が6480円、「カシヤマ・ザ・スマートテーラー(KASHIYAMA THE SMART TAILOR)」が6900円、「ファブリックトウキョウ(FABRIC TOKYO)」が7800円、コナカのオーダースーツブランド「ディファレンス(DIFFERENCE)」でもオーダーシャツの価格は8000円。一方の「ケイ」は素材に高級コットンの新疆綿、ボタンにプラスチックボタンの5倍の価格もする貝ボタンを使って4980円〜。同価格帯の「ゾゾ」のドレスシャツはプラスチックボタンだから、それだけをとってみてもコストパフォーマンスに優れる。「『ユニクロ(UNIQLO)』の既製品シャツですら2990円だから、少し高くてもオーダーにしようという顧客は多い」という。
「創業時から、いいモノ作りをしている会社の評価を下げないよう、既存のアパレル業界にとってマイナスになることはできないと意識してきた。ブランドローンチ前には1年かけて、商品作りのために徹底的に準備した。実は一度日本で生産をしようとしたことがあるが、パターンオーダーになるとほとんど融通が効かず、悲しい思いをした。『メード・イン・ジャパン』にすることで、他企業と同じ商品になってしまうのなら意味がないと思い、ベトナムで独自生産ができるラインを整えた。現在は品質の良い生地をこちらで買い付け、パターンも自動化している」と對馬社長。
今後、さらなる売り上げ拡大のためにアイテムを広げる計画はあるのか。「例えば単価を上げる目的でスーツを始めることはないだろう。それは売り上げを上げたいという会社の意図でしかなく、僕たちが提供すべき価値ではない。ブランド名にもあるように、僕たちは『褻(ケ)』の日に着る『衣(イ)』を作っている。嗜好品に寄りすぎてもいけない。課題解決のためのブランドでありながら、ファッションだからこそかっこいい商品を作りたい」。