今、知っておくべき若手ファッション写真家は誰か――9月10日号の「WWDジャパン」では、米「WWD」が行った有識者へのアンケートを元に注目すべき写真家を作品とともに紹介した。広告ビジュアルなどを手掛けるアート・ディレクターやスタイリスト、雑誌編集長などの声を紹介したが、ここでは紙面で掲載できなかった有識者の声を紹介したい。
スクール・オブ・ビジュアルアート(School of Visual Arts)のスティーブン・フレイリー(Stephen Frailey)映像写真部門 美術学部長は、「比較的新しい写真家で影響力を持つのは、ジェイミー・ホークスワース(Jamie Hawkesworth)、ジュリア・ヘッタ(Julia Hetta)、ハーリー・ウィアー(Harley Weir)等の世代である。彼らはすでにその才能を十分認められているという声もあるが、写真界全体が自然主義に移行しつつある今のモードを代弁する作家たちであると私は思う」とコメントしている。
フレイリー美術学部長が真っ先に名前を挙げたジェイミー・ホークスワースは各国の有力誌やビッグメゾンの広告ビジュアルを数多く手掛ける売れっこ写真家で現在30歳。ジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)就任直後から「ロエベ(LOEWE)」のスタイリングを手掛けるベンジャミン・ブルーノ(Benjamin Bruno)の目に留まり、アンダーソンによる新生「ロエベ」のイメージをエムエムパリス(M/M(Paris))らとともに作った。その後、「ミュウミュウ(MIU MIU)」や「マルニ(MARNI)」「アレキサンダー マックイーン(ALEXSANDER McQUEEN)」などの広告ビジュアルを手掛けるように。
写真家になったきっかけは、大学在学中に手掛けたイングランド北西部・ランカシャー地方プレストンのバス停を行き交う人々を写すプロジェクト「プレストン・バスステーション」だ。そのプロジェクト写真集も出版されている。
フレイリー美術学部長も名前を挙げ、今回有識者から最も多く名前が挙がったのは、ハーリー・ウィアーだ。ウィアーはこれまで、「バレンシアガ(BALENCIAGA)」「セリーヌ(CELINE)」など人気ブランドの広告ビジュアルを手掛けてきた。今シーズンは「プリングル オブ スコットランド(PRINGLE OF SCOTLAND)」「A.P.C.」などを手掛けるが、実は社会派としての一面を持つ。国境紛争地帯で撮影を行ったり、また自身のインスタグラム@ harleyweirでゴミの写真をアップして、プラスチック消費に関して警鐘を鳴らしたりしている。ウィアーだけでなく、今回名前が挙がった写真家の多くはアーティストやスタイルアイコンとしての顔を持ち、また、ファッション写真だけでなく別の視点での作家活動を行っている人物が多いのも特徴だ。
フレイリー美術学部長は写真家や学生たちのトレンドについて、「ファインアートの世界ではかなり民主的な空気があるのに対して、ファッションとコマーシャル写真の世界では女性写真家たちが本領を発揮できていない。ファッション写真における最も大きい特徴は、ジェンダーの境界線の曖昧さである。それは近頃の自然主義的な動きに起因するものだと思っている。友達の写真を撮り、遊びに繰り出して、本物だと思えることをする。先に名前を挙げた写真家たちや学生たちの作品で見えるのはそういった部分だ。ここ数十年、次々にトレンドが発生し続けている。巧妙さか、リアルさか――時代はその二つの狭間を行き来しているように思える」と述べている。
「WWDジャパン」9月10日号では、上記の写真家だけではなく、多様な側面を持つ写真家を紹介したのでぜひ手に取ってもらいたい。